ソニーが提供している「Monitor&Control」というアプリをご存じだろうか? ビデオグラファー向けのアプリケーションで、カメラのモニタリングとコントロールをリモートで行うことができる優れものである。本アプリの性能や可能性を紐解くために、実際の撮影でMonitor&Controlを活用した現場・クリエイターへの取材を行った。

今回お話を伺ったのは、ウェディング映像を中心に企業PV等を制作しているSTUDIO SUGAR代表の小林壮一郎氏である。小林氏は代表でありながら自ら撮影や編集を行う現場のクリエーターでもある。

実際に自社紹介のインタビュー動画を撮影する際にMonitor&Controlを利用した小林氏にその性能やメリットについてお話を伺った。

小林壮一郎氏/STUDIO SUGAR代表

小林壮一郎 (こばやし そういちろう)

STUDIO SUGAR代表。
大学卒業後、映像制作会社に就職し、ウェディング映像や企業PVの制作を手掛ける。2010年に独立し、STUDIO SUGARを設立。
自ら撮影や編集を行い、現場での実践経験が豊富。主にウェディング映像や企業プロモーションビデオの制作を中心に活動している。

ソニー「Monitor & Control」 製品概要

Monitor and Control
※画像をクリックで公式製品ページに移動します

■主な機能

  • シングルカメラモニタリング
  • マルチカメラモニタリング機能※iPadOS 16.0以降が必要です。
  • 露出補助ツール(フォルスカラーや波形モニター)の表示
  • フォーカス操作(AF/MF)
  • RECやカメラ設定(ISOや露出)のリモート操作

■対応機種(2024年5月時点)
BURANO, FX6(Ver3.00以上), FX3(Ver4.00以上), FX30(Ver3.00以上), α1(Ver2.00以上), α9 III, α7S III(Ver3.00以上)
*対応カメラは順次拡大予定

■対応OS
iOSまたはAndroid

STUDIO SUGARのクリエイター紹介動画撮影で「Monitor&Control」を使用

Monitor&Control導入のきっかけは何ですか?

小林氏:

2024年5月のメジャーアップデートで、iPadでのマルチカムのモニタリング・コントロールに対応したことがきっかけです。
元々、前のバージョンから使用していましたが、クライアントワークや撮影現場で使用することはありませんでした。
しかし、マルチカムのモニタリングに対応したことで、複数台のカメラを使う際のセットアップの手間や色調整のワークフローが向上するのではないかと思い、今回のインタビュー撮影に導入しました。

マルチカムのモニタリング・コントロール対応が導入の決め手だと小林氏

どのような機材セットアップで撮影しましたか?

小林氏:

FX6 1台、FX3 2台の合計3カメで撮影に臨みました。Monitor&Controlに接続するためのアクセスポイントとして、スマホのテザリングを使用しました。接続までの時間も短時間で済み、手軽にセットアップを行うことができました。

実際の機材セットアップ
撮影当日の接続図。モバイル端末をアクセスポイントとして、各カメラとMonitor & Controlを接続

Monitor&Controlがもたらす撮影スタイルの変化とは

機材セットアップのワークフローに変化はありましたか?

小林氏:

Monitor&Controlを使うと、複数台のカメラをセットアップする時間が格段に減ります。ワンオペや少人数でカメラの設置や照明のセッティングをする際、設置間隔が狭ければまだ良いのですが、2メートル以上離れていると移動も大変ですし、カメラが増えるとその分だけ時間も労力もかかります。
しかし、Monitor&Controlを使えば、各カメラとiPadをWi-Fiでつなぎ、移動せずに感度調整や色温度調整を一つの画面で個別に行えます。Wi-Fiが届く場所なら、その場で複数のカメラのセットアップができるのは本当に助かりますね。

マルチカムのモニタリングでは、iPadの大画面で最大4カメまでのカメラをモニタリング・コントロールが可能

小林氏:

さらに、各カメラの設定を並べて確認できるので、どのカメラの設定がずれているかも一目で分かります。カメラには個体差があって、数値で合わせても色見や明るさが微妙に違うことがありますが、一つのモニターで比較確認できれば、その微妙な誤差も埋められます。これは後の編集作業の時間を大きく減らしてくれるので、すごくありがたいです。

マルチカムのモニタリング時、各カメラ情報を横並びで確認できる

インタビュー撮影中に感じたメリットはありましたか?

小林氏:

被写体の視線を固定できる点ですね。インタビューの撮影では、カメラマンの動きを目で追って被写体の視線が散漫になることがよくあります。そんな時でも、Monitor & Controlを使ってカメラをチェックしながらコントロールすれば、被写体の視線を固定することができます。視線が散漫でも問題ない場合もありますが、意図して視線を固定したい場合には、Monitor&Controlを使うのが非常に有効です。
また、カメラマンが動くことで発生するブレを軽減でき、複数人のスタッフが取り囲むことで生まれる緊張も避けられます。これにより、一対一のインタビュー撮影が可能になるのもMonitor &Controlの大きなメリットですね。

小林氏はインタビュー中にほとんどその場から動くことなく、スムーズに撮影を完了させていた

コスト面での利点についてはいかがでしょうか。

小林氏:

今の映像制作環境では、予算が削られる傾向にあります。そのため、ワンオペでの撮影が増えています。マルチカムで撮影したい場合、モニターレコーダーで波形やヒストグラムを確認・調整して撮影しますが、カメラの台数分揃える必要があり、そのうえバッテリーも大量に用意しなければならないので、コストが跳ね上がります。
しかし、Monitor&Controlなら一台のiPadで複数台の収録中カメラを調整でき、バッテリーを繋いでおけば長時間の運用も可能です。これによって、かなりのコストカットが可能で、機材のスリム化も図れますし、搬入や撤収にかかる時間も短くできる。ミスの抑制にもつながるので本当にいいこと尽くめです。

Monitor&Controlを使用することで、コスト面の恩恵もあり、よりクリエイティブな部分に力を注ぐことができる

タッチ操作の利点を活かしたカメラコントロールについて

マルチカメラのRECコントロールの機能についてはいかがでしたか?

小林氏:

 Monitor&Controlで複数台のカメラを一度にRECできるのも良い機能だと思いました。ワンオペの現場だと、RECの押し忘れはどうしても起こりがちです。特にカメラの設置位置が離れていると、そのリスクはさらに高まりますし、演者が打ち合わせと違う動きをした場合にもRECのかけ漏れが起こりやすいです。でも、Monitor&Controlを使えば、そういったミスを防げます。
画面を分割して、各カメラの撮影状況を並列で確認できるので、どのカメラがどの状態か一目でわかりますし、個別にRECをかけることもできます。これが本当に便利なんですよね。演者が予期せぬ動きをした場合でも、全てのカメラを一度にRECできるので、安心して撮影に集中できます。

フォーカス操作についてはいかがでしたか?

小林氏:

フォーカスのコントロールもタッチで行えるのが大きな魅力です。複数台のカメラを自分でコントロールするのは本当に難しいです。しかし、iPadでMonitor&Controlの画面を確認しながら設定を行い、その場でRECをかけられて、フォーカスのコントロールもタッチでできるとマルチカメラのマルチタスクが容易になりました。
飛び入りの出演者が増えた場合でも、それぞれのカメラでフォーカスをそれぞれの対象に合わせれば、編集時に効果的なスイッチングが可能です。また、演者が複数人いて前後の位置がバラバラな場合でも、しゃべっている演者に個別でフォーカスを合わせることがタッチパネルのワンアクションで行えます。これもMonitor&Controlの大きな強みだと思いますね。

小林氏:

このアプリはマニュアルフォーカスでも力を発揮します。画面右側にフォーカスを操作できるバーがあり、これを上下させることで細かいピント調整が可能になります。iPadの大画面で調整できる点がまた良く、より精細な調整ができます。
さらに、マニュアルフォーカスの操作バーにはフォーカスポイントの上下限を設定することができ、ピン送りもアプリ上で行えます。
このように、フォーカスでの演出が簡単にできて、しかも幅も広がります。カメラマンに負担をかけることなく、ディレクターが離れた場所で操作できるのもMonitor&Controlの大きな魅力ですね。

操作画面のGUIについてはいかがでしたか?

小林氏:

Monitor&Controlの表示はすごくシンプルで、CineAlta本体と同じユーザーインターフェース構成なんですよ。だから、ハードとアプリの親和性がとても高く、操作性にも全く違和感がありませんでした。
撮影日時点では、アプリを使いこんでいたわけではありませんでしたが、現場では特に操作面で不安に感じることはなかったですね。

特にガイダンスがなくとも直感的に操作が可能なので、現場で操作で悩む心配は少なかったそうだ

Monitor&Controlの新たな可能性を探る

今回、実際にMonitor&Controlを使用してみて、他の現場での具体的な利用方法についてはどのように考えていますか?

小林氏:

ウェディングの撮影だけでなく、カメラマンが二人以上いる場合、撮影するターゲットが重なってしまったり、引きの画が被ってしまったりすることがよくあります。そんなとき、メインカメラマンがMonitor&Controlで双方の撮影画面を確認すれば、違った画を撮ることができますし、撮り逃しも避けられます。インカムを使って撮影を行えば、メインカメラマンが指示を出してサブカメラマンを誘導することも簡単です。これによって、映像のクオリティーが大幅にアップすると思います。
また撮影に関してではありませんが、クライアントが同席している撮影では、クライアントがチェックする場面がよくあります。そんな時でも、小さなモニターを確認してもらう必要がなく、手に持って大画面で、使い慣れた感覚で確認してもらえるのもMonitor&Controlのスマートな使い方だと思います。

多様な撮影現場で実用性が高いMonitor&Control

今後、実際に利用する予定はありますか?

小林氏:

企業PVのインタビュー撮影ではもちろん使っていくつもりです。ただ、ウェディングの現場では使いどころが少ないかなと思っていました。しかし、据え置きのカメラならMonitor&Controlを使ってRECできるので、そのような使い方も考えられます。
また、タイムコードのシンクロなどもコントロールできるようになれば、さらに利用者が増えるでしょうし、アプリケーションだからこその拡張性と柔軟性から、新しい撮影方法が生まれると思います。これからも様々なアイディアがMonitor&Controlから生まれてくるのではないかと期待しています。

Monitor&Controlから新しい映像表現が生まれることに期待していると小林氏

アプリケーションだからこそ撮影の発想が膨らんでいく

小林氏に話を伺う中で、Monitor&Controlがアプリケーションであるからこそ、様々な撮影の発想が生まれ、可能性が広がると感じた。例えばWi-Fiを使用してやり取りをしているので通信の限界はあるが、その範囲内で高所に据え付けたカメラや、電動のスライダーに乗せたカメラ、ワイヤーカムなどでカメラに近づかなくてもコントロールが可能であれば、非常に安価にハイクオリティーな撮影が行えるだろう。

さらに、異なるクリエーターがMonitor&Controlを使うことで、新たなアイデアが生まれ、その蓄積によって可能性は無限に広がる。多くのクリエーターに是非とも使ってもらい、Monitor&Controlの良さを実感してもらいたい。