ハッセルブラッドHシステム最終モデルとなったH6D-100C。2022年にHシステムの販売終了がアナウンスされ、すでに新品で購入することができない機種となったが、645フルフレームセンサーを搭載した完成度の高い最新のハッセルブラッドである。
大型フルフレームCMOSセンサー
H6Dには3つのラインナップがあり、44×33mmセンサーを採用した50MPモデルと、より大きな645フルフレームセンサーを採用した1億画素モデル、そしてマルチショット対応モデルの「H6D-400c MS」が存在する。以前の機種と違い、どれもCMOSセンサーを搭載しているのが特徴だ。
今回メーカーからお借りした「H6D-100c」では、35mmフルサイズの約2.5倍もの面積(53.4×40.0mm)があり、44×33センサー全盛の今となっては「H6D-100c/400c MS」に搭載された645フルフレームのCMOSセンサーは貴重な存在だと言えるだろう。
外観と基本性能
外観を見ていくと歴代Hシステムのデザインを踏襲しつつ、どこかシュッとしたフォルムに更新されている。グリップを握ったときの安心感や明るく大きな光学ファインダーは、ミラーレス全盛のいま新鮮ですらある。
ピントが超シビアな中判デジタルにおいて、H6DのAF性能は信頼に値するものだと思う。一眼レフカメラゆえ顔認識AFなどの機能は存在しないものの、これまでに使用した中判としては最も平均点の高いAFではないかという感想を持った。
H6Dだけのメリット
シャッターには独特のキレがあり、撮影していて気持ちが良い。通常Hシステムのレンズシャッターは1/800までの対応となるが、オレンジマーク付の新型シャッター搭載レンズにおいて、H6Dでのみ1/2000の高速シャッターを実現している(H6X、H5D、H5Xではオレンジマークのレンズを用いても1/1000秒まで)。このクラスのカメラで絞りを開けて高速シャッターを切るケースはそう多くないとは思うが、選択肢が増え、自由度が上がるのは間違いなくプラスである。
インターフェイス
タッチパネル式の大きな液晶画面とその下に並ぶ物理ボタン。メニューはピクトグラムのアイコン表示。普段はカメラの露出設定が大きな数字で表示され、視認性は抜群だ。
記録メディアはC-FastとSDカードのデュアルスロットだ。発売当初に話題となった4K動画が記録できるのはC-Fastカードのみとなっている。
このカメラを動画のために買う人はいないと思うが、個人的に動画性能が気になり、カードを借りてテストはしてみたものの、細かい仕様上の問題もあり、実用にはかなりの手間がかかりそうだった。やはりスチル用途での完成度が目を引くカメラである。
RAWファイル形式
筆者はハッセルブラッド歴が非常に浅く、既存ユーザーにとっては当たり前のことでも、使ってみて驚くことが多くあったのでその点にも触れておきたい。
パソコンと接続せずカメラ単体で撮影したRAWデータ(3FR)は、純正ソフトウェア「Phocus」でそのまま編集することができず、ソフト上で(fff)に変換する必要がある(Lightroomではそのまま編集可能らしい)。Hシステムはスタジオ用という印象の強いカメラではあるが(3FR→fff)変換にはそれなりの時間がかかるので初めは驚いた。また、パソコンとのテザー撮影時には、最初から(fff)形式で撮影されるありがたい仕様となっている。
実写サンプル
散歩のついでに試写へ向かう。
カメラの起動に12秒ほど。同世代の他社デジタルバックとほぼ同じくらいだろうか。H6Dはデジタルバックの取外しは可能なものの、完全に一体型のカメラである。カメラ本体のバッテリーでデジタルバックまで電力供給しているせいか、やたら軽く感じた。おかげで実際の重量よりも軽快に「なんて軽いカメラなんだ」と勘違いしたまま撮影に出かけることができたのだった。
<HC 80mm F2.8 オレンジマーク>
Hシステム全般に言えることだが、この標準レンズ HC80mmも非常にクセのない、カチッとした描写をするレンズである。シャープだが35mmフルサイズのミラーレス機などで見られるカリカリの描写ではない。
<HC 100mm F2.2>
ハッセルブラッドHシステムで最も明るいレンズ『HC 100mm F2.2』を試してみた。AFも早く画角的にも使いやすいレンズだ。残念ながら今回はタイミングが合わず人物の作例が撮れなかったが、ポートレートに最も適しているレンズだと思う。
上の樹皮の写真は、1/180のシャッタースピードでしっかりホールドし、5〜6枚撮影したがどれも微妙にブレてしまった。キレの良いシャッターはその反面「カツン」と強めのショックが伝わってくる。ミラーアップ撮影ではほとんどショックを感じないため、レンズシャッターではなく本体側の振動だろう。
1億画素という特性もあると思うが、データを等倍で見るとわずかにブレていることも多く(50%表示だとまず気づかない程度)自然光で手持ち撮影する場合は1/250以上を目安に撮影した方が良いという印象を持った。
<HCD 24mm F4.8>
48×36mmのセンサーサイズに最適化された「HCDレンズ」をH6D-100cで使用すると、現像ソフトPhocus上で自動クロップされ、デジタル補正がかかる。フルフレーム未対応とはいえ、イメージサークル自体はギリギリでカバーしているようだ。自動でクロップされるものを解除し、歪曲と周辺光量の補正を入れた状態で書き出ししてみた。当然ながら周辺部には描写の劣化を感じるが、645フルフレーム機でも超広角レンズ(135判換算16mm相当の画角)として使えないこともなさそうだ。
<HC MACRO 120mm F4 II>
中判のシステムでは定番の120マクロ。他社の120マクロと比べても格段にサイズが大きく、いかにも良く写りそうなレンズである。この焦点距離域のマクロはどれもよく写るので評価は難しいが、当然のように高い描写力を見せてくれた。
高感度について
筆者が普段CCDセンサーの中判デジタルを使用しているせいで、気がつけばほぼすべて「ISO64」の最低感度で撮影していた。本機は高感度に強いCMOSセンサーを搭載していることを思い出し、室内で高感度のテスト、もといネコを撮影したものを掲載する。ある程度の明るさがある中でISO3200にて撮影した。
ピクセル等倍で見るとそれなりにノイジーだが、なにしろ1億画素もあるデータである。仕事の内容にもよるがリサイズして十分に納品できるクオリティだと思う。
こちらもISO3200で撮影したものだが、このように画面の右と左で色が違って写る場合もある。低感度域では見られない症状だ。これはハッセルブラッドに限らず、大型センサーを搭載した中判デジタルでは時折見られる現象だ。個人的には超高感度域を中判で撮る必要性を感じておらず、実用上まったく気にならないのだが、センサーの貼り合わせに起因する問題なのか詳細は不明。この問題さえなければ、このISO3200までは実用できるという感覚を持った。
まとめ
H6D-100cはスタジオユースの業務機としてかなり完成度の高いカメラで、趣味の撮影でも気持ちの良い撮影体験をもたらしてくれる。すでに新品で購入できない点、今後は新機種が出ないという部分を了承できるのであれば最高の選択肢に上がってくるだろう(富士フイルム・ブランドのHCレンズは修理できないが、ハッセルのHCレンズは今後も修理対応を継続するとのことだった)。
ハッセルブラッドが好きで、645中判一眼レフとして最高のものをこの先もずっと使いつづけたい方には手放しでお勧めできるカメラである。