ミノルタXE[記憶に残る名機の実像] Vol.13

カメラを正面から見ると、シャッターボタン側が巻き戻しレバー側より長くフィルムカメラらしいシェイプ。また、シャッターボタンの受け皿とセルフタイマーレバーのクロームのパーツがアクセントとなっている。ロゴの上にある小さな四角い窓は、シャッタースピードをファインダー内に表示するための採光窓

「ミノルタXE」(以下:XE)の操作感は"官能的"などと喩えられることの多いカメラだ。過去多くのカメラ関連の媒体などで語られてきおり、私自身もそのように理解している。しかし、果たして本当にそうなのだろうか。ここではXEが官能的と言われる所以を探りながら紹介していこうと思う。

まずはXEの生い立ちだが、登場は1974年。クラス的にはミドルレンジに属し、当時のミノルタのフラッグシップモデル「ミノルタX-1」(1973年発売)の弟分という位置付けであった。ライバルとしては、同じ絞り優先AEを搭載し、「ニコンF/ニコンF2」を兄貴分とする「ニコマートEL」(1972年発売)、シャッター優先AE機で、「キヤノンF-1」を上位モデルの「キヤノンEF」(1973年発売)などが存在する。

金属製の外装を纏い、やや大柄なボディ、フラッグシップモデルに準じたスペックなどが、これらの共通した特徴と述べてよい。フラグシップモデルの購入は何かと難しいと考える写真愛好家にとって、比較的手に入れやすいプライスタグを提げ、不足のないスペックを誇るミドルレンジモデルは人気があり、さらに1970年代前半は一眼レフが広く普及しはじめた頃ゆえ競争も激しかったのである。

    ミノルタXE[記憶に残る名機の実像] Vol.13
ミノルタの旧ロゴがその端正なボディスタイルにマッチする。装着しているレンズは時代的にXEよりも新しいものだが、見た目のバランスは悪くない。なお、現在の中古市場でのXEのタマ数は、現行モデル当時ライバルとしたニコマートELやキヤノンEFよりも少ないように思える
※画像をクリックして拡大

そこでXEでは、ライバルとの差別化のための大きなセールスポイントが操作感、つまり官能性能だったのである。シャッターボタンを押したときの手応え、シャッター音と手に伝わる振動、フィルム巻き上げレバーの感触などなど拘ったと聞く。たしかに改めて試すと、いずれもライバルにくらべ洗練されているように思える部分は多い。カメラを構えると、予備角の大きい巻き上げレバーはカメラをしっかりと保持するのに役立ち、今となってはややストロークが長く感じるシャッターボタンを押したときの感触も、その直後のシャッター音も、安っぽさのようなものはなく、写真を撮る気分を大いに高揚させる。

巻き上げレバーのフィルム巻き上げ時の感触も極めてスムーズで心地良い。アイピースシャッターやフィルムメモホルダーの搭載をはじめとするつくりやスタイルも含め、ミノルタというメーカーの、先行するニコンやキヤノンに追いつけ追い越せとする思惑がひしひしと伝わってくるのだ。

    ミノルタXE[記憶に残る名機の実像] Vol.13
アイピースシャッターを備えているのもXEの特筆すべき部分。この時代、同機構を備えるカメラは少なく、搭載されていてもそのほとんどがフラグシップモデルであったことを考えると驚きに値する。メーカーのこのカメラに対する力の入れ具合のわかる部分だ
※画像をクリックして拡大

ただ、フラグシップモデルと比較してしまうと、当たり前だが、その感動が薄れてしまうのも正直なところ。フラグシップはフラグシップならではの上質な操作性、操作感を持つわけで、今になって思えばXEは同じミドルレンジのなかで見比べると特筆すべきところはあるものの、フラグシップモデルを追い越すほどではないように感じられる。

また、冷静に見れば、ミドルレンジとして物足りないところがいくつかあるのも事実。そのひとつが、何とXEの秀でた官能性能を象徴するフィルム巻き上げレバー。実は小刻み巻き上げに残念ながら対応していないのである。巻き上げ角度が小さいため、小刻み巻き上げは不要と考えてのことだったのかも知れないが、右手親指の動きが小刻み巻き上げではさらに小さく済むため(その分巻き上げ動作の回数は増えてしまうが)、使いやすく感じる場合も少なくないのである。

また、ペンタカバーがプラスチックなのもちょっと残念に思える部分。カメラの質量やコスト的な問題などあったのかも知れないが、外装全てが金属製であったなら小刻み巻き上げとともにこのカメラはミドルレンジとしての完成度はより高く、ライバルを凌駕するモデルに仕上がっていたように思えてならない。

    テキスト
シャッターボタン側のトップカバー。シャッターダイヤル、シャッターボタン、巻き上げレバーが整然と並び、つくりのよさを感じさせる。巻き上げレバーの予備角は大きく、カメラを構えた際の指掛かりとなる
※画像をクリックして拡大
    テキスト
シャッター幕は縦走りタイプを採用。そのつくりからコパル製と思われる。フィルム巻き上げは逆巻きとしている。フィルムカウンターはトップカバーではなく、カメラ背面右上に電源スイッチとともに備わるのも特徴だ
※画像をクリックして拡大

そのようなXEだが、このところ中古を扱うカメラショップなどで見かけることが少なくなっているように思える。その理由として、当時のカメラの多くがそうであるように電気系統が丈夫とは言い難く、またペンタプリズムが腐食しやすいことなども挙げられる。購入を考えているのであれば、見かけたら何はともあれ動作やファインダーの状態など怠らずチェックすることをおすすめする。

ちなみに掲載した写真の個体は5、6年ほど前に銀座のデパートで開催された中古カメラ市で見つけたもの。なぜかジャンクでもないのに、ショーケースの上にぽつんと寂しそうに置かれていた。動作等は問題なく、ペンタプリズムも悪くない状態であったことに加え、極めてリーズナブルなプライスダグが付いていたので、喜んで連れて帰ったことを記憶している。

ミノルタはその後、絞り優先AEとシャッター優先AEの二つのAE撮影が楽しめる「ミノルタXD」、続いて本格的なAF一眼レフ「ミノルタα-7000」を発売し、1980年代半ばまで勢いに乗ることになる。XEは、それまでのミドルレンジモデルが拘ることの少なかった操作感をフィーチャーしたカメラであるとともに、ミノルタ黄金期に繋がる礎となったカメラであることも忘れてはならないだろう。


大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。