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2023年10月20日にGINZA SIX内にある観世能楽堂でGFX100 IIのイベント「クリエイターセッション&動画撮影体験会」が開催される。それに先立ち、観世三郎太さんに出演していただきデモ映像の撮影をする機会を得た。同イベントは、このときの模様を公開するほか、実際に能の舞台で演じている姿も来場者自身が撮影できるという貴重な機会なので、ぜひ参加してほしい。

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観世能楽堂の撮影で使用したGFX100 II
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観世能楽堂

そのデモムービー撮影時は、GFX100 IIをリグマウントし、レンズもPremistaやCookeの×2アナモフィックレンズなど、ハイエンドな撮影でないと使えないようなラインナップを使用する機会を得られた。もちろんGFレンズも多用したが、3台のマルチカメラ撮影ということもあり、自分がGFレンズでのGFX100 IIの使用感を語れるほど触れなかったことが心残りだった。

GFX100 IIでMV撮影

そんな折に、私が10年以上にわたって撮影しているミュージシャン笹生実久がアナログ盤LPを出すというので、ちょうど発売直後のGFX100 IIでMVを撮影しようということになった。

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Miku Sasao cover.ep「Tokyo City Lights」
アナログ盤2023年11月3日リリース
CD&配信2023年11月15日リリース

曲がキリンジの「エイリアンズ」のカバーで、アルバムタイトルも「Tokyo City Lights」ということから夜の渋谷を舞台に撮影した。まどろんだ曲調とささやくような笹生独特の声質に合わせて、中判動画でしか表現できない被写界深度の浅い画を狙っていこうと思ったら、GFX100 IIと開放値の少ないGFレンズの単玉の組み合わせに辿り着いた。

多様な「動画フォーマット」モード

GFX100 IIには数多くの「動画フォーマット」モードが用意されている。中判対応レンズに特化したセンサーサイズいっぱいを活用できる「GFモード」、ラージセンサー用シネレンズ向けの「Premista」モード、それと同等のサイズでフルサイズ35mmに対応した「35mmフォーマットレンズ」モード、そして、フルサイズアナモフィックレンズのデスクイーズに対応した「アナモフィックレンズ(35mmフォーマット)」モードである。それらの中も細分化されて多岐にわたる。

このPremistaやアナモフィックというシネレンズとしてはハイエンドなワードがあることに動画撮影者としては心躍らされる。しかし、そのPremistaやフルサイズアナモフィックレンズでもGFX100 IIのセンサーサイズを最大限に活用できているわけではない。

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ただ、GFX100 IIの本領発揮はGFモードにある。

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GFレンズだけがセンサー全体を覆いきるイメージサークルを持っている

映画やCMでよく使われているALEXA LFやVENICE、RED MONSTROでもいわゆる35mmフルフレームサイズ(ALEXA LFで25.54mm×36.70mm)である。今までそれを上回るムービー用デジタルセンサーはALEXA 65 IMAXの25.58mm×54.12mmくらいだった。17:9で使用した場合は使用領域は横幅48mm程になりGFX100 IIの32.9mm×43.8mmというセンサーサイズはわずかにそれを下回るといった感じだ。IMAX上映の映画作品でも使われているカメラはほとんどがALEXA LFやVENICEなので、35mmフルフレーム以上のサイズを動画で経験することはほとんどない。

その中判センサーをフルに使えるのがGFレンズなのである。

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最近ではALEXA 35などラージフォーマットよりもドラマを表現するならスーパー35mmフォーマットなのではないかという、原点回帰の動きも出てきているが、CMやMVの世界では新しい表現が常に求められている。

中判センサーでF1.7の世界はどんなものなのか見てみたくて今回はGF80mm F1.7 R WR、1本に絞っての撮影となった。

GF55mmF1.7 R WRの最新レンズも試してみたかったが、今回はスケジュールの都合で叶わなかった。

大規模でも小規模でも対応

Premistaやアナモフィックレンズを付けているときは、簡単に手持ちということもなかなかできないが、GFX100 IIで単玉ともなると、私が所有するDJI RS 2にも難なく載る。被写体の動きによって背景とのバランスを考えながら柔らかいカメラワークで撮るという目的なら手持ちよりもジンバルの方が向いている。照明技師の大島洋介さんにカラーライティングでタッチライトを効かせてもらいつつ、レンズフレアも入れてもらうという匠の技を披露してもらい、撮影、照明、被写体、メイクの4人という小規模撮影だ。

観世能楽堂でのスタッフ数十名体制の撮影と比べるとかなり寂しい感じだが、小規模の撮影でも大規模な撮影でも、それぞれ違った姿を見せることができるのがGFX100 IIの興味深いところだ。

Miku Sasao 笹生実久/Alians エイリアンズ(KIRINJI キリンジcover) Miku Sasao Cover.ep「Tokyo City Lights」

先ほどセンサーサイズいっぱいを使用できるのがGFレンズの強みだと言いながら、スクエアフォーマットじゃないか!という突っ込みは甘んじて受けるしかない。ただ、静止画では1:1のスクエアフォーマットが用意されているので、動画にもスクエアフォーマットを用意してもらえたら、このSNS時代にはマッチするのではないだろうか?

今回はF1.7という開放値のおかげで夜の街中でも23.978fps、シャッタースピード1/50、ISO800という感度で撮影できた。F-Log2でホワイトバランスは4500Kの設定で渋谷のカクテルライトの色がそれぞれ残るように配慮した。収録方式は4K、H.265、360Mbpsだ。

観世能楽堂での撮影でも長尺の舞台を撮影するということで、収録時間の関係でProResではなくH.265、720Mbpsの収録方式を採用した。ただ、720Mbpsだと編集時にかなり重く、最終的なグレーディングを本データでする際などに負担が大きい。そういったこともあって360Mbpsを採用したが、メディアに余裕があればProRes収録をお勧めする。

瞳優先オートの挙動

この一本に絞ったという中判センサーにおけるGF80mmは35mm判換算で63mmに相当する。それで、この被写界深度の浅さは新境地だ。さすがに自分のフォーカスワークでは頼りないので、GFX100 IIのコンテュニティAF(瞳優先オート)にお願いする。もちろん前後左右、横を向いたりと動き続ける被写体と、揺らぎ続けるカメラの相対でジャスピンを追い続けるのはAFといえど無理難題なので期待はしていない。そういったときにどのような挙動をするのかに注目していた。

以前、GFX100SとGF32-64mmF4 R LM WRの組み合わせでAF撮影を試みたときは、きちんと合っている状態でも時々フォーカスを探るような機械的な挙動が出て、OKテイクを制限してしまう傾向があった。それからファームウェアを何度かバージョンアップさせてAF性能も向上させているということなので、上記の組み合わせでも良くなっていると思うが、今回はGF80mm F1.7、しかも至近距離に近いというさらに上を行く難易度が高い撮影である。

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瞳優先AFは左右オートにしているが、AFがどっちの目に合わせるのかもちょっとした駆け引きだ
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それがどういう結果になったかは上の動画を見ていただくのが一番早いが、自分の感想はかなり良くなっているという印象を受けた。

私はよく「会話のできるAF」という表現を使う。

そのAFの特性を知り、この画角だったら上手く合わせてくれるのでは?ここで見失っても、そろそろ戻ってきてくれるのでは?などと想像しながら画角を切り続け、その度ごとにカメラは予想以上の仕事をすることもあれば、残念な仕事ぶりなときもある。そういった過程でフォーカスプラーと会話をしてるような気分になるのだ。GFX100 IIと80mmF1.7の組み合わせは会話のできるAFといった印象を受けた。

やはり中判で開放値の少ない大口径レンズはかなり重い部類なので、挙動も少々ゆったりしたものにならざるを得ない。それにしてもこの被写界深度の浅さには驚く。見せたい一点だけにしかピントは合わない。それでも焦ったりせず外れては追い付き、また外れては追いかけてくれる熟練のフォーカスプラーといった印象だ。おかげで狙い通りの動画に仕上がった。

現場では5インチのHDモニターでしか確認していなかったので不安だったが、編集用のモニターで確認すると惚れ惚れするほどのフォーカスワークにロングカットでも鑑賞に堪えられるものだった。

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フォーカスが合っていない状態でも詩的な表現力を感じる
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F-Log2のポテンシャル

さて、その編集についてだが、F-Log2での撮影はX-H2Sの記事を書くときに続いて2度目だ。F-Logでは数多くの作品を仕上げてきているが、そのF-Logでも十分満足いく仕上がりだったのだが、F-Log2で14+Stopを実現しているという。14+というのは今ではそんなに驚異的スペックではないが、それを720Mbpsという厚いデータで残せるというのは心強い。

ダイナミックレンジが広いLogはグレーディングでコントラストを上げるのが必至だ。そのときにビット深度の少ないデータだとバンディングなどの現象が起きてしまう。少ないデータ量の場合はダイナミックレンジを広く取ってしまうと最終的に画質を落とすことになりかねない。そんな理由でこの720Mppsというのは頼もしい数字だ。今回は320Mbpsで収録したが、それでもFX-3でのS-Log3の最高画質250Mbpsよりも多い。一概にデータ量が多い=画質が綺麗と言えるわけではないが一つの指標とはなりえる。

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F-Log2の画像、思ったよりもコントラストが浅い映像という印象ではない
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グレーディング後の映像。色調はシアンに転ばしているが、コントラストは少し強めた程度でそんなにコントラストの強い映像にはしなかった
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実際に320MbpsのH.265をいじってみると無理なコントラストの付け方をしても破綻が出ない。23.98pに関しては圧縮ノイズも目立たない。ただ、59.94pで収録したものは過度にコントラストを上げたものに関しては圧縮ノイズが見受けられた。4K59.96pで収録する場合は720Mbpsを選択する方が良いのかもしれない。

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ここまで極端なコントラストにすると4K59.96pのデータでは圧縮によるブロックノイズが散見されるが、ここまで極端なことをするのは稀だが、720Mbpsにするとこれももう少し解消されるかもしれない
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イメージングはシネカメラ領域

F-Logの頃からグレーディングしていて思うのは、ARRIのLog Cに近い印象を受ける。今回はLUTなしでグレーディングを始めたが、最終的には知人のDITが制作したLog C用のLUTで味付けをした。これがF-Logの頃からかなりハマりが良いのである。F-Log2になりダイナミックレンジも広くなりより近づいた感じがする。一度、ALEXA Mini LFと2カメで撮影とかもしてみたい。

ちょっと前まではRAWやLogで撮影すれば、後でどうにでも調整できると思っていたのだが、自分でResolveをいじっていろいろな素材をグレーディングするようになると、思い描いたところに辿り着けるLogと辿り着けないLogというものが存在することがわかってきた。それぞれいろんな好みがあるだろうが、自分にとっての辿り着けるLogはF-Logに他ならない。よりダイナミックレンジの広いF-Log2ならなおさらだ。

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今回は最終的にフィルムを意識したトーンになったが、そこが落ち着きやすいのもF-Logの特徴だ。
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まだ、ボディの操作系のデザインにいたってはスチールカメラの域を出ていないが、内在するイメージング部分に関しては、シネカメラの領域に迫っている。このカメラでしか表現できないものがある限り、一度使ってみて、撮影素材を自分の目で確かめてほしい。

そうすることで、このGFX100 IIが自分にとって必要かどうかが見極められるような気がする。

そんなイベントが10月20日にあり、私も登壇する予定なので、ぜひ観に来てほしい。

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、xRソリューションの会社Chapter9のCTOとしても活動。