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「ホワイティうめだ 200シーリングビジョン」運用開始

大阪駅のある梅田エリアは、関西のデジタルサイネージのメッカである。ここに今年3月に新しいデジタルサイネージメディアが誕生した。今回はこのWhityうめだの事例を紹介したい。

Whityうめだは、梅田の各駅と施設と街を連絡する機能を有し、1日約40万人を超える来街者が訪れる日本最大級の複合商業地下街だ。その都心生活者の日常と緊急時におけるリッチな情報提供を行うことにより、より安心・安全で豊かな都市生活空間の創造を実現する目的で、地下街天井部を中心に204面のデジタルサイネージ「ホワイティうめだ 200シーリングビジョン」が運用を開始した。

平常時は、日本でも有数の媒体接触可能人数であり、デジタルサイネージの設置台数としては日本で最大級の規模であることから、ニュースと天気予報を配信するほか、Whityうめだからのお知らせや広告・プロモーション媒体として幅広い生活情報媒体として運営されるとのことだ。

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遠くにあるディスプレイまで見通せる
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天気予報
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ニュース

また地震・水害など非常時の情報展開においては、視覚化して的確に情報伝達するための装置として、Lアラート情報を自動的に配信できる。また非常放送設備、自動火災報知設備、緊急地震速報との連携により、火災・地震などを自動切り替え表示するほか、現場の操作PCからマニュアル操作により、火災発生・避難情報を多言語化して発信する事も可能となっている。さらに、停電時は、2次電源で効率的に情報を発信。地下街全域に的確な情報を伝達可能な仕様となっている。

では実際にWhityうめだを歩いてみた動画を見ていただき、現場におけるメディア接触の状況を想像していただきたい。

実際に歩いてディスプレイがどう見えるのかを疑似体験していただきたい

204面のデジタルサイネージ、最大限に活かすには

これだけの面数のディスプレイが地下街の広範囲に設置されていると、その視認性は非常に高い。Whityうめだは非常に広範囲に広がる地下街なので、204面あってもすべての通路をカバーしているわけではないが、主要な通路を歩いていると必然的に目に入ってくる非常に強力な媒体となっていることは間違いない。こうした環境や媒体特性を最大限に活かして、個々を歩く人に有益な情報を効果的に表現する可能性はまだまだ検討や試行錯誤の余地が高いと感じた。それらをいくつか指摘してみたい。

クリエイティブ表現をもっとシンプルに

デジタルサイネージのコンテンツにおいてありがちなことだが、ここを歩いている人はデジタルサイネージを視聴する目的を持っているわけではない。そのためにテレビやWebのように、意思を持って視聴しているメディアとは異なる表現が求められるはずだ。非常に細かい文字を歩きながら認識させるということは不可能なのである。ここで実際に表示されていたいくつかのコンテンツは、内容を理解できるかというと疑問に思われるものもあった。それらは文字が小さく、情報量が多すぎるのである。

「えっ!?」のように真っ赤な背景に大きな白抜き文字くらいに徹底的にシンプルにするような表現が効果を発揮するはずだ。あとはせっかく32インチが左右2面に並んでいるのだから、左右で色を変えるだけでもそのインパクトは大きくプラスに作用すると思われる。

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文字が小さく、何の情報なのか一瞬で理解できるだろうか
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これくらいシンプルかつ割り切った表現でちょうどよいのではないか

ディスプレイごとに独立したSTBを活かす

シンプルにするというのは、視認性や理解を深めてもらうための表現手法だと思うが、設置状況をよく見ると、1面ディスプレイに対して1台のSTBが接続されている。多くのデジタルサイネージは、すべてのディスプレイの映像ソースが同じであるので、ディスプレイ単位で表示内容を変えられないことが多いが、ここでは極論すれば204面をすべて異なるものを表示することも可能なはずである。

だとすれば、一定時間Whityうめだを通過している人に、この特性を活かさない手はない。奥から手前に順番に迫ってくるようなクリエイティブである。2014年の事例であるが、品川駅の自由通路に設置された44面のディスプレイで、フィギュアスケート浅田真央選手がこの連続するサイネージ間を選手がジャンプなどの演技をしながら滑り抜ける姿を放映した。ここまでではなくても、他のメディアではできない表現を追求してもらいたい。

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1ディスプレイに対して1台STBが下部裏側に接続されている
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天井高の制限をクリアしてできるだけ大きな画面(32インチ)にするために裏表にV字型で設置されている

地下街という街における情報

Whityうめだの来場者40万人の多くは、近隣の自身も含めた商業施設、飲食店、オフィス、学校などに向かう人達だ。正確な比率はわからないが、これらの多くはリピーターであり、それも毎日来る人も多い場所だ。更に視認性が高いがゆえに、コンテンツは常に変化していかないと飽きられてしまうという嬉しい悩みがあるだろう。筆者も30分ほど歩き回ったのだが、同じものを何回も見てしまうということが起きてしまう。

そして彼らはこのエリアの住人、それは家があるという意味ではなく暮らしの一部となっている人たちが多いはずだ。彼らにとって有益な情報とは何か。これを徹底的にリサーチするべきだろう。

デジタルサイネージにおいてニュースや天気予報以上のキラーコンテンツは実は「時計」である。属性に関わらず、時間を気にしない人はいない。腕時計をする人が減っている現状ではなおさらである。そこで時報コンテンツを30分おきに放映するのはどうだろう。もちろんそれはWhityうめだ、または大阪に関連するクリエイティブがいい。阪神タイガースもあるかもしれない。

実はこのWhityうめだのすぐ近くにあるEST(エスト)という商業施設の長い通路に、同様のディスプレイが設置されていた時期がある。2009年頃の話だ。残念ながらこのサイネージはいつの間にか撤去されてしまった。来場者の動線に沿った連続視認が可能である点では同じであったが、メディアとして運用の継続は叶わなかった。Whityうめだは強力なメディア特性を最大限利用して、ここを行き交う1日40万人もの人達に愛されるメディアに育ってもらいたいと心から思う。

「ホワイティうめだ 200シーリングビジョン」の媒体資料はこちらをご覧頂きたい。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。