(写真左上)本町駅(右上)天満橋駅(左下)東梅田駅(右下)なんば駅
txt:江口靖二 構成:編集部
デジタルサイネージのメジャメントに対する取り組み
大阪メトログループの広告事業主体である株式会社大阪メトロサービスは、大阪メトロのデジタルサイネージを対象にした、他メディアと比較可能な評価指標策定のためのオーディエンス推計の基本的な考え方を整備したと3月23日に発表した。
PRONEWS的ではないかも知れない内容だが、デジタルサイネージのトレンドとしては絶対に外すことができない動きである。さらに今回は広告を中心とした例であるが、このようなメジャメントの動きは、広告に限らずすべてのデジタルサイネージでも同様になっていくことはもはや確実である。
今回の大阪メトロの取り組みは当コラムでも取り上げた、一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)が発行した「オーディエンスメジャメントガイドライン」に則った内容で、ガイドラインへの対応状況を詳細に提示し、自社媒体におけるメジャメントの数値化と透明化への取り組みである。
大阪メトロは、⼤阪市内を移動する多くの人にリーチ可能なメディアではある⼀方で、データに基づいた広告配信とその結果に関する説明ができておらず、他メディアとの横断的な比較を困難にしていました(今回のプレスリリースよリ)。
とあるように、デジタルサイネージは全般にメジャメントに対する取り組みが最も遅れている映像媒体である。インターネット広告では、画面上への1回の広告表⽰が1人のユーザーへの視認機会とみなされ、表示される広告の面積と表示時間から「ビューアブルインプレッション」が定義されることはご承知のとおりだ。
それに対して、デジタルサイネージ広告は「1対多」のメディアであるため、1回の広告表⽰を複数のインプレッションとしてカウントする必要がある。そのため広告がターゲットにどのくらい届いているかを知りたいという広告主の要望に応えるためには、広告を⾒ることができる視認可能者のうち、どのくらいの人が広告を実際に⾒ているかを何らかの方法で把握する必要がある。そしてその方法はこれまで容易ではなかったが、テクノロジーによってそれが可能になってきた。
大阪メトロのオーディエンス推計の基本的な考え方
一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムが策定した「オーディエンスメジャメントガイドライン第1版」では、オーディエンス状況を図1のように定義している。
4階層の内容は次のとおりだ。
- 媒体設置場所トラフィック
媒体設置場所に滞在している、すなわち駅にいる人といった広範囲でスクリーンやスクリーンの視聴とは無関係の状態 - スクリーントラフィック
スクリーン視認エリア内に滞在している、すなわちスクリーンを見られる場所にいる人のこと - スクリーンオーディエンス
スクリーン視認エリア内に滞在し、スクリーンを視認する人。ここには時間の概念がない - 広告ユニット単位の平均オーディエンス
スクリーン滞在エリア内に滞在し、スクリーンを視認した状態で一定時間が滞在した人
これを受けて大阪メトロは、交通広告ではひとつのエリアに複数のスクリーンが設置されている場合が多いので、スクリーンをエリアと置き換えて
- スクリーントラフィック→エリアトラフィック
- スクリーンオーディエンス→エリアオーディエンス
と定義している。大阪メトロが定義する4階層の詳細内容は以下の通りだ。
- 媒体設置場所トラフィック T
対象媒体を設置している駅利用者数 - エリアトラフィック T(area)
対象媒体を設置している付近の改札機利用者数をもとに推計 - エリアオーディエンス A(area)
エリアトラフィックにエリア視認率(=設置エリア内のスクリーンを少なくとも1面以上視認する割合)を掛け合わせることでエリアオーディエンスを推計 - 広告ユニット単位の平均オーディエンス A(unit)
エリアオーディエンスに広告ユニット視認割合(=ロール時間に占める広告視認可能時間の割合)を掛け合わせることで広告ユニット単位の平均オーディエンスを推計
ここでの広告ユニット視認割合は、視認エリア通過時間と広告ユニット長およびループ長を用いて以下のとおり算出する。
r(unit)=min{(t(area)+t(unit)–2)/t(loop),100%}
ただし、t(area):視認エリア通過時間、t(unit):広告ユニット長、t(loop):ループ長とする
また、駅などでは複数のスクリーンが連続的に設置されるケースが多い。そこで前述の視認エリア通過時間は、視認可能距離dを歩行速度(時速4km)で除することで算出する。このとき視認可能距離は図2のとおり媒体設置範囲と最手前スクリーンまでの視認距離の合計とし、最手前スクリーンまでの視認距離は次式により算出する。
d=15*x
ただし、d:最手前スクリーンまでの視認距離、x:スクリーンの対角線長とする
また、任意の広告ユニットに対する1エリアあたりの総インプレッションは、広告ユニット単位の平均オーディエンスに対してエリア内のスクリーン設置面数とスクリーン視認率(=エリア内の総面数のうち視認される面数の割合)を掛け合わせることで以下のとおり定義される。
imp(unit)=A(unit)*n(screen)*p(screen)
ただし、imp(unit):任意の広告ユニットに対する1エリアあたりの総インプレッション、n(screen):エリア内のスクリーン設置面数、p(screen):スクリーン視認率とする
各指標の算出に用いるパラメータの整備区分と整備に使用するデータベースは図3のとおりだ。
※1 オーディエンス推計にあたっては、匿名加工情報のみを使用し、個人の行動履歴追跡等は一切行わない
※2 Osaka Metro Group;デジタルサイネージを対象としたアイトラッキング調査を実施(2021/2/1発表)
このように、複数のスクリーンを設置している状況における、人の歩行距離と時間、ディスプレイとの距離や大きさというパラメーターを元にして、オーディエンス推計を図式化、数式化したことは画期的である。
実際のインプレッション計算例
今回のオーディエンス推計の考え方を適用した実際のインプレッション数、いわゆるアクチャルデータを算出した場合の例も示された。図4に示す淀屋橋駅の北改札降車時に視認可能な南側6面を対象とした場合のインプレッションは以下のとおりだ。
計算条件
- 対象媒体:御堂筋線淀屋橋駅 北改札前 南側6面
- 対象期間:2021年3月8日(月)~3月14日(日)
- 放映条件:15秒/6分ロール
- 画面サイズ:55インチ
計算結果
- 総インプレッション:1週間約7万imps
- 時間帯別・属性別インプレッションの分布は以下のとおり
こうしたデジタルサイネージのメジャメントの考え方を、積極的かつ具体的に示した例はほとんどないのではないだろうか。さらに大阪メトロという、鉄道系の交通広告が先陣を切ったというのもとてもいいことだ。
こうした動きがなかなか出ない理由は、デジタルサイネージも含めた屋外広告の視認状況を白日のもとに晒すことに対する恐怖と、明確な評価をすると売上が下がってしまうのではないかという思いが業界内には非常に根強い。少なくとも後者の危惧については、メジャメントしようがしまいが媒体の実態は何も変わることはない。売上が下がらないような設定を広告主と議論すればいい。
例えば100万人の乗降客があって広告料が100万円だったとして、インプレッション計測を行ったら100万impsだったとすれば、ならimps単価を1円に設定すればいいし、200万impsならばそれは単価は1円ではなく0.5円になるだけの話だと考えるべきだ。
「それは理屈だ」という声がここまで聞こえてくるが、全くそのとおりで、いまはその理屈が求められていることにこそ気がつくべきである。