定番とか、「これじゃなきゃダメ!」というもの。
こだわりや、ルーティーン。
皆様にもございますか。
前回書かせていただきましたが、高校・大学時代のフィルム現像液といえばD76でした。
希釈率は1:1。液温20℃。これが王道でした。
毎週のように現像するので、ここまでくると立派な生活必需品です。
手持ちのストックが少なくなると、やたら不安になってくる。こういうの、禁断症状っていうんでしょうか。
D76やめますか、それとも人間やめますか。
そんなD76中毒の私でしたが、6年前にメイン現像液を切り替えました。
今では35mmから8×10のフィルムまで、全てこの現象液で処理しています。
ロジナール現像液
ドイツのAgfa社が1891年に始めて世に送り出したこの現像液は、同社の最初の製品にして看板商品になるまで大ヒットしました。2回世紀が変わった現在でも販売され続けている現像液です。市販されている現像液として世界最古。これだけ長い歴史のある現像液、なので種類も様々です。しかし構成している基本の薬品は3つ。
パラミノフェノール、水酸化カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム。
完全文系な私にはピンとこない薬品名ばかりです。
町中華は星の数ほどあれ、炒飯の具材は大体同じということでしょうか。…わかりにくかったらスイマセン。
ちなみに以下の現像液は全て「ロジナール」です。思い付くだけ書き出してみました。
- Rodinal(ロジナール)
- Adonai(アドナール)
- APH09
- R09
R09
私が最初に出会ったのはR09でした。
大学2年の頃、「代官山に凄いマニアックな写真機店が出来たぞ」という話を聞き、足を運んだのがこの現像液を知るきっかけになりました。
お店の名前はfotochaton(フォトシャトン)。
1974年以前の写真機や写真用品を扱う、マニアック度が相当高いお店でした。
見るだけ見て帰るのは冷やかしみたいでいやだなぁと思っていたら、店内の棚に小さなプラスチック製の瓶が並んでいるのが目にとまりました。
見たこともない現像液。愛らしいパッケージデザインなのと、値段も手頃ということで購入。
「これに反応するとはなかなかの通ですね」と、店主の井上さんがこの現像液の素晴らしさを実際のプリントを見せながら話してくれたのです。
35mmで撮影したとは思えないような微粒子のプリントに、その頃マイブームだった 粗粒子プリントを量産していた私の脳天に雷が落ちました。
そして驚いたのは、その標準希釈率。
「1:49」。イチタイヨンジュウキュウ。
それまで現像液:水が1:1の世界で生きてきた人間に、この数字は異次元の現像液希釈率でした。
R09を使うために、東急ハンズで80ccのミニビーカーを購入。
早速現像してみると、今まで使っていたD76よりも遥かにシャープなネガ。
D76への依存症状が解けた瞬間でした。
その次の年、大学の卒業制作で8×10撮影したネガを毎日のように現像する日々を過ごした私ですが、このネガは全てR09で現像したのでした。
8×10シートフィルムを1回現像するのに1000ccの希釈済み現像液が必要だったのですが、希釈率からすると必要な薬品原液は20cc。財布の中身に余裕がない写真学生にも優しい現像液なのです。
私とロジナール現像液を巡り合わせてくれたそのお店は、現在は代替わりして これまたマニアックな写真機店さんになっています。
が、そんなロジナール現像液にも一つ欠点…というよりも個性があります。
一度開封し、そのままにしていると薬品が結晶化するのです。
その結晶は赤黒いというか曇った朱色というか。
錬金術師の兄弟が出てくる漫画に出てくる「賢者の石」に似ています。
ボトルを揺らすと、聞こえるシャリシャリという音。
その音を聞くたびに、ああどうやって濾過しようかなあと頭が痛くなる私です。
ちなみに結晶化していない薬品は十分に攪拌すれば使用可能です。
冷蔵保存しちゃうとこの結晶化が発生するので、冷暗所での保存をオススメします。
ちなみについ先日、ILFORD JAPANからリリースされた「シルバークローム セロナール」もP-アミノフェノールタイプ現像液とのことなので、ILFORD版ロジナール現像液と言ってもいいかも知れません。
以下のリンクから購入可能です。
ロジナール現像液を国内で取り扱う業者さんは少ないです。
ここ数年はコロナ禍とウクライナ情勢による輸送コスト上昇などで、入荷が少なくなっている印象があります。
もし気になる方は是非、以下の業者さんをチェックしてみてください。
私にとってなくてはならない物になったロジナール現像液。
自宅の倉庫には箱いっぱいの瓶が保管してあります。
とりあえず、死ぬまでフィルム現像液には困らなそうです。
えっ、これじゃあロジナール中毒じゃないかですって。
…勘のいいガキは嫌いだよ。
次回は私の長年に渡る相棒の話をしましょう。
「ドイツ製の電気ランプ」お楽しみに。
暗室管理人|プロフィール
1990年東京生まれ。日藝写真学科の元落第学生。東京都渋谷区にある24時間・365日稼働の会員制暗室「DARK ROOM 207」創設メンバー 管理・運営人。普段はサラリーマン、一児の父。三度の飯より暗室好き。