戸越銀座商店街のデジタルサイネージ
このところ戸越銀座商店街のDXに関する話題を目にすることが多いので、実際に現地を体験してみることにした。戸越銀座商店街は東急池上線の戸越銀座駅、都営地下鉄浅草線の戸越駅を中心として東西1.3kmの長さの商店街である。長さでは都内最大の規模だ。
戸越銀座のDXについてはオンラインの情報では次の5つほど確認できる。
- 地域通貨
- モバイルオーダーシステム
- 商店街のデジタルサイネージ
- AIによる混雑状況の把握
- 商店街組合会員向け回覧板アプリ
商店街には全部で8台のデジタルサイネージディスプレイがあるようだが、実際に商店街を歩いてみたところ、筆者には2箇所しか確認できなかった。これは何らかの理由で稼働していないものと、商店街景観の中に埋もれてしまって気が付かなかったものが両方あるのだと思う。どちらにせよ、それなりに気をつけて歩いた結果として2台しか認識できなかった。これにはちゃんと理由がある。
これらは商店街の人流動線に対して水平向きに設置されていて、大きさは50インチ程度の筐体である。現地に行ったときは曇天だったが、晴天時にはかなり意識しないと目に入ってこないような気がする。表示されているコンテンツは、情報量や文字のサイズなどの点で通りすがりの通過時に認識することは不可能である。
ただし、これは必ずしも問題とは言えないように思う。このロケーションにおいては、デジタルサイネージで有益な情報が提供されていることが周知されるようになれば、わざわざ見ることは十分あるからだ。1.3kmもの長さのアーケードがない商店街をデジタルサイネージディスプレイで埋め尽くせればいいのだが、それは確実にコストが見合わない。つまりここでのサイネージはKiosk的な存在になるべきであり、わざわざ見に行く場所にすれば良い。
このデジタルサイネージには、商店街の広報的な情報を中心に掲出されていて、広告としては利用されていないようである。正確にはチラシのような、おそらく紙媒体がオリジナルであろうものをそのまま表示しているコンテンツを見かけた。このあたりが典型的な課題の一つで、チラシ制作に関しての業務フローや、これに関わる人々のマインド、そしてアウトプット先などがデジタル・トランスフォーメーションできていないのである。
サイネージコンテンツには、商店街に多数設置されている防犯カメラの映像を、AI解析によって通行者数をカウントし、混雑の傾向を表示するというコンテンツがある。情報更新は1週間単位のようで、前週の情報が表示されていた。残念なことに、この混雑傾向情報は現場のデジタルサイネージのみでしか確認できないようで、スマホやWebでは確認できないようである。混雑傾向の表示は、曜日と時間帯、そしてその日の天気を表示している。
ここから何かを読み解くことはなかなか大変なことで、平日の夕方と休日が混雑しているというあたり前のことしかわからない。ここではこういった結果の実データを見せるのではなく、予測的なコンテンツにしてしまった方が良いのではないかと感じた。もっともこれは、混雑状況を計測して何をしたいのかによることであり、混雑を分散化して顧客や従業員を守るのか、あるいは免罪符なのか次第だ。
モバイルオーダーに関しては、サイネージ画面の表示されているQRコードからオーダーサイト「戸越銀座モバイルオーダー」にアクセスすることができる。使い方はUberEats、出前館、Woltといった類似のサービスとあまり変わりはないようだ。ということは、もう少し広域エリアから配達される他のサービスとの差別化ポイントが欲しい。
例えば地域通貨による決済という話になるだろうが、地域通貨については現在100人ほどの実証実験の段階のようで、単なる来街者の筆者にはそれを感じることはできなかった。地域通貨はさるぼぼコインのように徐々に地域に根づきつつある事例も出てきているので、これからに期待である。
規模の大きな商店街の多くは、組合が複数に分かれていることが多く、戸越銀座も戸越銀座商栄会商店街振興組合、戸越銀座商店街振興組合、戸越銀座銀六商店街振興組合の3つの商店街振興組合から構成されている。ということは様々な調整で非常に苦労が多いことが想像できる。こうした事例をいくつか見てきたが、調整にかかる事務方の皆さんの苦労は並大抵ではないはずだ。
ここまで戸越銀座商店街の魅力について言及してこなかったが、とてもいい商店街である。特に食べ歩きには最高だ。実際に歩いてみて感じたのは、肉、野菜、魚のような市場的な商店街というよりは、買い物や食べ歩きが楽しい商店街のように思う。すでにデートっぽい感じの層もたくさん来ているので、既存のファシリティーをさらに連携させていけば、DXのためのパーツは全て揃っている。
一般社団法人戸越銀座エリアマネジメントあたりが中心となって、都内の大学とプロジェクトを組むといいのではないだろうか。その時に鍵を握るのは、事実上唯一のアクセスラインである東急と都営地下鉄という2つのゲートウエイであるはずだ。