ワーケーションという言葉の意味はともかく、心地よい環境で仕事をするのはとても大切だ。ワーケーションはすべての職種や業種で実現できることではないが、普通の旅行としてものんびりした船旅はおすすめだ。そこで2021年7月に就航した東京九州フェリー(新門司→横須賀)を試してみたので、船内サイネージのレポートをしてみたい。

実は筆者、この航路の利用は今回で3回目である。個人的にはそれくらい気に入っている。東京九州フェリーは神奈川県の横須賀港と福岡県の新門司港を結ぶ航路で、上り下りどちらも深夜24時頃に出港して翌日21時頃に到着する。運行は「はまゆう」と「それいゆ」の2船体制で、これらは基本的に同じ船体である。

フェリー船内のデジタルサイネージ

それでは船内のサイネージを見ていこう。最初は航路情報と道路情報を中心としたサイネージである。4Fのエントランスホールに設置されていて、どこからでもアクセスしやすい。メインの表示内容は現在位置情報だ。長距離フェリーに乗っている人にとって最も知りたい情報は、「いまはどこにいる?」「あそこに見える島は?」という位置情報である。

スマホアプリに「MarineTraffic」という飛行機の位置情報がわかる「Flightradar24」の船舶版のようなアプリもあるが、このサイネージと船室内にテレビがある部屋では自船の位置情報が常に表示される。

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4Fエントランスホールに設置された位置情報サイネージ
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室戸岬の沖合を航海中

長距離フェリーなのでトラックドライバーや一般客で車を搭載している人が多い。彼らにとっては到着地から先の道路状況が気になるだろう。そういったニーズに答えるために、ハイウェイ交通情報が提供されている。これらはスマホで見られると思うかも知れないが、陸から離れた沖合いでは携帯電波を掴まないことも多い。

船内ではWi-Fiが利用できるものの、これも上流が携帯ネットワークのようなので自分のスマホと接続状況はあまり変わらない。サイネージは何らかの方法で安定して通信ができているようである。

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関東エリアのハイウェイ交通情報が提供されている。情報源はインターネット上のこちらのNEXCOのサイト

船内案内のインタラクティブパネルが5Fレストランフロアに1面設置されている。エントランスホールの次に中心的な場所である。コンテンツは商業施設にあるようなものに似た内容で、船内マップや船室検索ができる。ただ実際には検索したいようなことはあまりないので、実用的とは言えないように思う。なお全く同じものはスマホで船内Wi-Fiに接続すると、通信状況に関わらずWeb経由でいつでも見ることができる。

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5Fのフロアガイドサイネージ
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トップ画面
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船室検索をした結果
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レストランのメニュー

レストランの入り口壁面にはディスプレイが2面設置されている。左が料理の写真で右が主要なメニューである。注文はすべて席に設置されている端末から行う。こうした端末を最近飲食店でよく見かけるようになってきたが、時々使い勝手の悪いものに出くわすことがある。その点ではこの端末は使い勝手が良い。

ただ残念なことに他の多くの例と同様に決済まで行うことはできない。決済は出口付近にあるセルフレジで行う。なお料理はすべてとても美味しく、金額はファミレス並みと思っていただければよい。

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レストランのエントランス
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レストランのオーダー端末

4Fエントランスホールにはサイネージ、というより大画面ディスプレイによるテレビ放映が深夜1時から午前8時を除いて音声付きで行われている。表示されているのはNHK BSだ。どのような受信契約と権利処理が行われているのかはわからない。

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84インチと思われる大型テレビ

喫煙ルーム内ではエントランスホールのサイネージと同じ位置情報が表示されている。

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喫煙ルーム内のディスプレイ

ちょっとユニークでフェリーならではとも言えるのが、プラネタリウムや映画を上映するスクリーンルームがあることだ。かなり広いスペースで寝転がって見られるようになっている。映画はプロジェクターで、プラネタリウムは部屋の中央に設置されている「MEGASTAR CLASS」を使用している。これは100万個の星が投影可能で、実際に見るとかなり高精細で満天の星を体験することができる。

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スクリーンルーム
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MEGASTAR CLASS(公式サイトの東京九州フェリーの納入事例より)

フェリー全体の紹介も

せっかくなので本稿の趣旨からは外れるのだが、ここからはデジタルサイネージ以外に船内の客室や施設を紹介しておきたい。

運賃については新門司から横須賀までが12,000円で、運賃のみでカプセルホテルのような空間(ツーリストA、定員1名)が利用できる。さらに一室あたりそれぞれ6,000円(ツーリストS、定員1名)、32,000円(ステート、最大4名)、48,000円(デラックス、最大2名)の追加料金でホテルのような個室も選択できる。もちろんカーフェリーなので車を持ち込むことができ、車両運搬料金が別途3~4万円必要。これには一人分の運賃(12,000円)を含む。

ツーリストAであっても船内の快適なパブリックスペースで過ごす時間が長くなるので、特に問題ないのではないかと思う。

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運賃だけで利用できるツーリストAのベッドスペース。ロールスクリーンを下げるとプライバシは確保できる
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シティホテルのツインルームと同じくらいの広さのステートは1室32,000円。シャワーブースも備わっている

そしてこのフェリーの一番のオススメは風呂だ。特に露天風呂とサウナだ。強くお勧めする理由は、下記の動画にすべて集約されている。

心地よい潮風を受けながら海上を進む船でのんびりと風呂に入る。クルーズ船ならジャグジーやプールもあるが本船はあくまでも露天風呂。もちろん裸でOKなのでその開放感は半端ではない。因みに本船は28.3ノット、時速50km強で高速巡航できるので「世界最速の露天風呂とサウナ」らしい。

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風が心地よい船上の露天風呂
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屋内風呂
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サウナルーム
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サウナからは大海原が見渡せる

最後にお役立ち情報を2つ。基本的に東西移動の航路なので、上り下りで日当たりや見える景色が180°変わることになる。東海道新幹線で富士山がどちらに見えるかと同じだ。そこで気になるのが露天風呂からの景色だ。下の2つの航路図と船内図を見てもらいたい。

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進行方向により男女の浴室の位置が南北で変わる

これは横須賀行きの場合だが、左舷側が北側になる。ということは女性用の風呂は常に北側=陸側になる。日焼けを嫌う向きには好都合だろう。一方の男性用は常に南側=太平洋側ということになるので日光浴には最高の環境となる。浴室の男女の入れ替えは行われないので、逆に新門司行きでは全て逆になる。

もう1つは船室の選択についての情報。北側のメリットは陸上の携帯電波を掴みやすいということ。船室で過ごす時間が長い場合には結構差が出る。少しでも長時間安定した通信環境を得たい場合は、北側になる部屋を選択するとよい。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。