「フジカST605 II」の項でも述べているが、富士写真フィルムは35mm一眼レフカメラに限って言えば、発売当時写真愛好家から注目されるようなことは正直少なかった。ところがブローニーフィルムを使う中判カメラにおいては、一転してプロからアマチュアまで人気は高く、それは同社の中判カメラ販売末期まで変わることはなかった。今回はそのなかから1984年発売の「富士フイルムGS645S Professional(以下:GS645S)」をピックアップしようと思う。
「GS645S」のフォーマットは6×4.5判。"ロクヨンゴー"あるいは"セミ判"などと言われるフォーマットサイズだ。メリットは、6×6判や6×7判、あるいは6×9判などと比べフィルムが経済的に使え、120タイプのブローニーフィルムでは15カット、220タイプでは30カットの撮影を可能とする。中判カメラの上質な画質で撮影は楽しみたいけど、あっという間にフィルムが終わってしまうのはツラいと思うわがままな写真愛好家の要望に応えるフォーマットサイズと述べてよいだろう。さらにカメラボディもレンズも、あくまでも中判カメラとしてだが、小型化できるのも特徴だ。実際本モデルはプラスチック外装と固定式のレンズを採用していることもあり、このフォーマットの中判カメラとしてはコンパクトで軽量な部類に仕上がっている。荷物を少しでも軽くしたい山岳写真や、街スナップなどで重宝することは言うまでもない。
6×4.5判は、フィルムを横に伸ばしたとき縦長のフォーマットで記録される。35mmフィルムを使用するハーフサイズの場合と同じだ。本モデルの場合、フィルムはボディに対し横方向に巻き上げるように装填するため、カメラを通常のヨコ位置で構えると写真はタテ位置に写る。もちろんファインダーを覗くとフレームもタテ位置。大半の写真愛好家がそうだと思うが、フィルムおよびデジタルの一眼レフやミラーレスなどヨコ位置の画面がデフォルトとなるカメラを日常的に使っていると、ファインダーを覗いた瞬間戸惑うことも少なくない。また、筆者の場合となるが、タテ位置で撮ろうと思うと、わざわざカメラをタテ位置にしなくても済むはずなのに、ついカメラをタテ位置にしてしまい、ファインダーを覗いた瞬間ハッと気づかされることがいまだある。
レンズはEBCフジノンW60mm F4を搭載する。5群7枚のレンズ構成とし、35mm換算で37mm相当の画角とする。応用範囲の広い画角であり、オールマイティにこのカメラが楽しめる理由のひとつと言える。ちなみに「EBC」とは例に違わずコーティングの名称で、「Electron Beam Coating」の略である。富士フイルムはこのコーティング技術を現行のXマウントレンズやGFレンズでも採用しており、その性能に自信を持っている証だろう。ピント合わせは二重像合致式の距離計連動で、基線長は40mm。ファインダー倍率は0.5倍なので、有効基線長は20mmとなる。虚像タイプであるため、条件によっては見切りが悪く感じることもあるが、ピントを合わせる行為自体は写真を撮る楽しさを増幅させる。
露出計を内蔵するのもこのカメラの嬉しい部分。シャッターボタンの半押しで作動し、露出の状況はファインダー内にLEDの+/-で表示される。シャッター速度も絞り値も表示されないシンプルなものだが、使い勝手はよい。露出計は外光式で、受光部はファインダー内に置かれる。そのためPLフィルターなど露出の変わるフィルターを使用する際は注意が必要だ。本モデルのスタイルも注目点だ。鏡筒の一部を囲むように備わったプロテクターが個性的なアクセントになっている。鏡筒全体を保護できるようなものではないものの、心強く感じられる。ボディ外装はプラスチックで質感はそれなりだが、悪い印象はない。
「GS645S」はコンパクトで使いやすい画角のレンズを搭載するなどまとまりのよい中判カメラだと思う。この時代の国産中判カメラの中古は6×7判のプラウベルマキナ67シリーズが長年人気であるが、本モデルは価格的に手に入れやすく、しかも前述のとおりフィルムも経済的に使うことができるので、カメラに特別なこだわりがなければオススメと言える。GS645シリーズには、本モデルのほか75mmレンズを搭載するスプリングカメラ「フジカGS645 Professional」、広角45mmレンズを搭載する「フジカGS645W Professional」の2モデルが存在する。いずれもタマ数はさほど多くはないものの、手軽に中判カメラの世界が楽しめるので(フィルムは高騰しているが)、興味ある向きは中古カメラショップなど丹念に探してみてはいかがだろう。
大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。