世界最大のLEDディスプレイ展示会 ISLE 2024と近未来展望[江口靖二のデジタルサイネージ時評] Vol.90メイン写真

世界最大のLEDビジョン関連の展示会、ISLE 2024(International Smart Display&Intergated System Exhibition,Shenzhen)が2024年2月29日から3月2日に中国深センで開催された。世界の大型LEDビジョンのほとんどを生産している深センでの開催であり、市場をリードする中国メーカーを中心に、1000社以上の大型LEDビジョンメーカーとその関連企業が展示を行い、およそ8万人が参加した。

まずはその開催規模に圧倒される。東京ビッグサイトが8万平米、幕張メッセが7万平米に対して、ISLEが開催された深圳国際会展中心は40万平米という巨大さである。今回のISLEは5から9ホールの8万平米を使用して開催された。これは幕張メッセの1から11ホールの全館と同じ面積で、日本での類似イベントであるDSJ(デジタルサイネージジャパン)の10倍の規模ということになる。これだけでも、世界のLEDディスプレイのほとんどすべてを生み出している、深センのLED産業の規模がおわかりいただけると思う。

世界最大のLEDディスプレイ展示会 ISLE 2024と近未来展望[江口靖二のデジタルサイネージ時評] Vol.90
中央エントランス
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全てのサイズが大きいのでこれで8ホールの半分

出展したLEDディスプレイメーカーは大手から中小までほとんどすべてと言ってもいい。前述の通り、世界のLEDディスプレイのおそらく80%以上を生産している深センに、関連企業が産業集積しているからである。深セン市内には本社や工場があり、生産工場の多くは隣接する恵州市に多い。隣接と言ってもそれぞれの中心市街地は100キロ離れていて、移動には1時間半くらいかかる。

参加者の9割以上は中国人で、残りはタイ、ベトナム、日本、UAE、そしてロシアなどであるので、あまりグローバル感はない。これは1月にバルセロナでISE(Integrated Systems Europe)が開催されるので、欧米の人たちはそちらに参加するからだろう。参加者属性はそうであっても、LED産業の中心は深センなので、ISLEで最新テクノロジーを確認するために最適な場所なのである。なお日本のソニーは出展していない。

ISLEは製品見本市であり、その商談の場であって、ユースケースやコンテンツに関しての議論はあまりない。セミナーも開催されているが、質、量、参加者数ともに開催規模の割には低調と言った印象であった。

ではISLE2024の内容をいくつかの項目に分けてレポートしたい。

LED実装技術の進化と多様化が進む

LEDディスプレイにはDIP、SMD、GOB、COB、MIPなどのLED実装方法がある。これらはメリット・デメリットがあり、利用される場面に応じて使い分けられていくものと考えられる。以下に各方式の特徴とメリット・デメリットを列挙しておく。

DIP (Dual-in-Line Package)

  • 特徴:RGBが独立した素子でリードフレームにLEDチップを実装し、エポキシ樹脂でカプセル化した従来型のパッケージ
  • メリット:製造コストが低く高電流駆動が可能
  • デメリット:大型で実装面積が大きく自動実装が困難

SMD(Surface Mount Device)

  • 特徴:RGBを1素子にまとめたLEDチップをリードフレームではなく基板上に直接実装する
  • メリット:小型で実装面積が小さく自動実装が容易
  • デメリット:高電流駆動が困難で発熱対策が必要

GOB(Glue On Board)

  • 特徴:SMDに樹脂コートを施すことで反射率や強度を向上させたもの
  • メリット:実装面積が小さく薄型で光取り出し効率が高い
  • デメリット:チップ取り扱いが難しく製造コストが高い

COB(Chip On Board)

  • 特徴:SMDの素子を直接基板に実装する
  • メリット:高い光取り出し効率、小型・薄型
  • デメリット:チップ取り扱いが難しく発熱対策が必要

MIP(Mini Micro LED in Package)

  • 特徴:ドライバーICとLEDを一体化して基板に埋め込み微小LEDをパッケージ化する
  • メリット:非常に小型で高い解像度が得られる。消費電力が低い
  • デメリット:製造プロセスが複雑でコストが高い
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同一ソースでのSMD、GOB、COB、MIPの比較デモはISLEならでは

これらを製造コストの安い順に並べると
DIP < SMD < GOB ≒ COB < MIP
となる。製造コストと製品の特性を天秤にかけて、用途に合わせて最適な技術を選択する必要がある。小型・高解像度が求められればMIP、低コストが重視されればDIPやSMDが選ばれることが多い。最近はCOBが多くなっている。

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ISLEではLEDの実装(ボンディング)機も多数展示されていた

高精細化と低消費電力化

ピクセルピッチは1mm以下のものがかなり増えてきている。高精細化の展示例としては、LEDMANが0.4mmピッチ COB、8K 163インチを展示した。非常に高精細で発色もよく、黒も締まっている。これならテレビのように家庭において長時間の視聴にも十分耐えられる。LEDで初めてこういった印象を筆者は感じた。これについてはピクセルピッチとの関連で後ほど考察する。

0.9、0.7mmピッチなどの1ミリ以下の例は大手各社が展示を行った。最も高精細なものとしては、参考出品としてAOTOが0.3mmピッチ MIPを展示した。画面サイズはCDジャケットくらいでまだまだという印象だ。

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LEDMANが0.4mmピッチ COB、8K 163インチ
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LEDMANの0.4mmの画素拡大
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AOTOは0.3mmを参考展示

こうしたLEDの高精細化に関して、複数のメーカーの技術開発のトップとディスカッションする機会を得た。現状ではLEDディスプレイが数年後に0.1ミリ以下になるということはなさそうである。そこに行くためにはLEDチップを物理的に表面実装、ボンディングするのではなく、印刷のようなやり方で実現する必要があるという。つまりLEDのピクセルピッチは0.2、3ミリくらいまでが、当面の限界値なのではないだろうか。

ではこのあたりの数字はどういう意味を持っているのかを考えてみる。参考までに家庭用テレビを想定したディスプレイに必要なピクセルピッチを計算すると

■4Kディスプレイ

  • 50インチ 0.17mm
  • 80インチ 0.28mm

■8Kディスプレイ

  • 50インチ 0.14mm
  • 80インチ 0.23mm

となる。この数字であれば実現性も高く、家のテレビにというニーズも強いので、実現される方向に向かうのではないだろうか。

また、消費電力については、特にCOBについては従来と比較して発熱量が大きく低減している。これは中国最大のLEDメーカーである三安オプトエレクトロニクスなどが供給するLEDチップの光変換の高効率化によるものだ。

異形化

平面的な長方形ではない、何らかの湾曲面を持った異型のLEDディスプレイも非常に目立った。特にラスベガスのSphereの影響だと思われる、球体のディスプレイが非常に多い。とれも解像度は今一つではあるが、今年らしい傾向だろう。ディスプレイが球体化した場合にはコンテンツとして何を表示するのか、それはどういう画像として制作すればいいかという点が重要だが、その点に言及した展示はなかった。ほとんどが地球を表示していたのが、球体ディスプレイの先行きを暗示しているように感じた。

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球体ディスプレイの例
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球体ディスプレイの例の変形版
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ビデオアートのオブジェのような形状のディスプレイ
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イマーシブ映像のための半球ドーム状のディスプレイ

シースルーとフレキシブルが今後の注目領域か

異形化にも関連するのだが、湾曲したディスプレイは特に増加しているようなことはない。一方で透明なシート上、またはハニカムのようなものにLEDを配置して、シースルーになるディスプレイも非常に目立った。透明なシート状の場合は配線やTFTなどのスイッチング回路をどのように処理するのかについて、各社がさまざまな取り組みを行っている。

シースルーでは配線の扱いが重要
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こうしたハニカムやパンチ穴のようなパネルを利用するという割り切りが現時点では正解

ここでも気になったのだが、シースルーのディスプレイを用いたユースケースを訴求している展示はほとんどない。シースルーにする意味とは何か。向こう側にある何かが透けて見えることである。その手前に映像が映ることである。また空中に映像が浮かんだように見えるかと言われればそうは見えない。あくまでもディスプレイ映像とその向こう側が重なって、透けて見えるということである。単にショウウインドウに透明ディスプレイを貼り付ければ言いのかという疑問は残ったままである。

筆者が思うには、向こう側の明るさが変化することで手前に映像が生きてくるというか、浮かび上がってくるところが重要なのではないか。向こう側にあるものは別のディスプレイ映像でもいいが、何等かのリアルなものだろうということ、そのリアルなものまでの距離によって、奥行き感や立体感を感じられるというところがポイントになってくると感じた。これはこうした等身大の人物をボックスに入れたような事例(ただしこれらはLEDではなくシースルーのLCD)から想像できる。

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シースルーでは最も大きな画面で注目を集めていたMUXWAVE。それなりに向こう側が見えているのと、ハニカムが黒いので素材の選び方によって非常にクリアに見える
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こうしたボックス型のホログラムのように見えるディスプレイを最近よく見かけるが、これらはLCDである
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ディレイはあるがリアルタアイムのデモ

フレキシブルディスプレイに関しては、何回も自由自在に可変するとまではいかなくても、設置場所に合わせた自由変形というニーズは潜在的には大きいのではないだろうか。現在シートのようで実用的で高輝度光解像度のディスプレイが存在していないだけなのではないかと感じた。究極的には壁紙のようなロール状で提供される透明ディスプレイが、建材のように扱われるのではないだろうか。

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イノベーションが期待されるシースルーでフレキシブルなLEDディスプレイ

XRやバーチャルプロダクション

人がLEDディスプレイをみるのではなくカメラでの再撮影用の利用をするもの、いわゆるバーチャルプロダクションによってXRとしての利用が増加しているのは周知のとおりである。ここで使われるLEDウォールもまた、全世界のほぼすべてが深センの企業群によって生産されている。

という現状を踏まえて、XRをデモできるブースは10社ほどあった。ところが、3日間の会期中に、これらで実際にデモを行っている場面に筆者は一度も遭遇できなかった。というのも、その多くはLEDウォールとカメラはあるのだが、コントローラーやレンダリング機材群が用意されていないようなのだ。またコントローラーメーカーはNovaStar(中国)、Hirender(シンガポール)、Colorlight(中国)は出展したが、disguise、Bromptonなどは出展がない。ISLEではXR用にLEDウォールは提供するけれどもそこから先は…という感は否めない。参加者に映像制作、クリエイティブ関係者がいないのも原因だと思われる。

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AOTO
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Unilumin
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KYSATR
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BOE
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NovaStar
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NovaStarのコントローラー
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Hirender

ここではXRはVR、AR、MRの総称であるとして、これらが今後どのように発展していくかは未知数ではあるが、モーションキャプチャ、ボリュメトリックキャプチャ、インカメラVFXといった最新映像技術は、生成AI技術をその背景にして、リアルとバーチャルの境界線を超えていくだろう。これは「リアルとバーチャルを融かす」ということであり、デジタルサイネージに限らず、これからの映像コンテンツにおいて重要な考え方になっていくだろう。特にデジタルサイネージは元々リアルな場所を対象としているがゆえに、その恩恵を最も多く享受できる。しかしながらこういう議論はISLE 2024で見聞きすることはなかった。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。