Vol.09 中判カメラANTHOLOGY HASSELBLAD Hシステム

前回の「マミヤAFシステム」につづき、これから中判デジタルバックを使用したいとお考えの方に向けて、中判AFシステム二大巨頭の一角「ハッセルブラッド Hシステム」について簡単に解説していこう。

Hシステムは富士フイルムと共同開発のため、FUJIFILM銘で同じ製品があったり、H3D以降は一体型で他のデジタルバックが付かなかったり、これから興味を持つ方には分かりづらい部分もあると思う。検討する際に役立つ内容となっているので、ぜひ最後まで目を通してほしい。

HASSELBLAD × FUJIFILM

冒頭でも触れたように、ハッセルブラッドHシステムは日本の富士フイルム社と共同で開発された中判645サイズのAFシステムである。そのためハッセルブラッド「H1」と同じものが、富士フイルムから「GX645AF」として発売されている。

Hボディの遍歴

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HASSELBLAD H1 / GX645AF(2002年)

富士フイルムと共同開発されたHシステム初号機。フィルムベースだがデジタルバックの使用も想定されており、バックとの通信が可能となっている。
ボディ自体の完成度は高かったものの、デジタルバックとの相性問題が多々発生し、正規代理店でファームウェアを更新したり認識させるのに苦労するケースがあったようだ。

HASSELBLAD H2(2005年)

H2シリーズでは、フィルムとデジタルに対応した「H2」とデジタルカメラとして完結した「H2D」を発売。
基本的にはH1のマイナーチェンジ版であり、H2Dでは同社デジタルバック使用時の操作性が向上。カメラボディ側の電源スイッチ1つで、カメラボディとデジタルバックの電源オン/オフが可能になったり、カメラグリップのバッテリーからデジタルバックの駆動も実現している。

ちなみに、2004年にハッセルブラッドの親会社であるシュリロは、ハイエンドスキャナやデジタルカメラバックの大手メーカーのImaconを買収。ハッセルブラッドの新CEOにImaconの創設者であるクリスチャン・ポールセン氏が就任。同氏がHシステムのハイエンドデジタルカメラへ導く牽引役として活躍した。H2シリーズは、ハッセルブラッドとImaconの技術を集約した初のモデルといっていいだろう。

HASSELBLAD H3D / H3D-II(2006年-2009年)

H3Dシリーズは3年間に渡り多くのモデルが登場した。Hシステムがもっとも輝きを放っていた時代といって間違いないだろう。本モデルからフェーズワン等のサードパーティ製デジタルバックをサポートせず、良くも悪くも大反響を呼んだ。バックを自社製に絞ることでカメラボディとの連携を強化、オートフォーカスの微調整を可能にする「ウルトラフォーカス」機能や、自動色収差補正「デジタルAPO補正」の機能を搭載できたとしている。

また、2007年には自社製現像ソフト「Phocus」が登場。
レンズの種類、フォーカス位置、絞り値などの情報を現像でも反映できるようになる。撮影から現像まで一貫して自社製ツールで完結できるようになった。

HASSELBLAD H4D(2009年)

H4Dでついに645フルフレーム(53.7×40.2mm)60MPセンサー搭載機「H4D-60」が登場。これにより645フィルムと同等の画角で撮影できるようになった。機能面では、焦点を合わせた後にカメラの動きを測定してコサイン誤差を補正する「True Focus」の搭載がシリーズの目玉となった。
H4Dを発表後、Hシステムを牽引してきたCEOのポールセン氏は退社。ラリー・ハンセン氏がCEOに就任してハッセルブラッド社は方向転換を行う。ハッセルブラッドはソニーのミラーレスカメラをベースに付加価値をつけた高級カメラへシフト。ハンセン氏就任で、Hシステムの進化スピードは鈍化する。

HASSELBLAD H5D(2012年)

H5Dシリーズではフォーカス精度をさらに向上させた「True Focus II」や、明るいビューファインダー、RAW+JPEGモードを搭載した。
4000万画素、5000万画素、6000万画素のモデルと、5000万画素と2億画素のマルチショットバージョンが登場。2014年には5000万画素のCMOSセンサーを搭載した新世代のカメラ「H5D-50c」が登場した。

2014年にハッセルブラッドはハンセン氏をCEOから解任して、イアン・ロークリフ氏がCEOに就任。ハッセルブラッドは再びHシステム中心に復帰した。

HASSELBLAD H6D(2016年)

H6Dは、2015年「ハッセルブラッドとDJIが提携」発表後の初モデルであり、Hシステム最終モデルとなった。特徴はCMOSセンサー中心のラインナップだろう。44×33mmサイズの50MP機「H6D-50c」と645フルフレーム1億画素センサー機「H6D-100c」を発売。人間工学に基づいたボディデザインに、改良された背面液晶画面、H6D-100cではHD/4K動画収録が可能となった。
また、オレンジマーク(※記事後半で解説)のHCレンズを使うと、1/2000秒の撮影が可能というのも大きな特徴となっている。

フィルムバック対応の「X」ボディ

Vol.09 中判カメラANTHOLOGY HASSELBLAD Hシステム
写真右が HASSELBLAD H5X、左が富士フイルム GX645AF

前述のようにハッセルブラッドH3D以降は基本的にデジタルバックと一体のパッケージとなっており、フィルムマガジンや他機種、他社製のデジタルバックを装着することができない。

そこでハッセルブラッドの良心とも呼べる機種が「Xボディ」である。各世代の「H4X」「H5X」「H6X」が存在し、フィルムバックはもちろん、他社製のHマウント用デジタルバックが使用可能となっている。ボディとレンズはハッセルが良いが、フェーズワンのデジタルバックを使いたいという方は、このXがついたボディを購入する必要がある。

レンズの種類

Vol.07 中判カメラANTHOLOGY HASSELBLAD Hシステム

システム初期にラインナップされたHCレンズ。

富士フイルムによる設計・製造。1/800秒まで切れるレンズシャッターはスウェーデン製(ハッセルブラッド製)ということで、こちらも共同開発されたもの。基本的にAF時にピントリングが回転せず、いつでもMFで調整ができる、いわゆる「フルタイム・マニュアル」が可能な仕様となっており、使い勝手は良好だ。

HC50mm F3.5、HC120mm F4 MACRO の2本に関しては、光学系がブラッシュアップされた2型が存在する。

※富士フイルム銘(SUPER-EBC FUJINONと併記)でまったく同じものが存在するが、残念ながら2023年現在、修理ができないので注意が必要だ。

HCDレンズ

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H3D以降のモデルに対応したデジタル専用設計で、当時の大型センサー(48×36mm)に最適化され、広角側を補う意味もあり設計された。

HCD24mm F4.8、HCD28mm F4、HCD35-90mm F4-5.6 の3本がある。

HCオレンジマーク

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四角いオレンジマークがついた新型レンズ。

レンズ設計こそ変わりないが、新型のレンズシャッターユニットが採用され耐久性もアップ。H6Dで使用時には1/2000秒まで対応している(H5D、H6X、H5Xでは1/1000秒まで)。ミラーレスのハッセルブラッドXシステムで使用する場合にもAFが動作し(HC120マクロを除く)シャッターが1/2000秒まで使えるというメリットもある(別途XHレンズアダプターが必要)。

嬉しいことに、既存のHCレンズも12万~15万円(税抜)でアップグレードが可能だ。

まとめ

2022年に販売終了がアナウンスされたハッセルHシステム。

最終モデルとなったH6Dの発売が2016年、HCレンズを設計・製造していた富士フイルムが2017年からGFXシリーズを展開していることを考えると、関係なきにしもあらず、と言ったところだろうか。

歴史を紐解けばCEO交代により翻弄された感はあるが、中判の一眼レフとしては秀逸なAF精度、レスポンスの良いレンズシャッター、クリアなファインダーと、仕事の道具としてのクオリティが非常に高いと感じた。

筆者自身はHシステムに不慣れな部分もあり、メーカーからお借りした最新デモ機だけでなく、長年のユーザーである編集部員の私物をお借りするなどしてお力添えをいただきながら、可能な限り理解を深めたつもりだ。強いて言うならば、テザー撮影時にソフトウェア面で使いづらい部分がいくつかあったが、人によっては気にならなかったり、慣れでカバーできる範囲かもしれない。

今後もHシステムを長く使うという視点で見てみると、レンズシャッターのシステム故に、1枚シャッターを切るごとにレンズ側のシャッターも消耗していくため、何としても修理の道は確保しておきたいところだ。中身は同じでも富士フイルム銘のHCレンズは修理不可となっており、同様にオレンジマークへのアップグレードもできないため、これから購入する場合は避けた方が良さそうだ。

また、Hシリーズのグリップそのものであるリチウムイオンバッテリーは、特殊形状の専用品のため、じわじわと入手が困難になっていくことが予想される。システム初期には一般的なRC123電池3本で動くバッテリーホルダー型のグリップが販売されていたようだが、デジタルバックには電源を供給できないため、H2までの一体型でない機種と、他社製デジタルバックが使用できるXボディでしか実用できないとのことだった。

多少値は張るが、生命線となるバッテリーは確保しておきたいところだ。

<ご注意ください>

業務用のデジタルバックは構造上壊れにくい面もありますが、製造からかなりの年月が経過しているものも多くあります。修理受付が終了している製品であったり、修理が可能な場合もかなり高額になるのが普通です。

機械はいつの日か必ず壊れるものです。
よく調べて自己責任の上で、もし購入する場合は返品保証付のものをお勧めします。



富永 秀和|プロフィール
1983年福岡生まれ。グラフィックデザイナーから転身した職業フォトグラファー。2013年に中古購入した中判デジタルでその表現力の虜となる。福岡のシェアスタジオで経験を積み2022年に上京。
総合格闘技(MMA)ファン。
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