txt:手塚一佳 構成:編集部
ライカSLシステム"Lマウントアライアンス"交換レンズ体験会
既報の通り、ライカプロフェッショナルストア東京の「ライカSLシステム"Lマウントアライアンス"交換レンズ体験会」が開催された。
同イベントは、パナソニック・シグマの"Lマウントアライアンス"各社の協力で、ライカSLシステムと各社レンズを組み合わせて検証できるほか、各種ライカ交換レンズ、テザリング環境(Capture One/Lightroom)、外部収録機(ATOMOS、DJI RS 2)も会場に用意され、それぞれの組み合わせでの体験ができる。SDカードや自分のLマウント機材の持ち込みも可能。
このイベントは、2021年2月19日~21日の3日間開催され、コロナ対策のため完全予約制で、1時間毎に原則1組~ごく少数のみのゲスト参加となった。つまりコロナ禍の影響で「二十数本のLマウントレンズを自分たちだけに貸し切りで1時間使い放題!」という平時にはあり得ない豪快な企画となっているのである。1組だけの参加という事もあって感染安全性も高く、これに参加しない手はない!
実際に参加してみると、まず、その本数に圧倒されるが、実はこれでもLマウントレンズの一部だという。言われてみれば比較的新しいレンズを中心に揃えられていて、Lマウント初期のレンズはVARIO-ELMARIT-SL 24-90mm f/2.8-4 ASPH.くらいなものだろう。
それでも、1時間弱という与えられた枠の中では到底全てを試すことはできないほどの本数が並んでいる。Lマウントのレンズの揃いの充実を強く実感する風景だ。当たり前の話だが、3社で公式レンズを出すというのは公式レンズの揃う速度が3倍という事だ。数少ない公式レンズと互換性に不安のある多数のサードパーティレンズという環境に慣れてしまっているが、本来はこのように多くの公式レンズが選べるようにするべきだろう。
3社各社共になかなかに特徴のあるレンズが出ていることが一目でわかる。このように実際に触っていると、自分が思い込んでいるレンズの特性と実際のレンズとのズレにまず気がつかされる。
例えば、ライカSL系レンズは絞りが電気式であるため玉ぼけ(レンズフレア)の形のコントロールがよくユーザー間の話題となるが、実はこれがライカ本家よりシグマの方がなめらかな円に近いなどの発見がある。これは、常用で解放で使うこと前提のライカと、常用ではF5.6程度まで絞って使うこと前提のシグマとの姿勢の違いであり、メーカーの個性が知れて面白い。
また「高いレンズは基本的にいいレンズ」「新しいレンズほど光学解像度が高い」というのは絶対の真理だと言う事にも気がつかされる。
私は持ち込み機材として、愛機SL2-SとVARIO-ELMARIT-SL 24-90mm f/2.8-4 ASPH.を持ち込んだのだが、自分の愛用の高級レンズが光学解像度では最新のリーズナブルなレンズ群に明らかに負けていることに衝撃を受けたし、かといって描写や味は値段相応にまだまだ圧倒していることに安堵もできた。
こうして、自分の機材やSDカードを持ち込んでレンズを試す機会というのが本当に大切であることがよくわかる。カタログスペックはあくまでもカタログスペックであり、実際のところは触ってみないとわからない。
フルサイズセンサーのことをライカ判と呼ぶくらいで、ライカの50mm、35mmレンズは全てのフルサイズカメラのリファレンスとなるレンズである事に異論はないだろう。そうした本物のリファレンスレンズと比較しながら、Lマウント群のレンズたちがどういった特性を持っているのかを体験できるのは、他メーカーのレンズユーザーにとっても大きな魅力のあるイベントだろう。
もちろん価格相応にLeica APO-SUMMICRON SL f2/35mm ASPH.とLeica APO-SUMMICRON SL f2/50mm ASPH.は凄いのだが、他のレンズもなかなか独自の特徴で個々の価値を確立しているのがよくわかる。例えば、SIGMAのIシリーズのSIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporaryは、写りや光学処理などはリファレンスにやはりどうしても遠く及ばないものの、その軽さと先進機能では勝っているし、何よりも価格が安い。常用レンズとしてレンズキャップ代わりに付けるのはアリだな、と思わせてくれた。
反対に、このSIGMAの安価なレンズに触れることによって、本物の標準たるLeica APO-SUMMICRON SL f2/35mm ASPH.の意味も自分の中でまた鮮明になった。やはりこれが全てのフルサイズ35mmレンズの頂点であり、世界最高峰なのだと理解できる。
また、そもそもの元祖SLレンズであるLeica VARIO-ELMARIT-SL 24-90mm f/2.8-4 ASPH.も、これがLマウントシリーズというカメラの基本となる標準ズームである事も確認ができた。絞りがズームと共に急変化するので動画には使いづらいが、大黒柱のような安心感のあるレンズだと言えるだろう。
なお、このイベントの初日は、ライカの新作SLレンズ Leica APO-SUMMICRON-SL 1:2/28 ASPH.の発表日でもあった。発表日当日という事もあり実機展示こそなかったが、会場においてもチラシなどでその性能が告知されており、同じLeica APO-SUMMICRON-SLシリーズから性能を想像することができた。この新作レンズのリリース後も、ぜひこのイベントを開催して欲しいと強く願った。
このように、実際にレンズに触れられるというのは本当に大切だ。思ったよりもレンズというのは個性が強く、その用途が考えられていることを実感することができる。また、メーカーにとっても、実際のレンズにどれだけの工夫が凝らされているのかをユーザーに一発で理解してもらえる機会はなかなか貴重だろう。
もちろん、これはメーカー側にとっては直接的にレンズの力を比較して試されてしまう恐ろしいイベントではある。しかしそれを何の遠慮もなしにさらっとこなせるのが、ハイエンドフルサイズカメラシステムであるLマウントアライアンスの底力と言える。
いずれのレンズも何らかの意味で世界の頂点である自信作ばかりだからできるイベントだ。コロナ禍の中でゲストが基本的にごく少数という事で、緊張を強いられるのではないかとか、売り込みが強烈なのではないかという不安があったが、全くそんなことはなく、Lマウントユーザーのテーマパークとでも言うべき密度の濃い1時間を過ごすことができた。
なお、本イベントはすでに満員で終了したが、参加の要望が多いため、別日程での追加開催も考慮しているという。こうしたコロナ禍の中での新しいカメライベントの形を感じさせるフレキシブルな形態も、また、Lマウントの発展性を強く感じさせるのではないだろうか。