日本の広告費2021年
今年も毎年電通が集計している「2021年 日本の広告費」が先日公開された。総広告費は前年比で10.4%増と2桁の伸びを回復。2020年が11.2%減であったのでなんとかマイナス分を取り戻したといったところだ。この中でデジタルサイネージはどうだったのかを、公開データを参照しながら考えてみる。
最初に2021年日本の広告費のうち、主要なものの概要は次のとおりだ。
マスコミ四媒体広告費
- 新聞広告費 3,815億円(前年比103.4%)
- 雑誌広告費 1,224億円(前年比100.1%)
- ラジオ広告費 1,106億円(前年比103.8%)
- テレビメディア広告費
◇地上波テレビ 1兆7,184億円(同111.7%)
◇衛星メディア関連 1,209億円(同103.1%) - インターネット広告費
インターネット広告媒体費 2兆1,571億円(前年比122.8%)
地上波テレビ広告費は前年比で11.7%増と大幅に回復した。一方インターネット広告は22.8%をテレビの2倍の増加である。これはよく見かけるこの推移のグラフで分かる通り、ネット広告の著しい伸びがコロナによってさらに加速したということだ。
デジタルサイネージの広告費推移
ではデジタルサイネージの広告費はどうか。デジタルサイネージは広告以外にも販促やインフォメーションなどの用途があるのはもちろんだが、2021年のデジタルサイネージ広告費の状況を見てみよう。
電通が発表する「日本の広告費」では、デジタルサイネージはプロモーションメディアというカテゴリーに分類されている。プロモーションメディアはさらに屋外広告、交通広告、折込、DM(ダイレクトメール)、フリーペーパー、POP、イベント・展示・映像ほかの8つに分けて集計される。
デジタルサイネージは単独で分類集計されておらず、屋外広告、交通広告、POP、イベント・展示・映像ほか、の各4カテゴリーの中に分散して集計されている。そのため公開されるデータからデジタルサイネージの金額を明確に確認することはできない。以下にこれら4カテゴリーの金額とその解説を転載する。
屋外広告 2,740億円(前年比100.9%)
- 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の解除に伴い、外出自粛が緩和され人流が回復した。出稿控えも全体的に和らぎ、ファッション・医療・エンターテインメントなどの業種を中心に広告需要が回復した。
- 長期看板は、繁華街に設置された大型媒体では需要があったが、それ以外の媒体では鈍い状況が続いた。
- 短期看板や短期ネットワーク看板、屋外ビジョンは、繁華街において大型で目立つインパクト型OOH媒体※に需要が集中し、増加した。特に、3Dコンテンツ放映が話題となった。
※大型サイネージ、大型ボード。
屋外広告は前年比で100.9%と微増だ。コロナの影響による人流の減少がやや落ち着いたことがその理由だ。中でも人流が多い都市部の大型ビジョンに需要が集中したとのこと。東京でいえば渋谷や新宿ということだろう。「インパクト型OOH媒体」と表現されている、本コラムでも取り上げている3Dコンテンツ(3Dの巨大猫)の例を紹介している。
しかし3D巨大猫は少なくとも2021年時点では広告として売上が立っているものではなく、イメージキャラクターとして媒体のPRコンテンツという位置づけだ。それ自体の売上ではなく、その圧倒的な話題性を呼び水にして広告出稿が集まった。逆に言うと、人流が少ない場所のインパクトのない媒体は苦戦を強いられたということだ。
交通広告 1,346億円(前年比85.8%)
- 鉄道は、ポスター、デジタルサイネージともに、ネットワーク系媒体※よりも主要駅で人流が多いロケーションに設定された大型で目立つインパクト型OOH媒体に需要が集中した。駅構内は、全体的に減少したものの、全国的に大型デジタルサイネージは前年を上回った。車両内は、人流の減少に伴い、通常だと年間出稿の需要が多いステッカーは大きく減少したが、キャンペーンに合わせたスポット出稿は増加した。
- 空港は、外国人入国制限により旅客数が回復しなかったこともあり、国際線は前年より減少した。国内線は、緊急事態宣言等に伴う移動制限が解除されてからは、わずかに回復した。
- 東京2020オリンピック・パラリンピックは主に無観客開催となったものの、主要駅、競技場最寄り駅では出稿があった。
- 業種別では前年同様、飲料系は減少しているものの、ゲーム、美容、SNS動画配信、クラウドサービス、デリバリー系は堅調だった。
- タクシー広告は、サイネージ搭載車の増加もあり、ラッピング広告を含め前年に続き増加した。
※全線中づり、主要駅の駅サイネージネットワーク、主要駅の駅ばりネットワーク。
交通広告は前年比マイナス14.2%と大幅な減少である。さらにその中身も屋外広告と同様に、主要駅で人流が多い場所の「インパクト型OOH媒体」に需要が集中した。交通広告は言うまでもなく乗降客数や人流の減少の影響も最も強く受けた格好になる。空港、特に国際線は壊滅的と言っていいだろう。
こうした猛烈な逆風下において、オリパラ関連が若干のプラス要素。しかしながら無観客開催のため期待値を遥かに下回る結果となっただろう。
その中で唯一好調だったのがタクシーサイネージだ。好調な背景として強制視認性が高い、繰り返し訴求ができる、ビジネスの決裁者向けの訴求ができる、富裕層向けの訴求ができる、時間帯ごとに広告を変えられるといった理由が挙げられている。
確かにそうなのだが、タクシーのサイネージはこれが何度目の正直なのかと思うほど、ここまで屍累々であった。媒体特性や承認者属性は昔からほとんど変化していないにもかかわらず、最近出稿が好調な理由は何か。
それはネットワーク化による素材やプレイリスト更新が容易になったこと、タブレット利用による大画面化と低コスト化などによって台数(面数)が大幅に増加している点が大きい。こうした中で、おそらく今回大きく伸びている最大の理由は、インターネット系のメディアレップが商品化して販売しているためだ。
一部カメラセンシングによる素材の出し分けなど、媒体価値の向上を狙う工夫もあったが、プライバシー問題などの対応に問題があり現在ではほぼ行われておらず、視聴ログのアクチャルデータも収集していない。この事例はセンシングサイネージと呼ばれるものにおいては十分にベンチマークする必要があると思われる。
POP 1,573億円(前年比94.9%)
- 前年に続き各種集客イベントや店頭販促プロモーションが自粛となり、メーカー販促ツールの導入も見送られるなど、POP(店頭販促物)の減少につながった。
- 一方で、店頭DX施策※が数多く行われた。リアルな場での貴重な接点となる店頭では、さらなる顧客体験を高める手法として、デジタルサイネージの導入や、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用したPOPも見られた。
※タッチ&トライデータ、購買導線データ、AIカメラ等による視聴者数・属性調査など、データ取得や分析についての試み。
POP(Point of Purchase)も前年比マイナス5.1%と大きく減少した。これもコロナによる集客施策の自粛によるもの。こうした状況下では、オフラインとオンラインの接点として、オンラインの巣ごもり需要とオフラインのリアル体験の接点づくりへの挑戦が続いている。
コロナ収束以降に向けて、オンラインはバーチャルではなく、オンラインこそがリアルであるという世代の増加や、消費行動の変化にどう対応できるかが大きな鍵を握っている。
イベント・展示・映像ほか 3,230億円(前年比93.0%)
- コロナ禍による影響が継続し、前年を大幅に下回った。
- 「東京モーターショー」や「東京マラソン2021」の中止・延期などがあったものの、東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されたこともあり、イベント領域は1,372億円(前年比126.0%)と増加した。
- 展示領域では、文化施設や百貨店、オフィスの改装需要などが増加したものの、複合型商業施設、企業PR施設、テーマパークなどのエンターテインメント施設は、感染拡大に伴う経済活動の停滞により計画の見直しや集客関連の設備投資抑制を受け、大きく減少した。
- 映像関連は、オンライン展示会やウェブ講演会・セミナーなどに付随する配信動画、商品サービス紹介などの制作需要が増大した。
- シネアド(シネマ・アドバタイジング)は、上半期は緊急事態宣言による休館などで低迷したが、下半期にはラグジュアリーブランドなどの需要が急回復した。
総括
言うまでもなく、イベント関連も2021年は壊滅的状況だった。そうした状況で前年比マイナス7.0%というのは、オリパラのプラス要因が大きい。直接デジタルサイネージと関係はないが、オンラインイベントやウェビナーなどの急激な需要増により、オープニングやエンディングの映像、商品紹介の短いビデオのような簡易な映像制作の市場は大きく拡大している。
これらは数は多いが予算規模も制作プロセスも、あらゆる点でテレビ番組やCM、従来型のVP(ビデオパッケージ)を制作しているような企業では太刀打ちできないような安価な制作費であるのが実体である。
このようにデジタルなOOH(Out of Home)媒体であるデジタルサイネージは、コロナの逆風をもろに受けている状況である。前述の通り、広告だけが用途ではないものの、街にいる人を対象としている以上、このままではまだ暫く続くであろうコロナの影響に対しての対応が今後も求められることになる。
結局多くのデジタルサイネージは人の数が多いことが正義という図式であるからだ。この構造を見直し、それに依存しない新たな文脈に挑戦する必要がある。それは前述したように、また前回の本稿でも述べたように、オフラインがリアルになる世界において明確な役割を提示することである。