7年ぶりの劇場公開

監督 本広克行 氏 (株式会社ロボット 映画部)
編集 田口拓也 氏(株式会社 バスク 執行役員常務 ポストプロダクションセンター長)
プロデューサー 村上公一氏(株式会社ロボット 映画部)

1997年から始まったフジテレビ系の人気TVドラマシリーズ「踊る大捜査線」。TVドラマの映画化の先駆けとして話題となった1998年公開の『踊る大捜査線 THE MOVE』、そして日本実写映画の興行収入記録(173.5億円)を打ち立てた、2003年夏公開の2作目「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」から7年、ファン待望のシリーズ第3作目「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」がいよいよ7月3日から公開となった。

(C)2010 フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー

織田裕二が演じる青島俊作巡査部長(本作で強行犯係係長職に昇進)が主人公の警察ドラマであり、これまでの「警察もの」「刑事もの」と呼ばれる一般的なアクションシーンや犯人逮捕までの謎解き風なストーリー展開が主だった従来のドラマとは異なり、日本の独特の警察機構の仕組みのなかで、署内の権力争いや本庁と所轄署の掛け引きなど、一般的な社会構造にもなぞらえた設定が人気を得た。さらに登場人物たちの人間性や、事件に接する人間的な姿を通じて様々なエピソードを描く、アクション・コメディ作品としても独自のファン層を獲得してきた。

また登場する多くの人気サブキャラクターにまつわる「群像劇」的要素が強いエンターテインメント作品であり、それが本作の魅力の一つでもある。この「踊る大捜査線 THE MOVIE」シリーズは、ドラマ内外の事件やスピンオフ作品と連動する、いわゆる「ハイパーリンク」手法を盛り込み、多くの幅広いファンとインターネットサイトなどで連動させて、観客を何度も楽しませる手法を取り入れている先駆け的な作品でもあり、今回の3作目からは新たにツイッターやネット映像などのリンクによって、日本のエンターテインメント・コンテンツの新しいカタチを牽引している作品でもある。

本作品シリーズではTVドラマの1997年から編集システムとしてAvid Media Composerが使われていることは有名で、また制作スタッフが毎回撮影の際には、最新技術を採用するなど新たな領域に常にチャレンジしている。前作では全国公開規模の大型作品では、日本で初めてデジタルシネマカメラ『シネアルタ』による撮影を敢行。そして今作でもSONY F35による撮影から、現場編集ユニットとして、Avid Media ComposerとIkegami EditcamStationHD HDE-X11を採用、現場での1080/24p収録による新たなチャレンジが試された。

常に新境地に挑む『踊る大捜査線』シリーズ

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田口拓也 氏(左) 本広克行 監督(中央) 村上公一氏(右)

「踊る大捜査線」シリーズの世界観を亀山千広プロデューサーとともに築き上げてきた、監督の本広克行氏は、自ら海外の撮影機材展示会などへ赴くほど、撮影や映像制作技術への関心が高く、また自ら「もともとは編集マンを目指していた」と発言するほど、編集へのこだわりも強い監督だ。

今回の「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」は、2010年1月6日のクランクインから約2ヶ月間の撮影期間を要したが、その際いつも撮影チームの傍らには、ロケ現場の秘密兵器として、Avidのコンパクトな編集ユニットが設置されていた。機材構成は、HPのノートPCにインストールしたAvid Media Composerを、池上通信機のHDポータブルディスクレコーダー EditcamStationHD HDE-X11と連動させ、スタジオ用のツールカートで稼働できる比較的シンプルなユニットだ。

「今回の撮影では、そのデータを全ての現場ですぐに再生、必要ならば仮編集しながら、つないだ結果を見て、撮影を進めていくという手法を試みました。リテイクなどのための細かい芝居の確認用に、その場ですぐに撮影した部分を編集して頂きました。現場ですぐ編集できてしまうので、スタッフやキャストもとても関心が高かったようで、驚いていましたね(笑)。」(本広)
「前作OD2の2003年当時は、まだAvidの編集システムも大きなターンキーシステムが必要だったので、ワゴン車を1台丸ごと改造して、システムを組み込んだ編集車を仕立てるという随分大規模なシステムになりました。僕もロケ現場まで出向き、現場で編集をしていました。今回は、素材をソニーのF35で撮影、HDCAM-SRで収録し、同時にEditcamStationHD HDE-X11に1080/24pのAvid DNxHD 36Mbpsデータで収録し、HDE-X11のリムーバブルメディアFieldPak2に接続されたMedia Composerを使って現場で仮編集ができるシステムを導入しました。ワークテープを起こすこともなく、またそのデジタイズの手間もなく、素材が収録と同時に編集可能になり、すぐに確認ができたので、撮影での撮り逃しがなくなりました。収録と同時に確認ができるということで、照明やVEのスタッフも前後のつながりを確認するのに重宝していました。また本編集を進めている編集室ともDNxHD 36MbpsのHDプロジェクトデータを介してやりとりし、デイリーにデータをリンクさせながら編集作業を進めることができました。」(田口)
「前作ではスロー撮影の部分ではフィルムカメラを使っていましたが、今回は2.5倍速まではそのままF35を採用し、それ以上のスピードは、フルHDで2000ftsまで撮影可能なWeisscam(ヴァイスカム)HS-2を使っています。そして編集はAvid Media Composerを使うことで、今回はフルデジタル撮影を経てフルデジタル制作ができました。」(村上)
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コンパクトなAvid編集ユニットカート

全テレビクルーによる撮影

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田口拓也 氏(左) 本広克行 監督(中央) 村上公一氏(右)

今回の撮影スタッフには、映画専門のスタッフを採用せず、これまでも本広監督作品の劇場映画作品『サマータイムマシンブルース』、『曲がれスプーン』や、TVドラマ『SP』などでも撮影を担当した川越一成氏が撮影を担当、撮影クルーと編集スタッフは、すべてバスクのテレビ系スタッフで構成された。しかし彼らもすでに前出の映画作品などで、映画制作の現場を経験しており、TV/映画というスタッフ編成の垣根を越えた、制作チームの編成であることも興味深い。

「今回撮影スタッフについても、バスクさんにお任せしました。彼らはすでに「SP」で監督にも信頼されていましたし、映画的な表現も評価されていました。また例えば、画のデータのやりとりなども、撮影からポストプロダクションまで同じ会社で出来たので、その連携も非常にスムーズでしたね」。(村上)
「スタッフを刷新するにあたっては、当初多少の不安を感じるという意見もありましたが、僕らはいつも新しいことにチャレンジして、それを良い方向へ昇華して成功させてきた実績を理解して頂き、今回は全く新たなスタッフで制作することが出来たのです。それが結果的には非常に良かったと思います。平均年齢も若返り、中には小学生のときに『踊る大捜査線 THE MOVIE』を観たというスタッフまで参加していますよ(笑)」。(本広)
「僕はすでに『踊る〜』シリーズを含めて、映画作品を30本以上手がけてきましたから、特に『踊る〜』だからということで変わった編集をしているつもりはありません。この作品は特に皆熱くなる作品なので、僕ぐらいは冷静でいないと!(笑)もちろん技術も手法も進歩しているし、僕らも年齢を重ねて変わっていますから、それなりの進化はしていますね。また『交渉人 真下正義』のような、膨大な素材群と日々格闘したような、大変な作品も経験したことで、今回もある程度は余裕を持って編集できました」。(田口)
「(田口さんが冷静であることは、)実はこれはとても大事なことで、『踊る』の現場は本当にたくさんの見学者が来るのですが、田口さんはまず現場に来ないんです(笑)。だからこそ、数多くのカットから本当に必要なカットだけを選び出して、現場の物理的な大変さなどに惑わされず、変な感情移入なく思い切って切れるのです。そして僕らが現場では気づかないようなカットを入れられる冷静な判断があることで、そのシーンの観客側の感情移入の度合いも大きく変わってくる。編集は作品の価値が決まる重要なポイントです。僕は元々編集マン志望だったので、編集が好きで田口さんと「踊る〜」でそういうことを積み重ねてきました。でも実は、田口さんは元々は監督志望だったんですよ、立場は逆になっていますが(笑)」(本広)
「僕はVTRからノンリニアへ移った最初の世代なので、納得のいくまでトライ&エラーができることがノンリニアの最大の恩恵だと思っています。フィルムでは2回ぐらいの変更しか出来なかったところが、Avidを使って何度でも変更可能です。今回も多いところでは6稿、7稿までやり直しました。TVドラマではそれほど時間もないのですが、映画作品では多少編集時間がある分、何度でもやり直したい箇所が出てきます。ダメなら最初に戻れば良いわけで、まず試してみることができます。Avidなら、アンドゥ機能で人間の方が覚えていないところまででも戻れますからね(笑)」。(田口)

“精神安定剤”としての現場編集システム

(C)2010 フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー

“現場編集”というノンリニアシステムへの本広監督のこだわりは、やはり撮影における『精神安定剤』的な要素が強いという。

「まず前作で、必要な部分のみ田口さんに編集車で現場に来てもらうことをやってみて、次に『サマータイムマシンブルース』で撮影後にデータを東京の編集室へ転送して、編集後すぐにその結果を送り返してもらって確認する、ということを実践し、とても便利で面白いと思いました。それと同時に、僕にとっての”精神安定剤”というか、これまで頭の中だけで考えていた場面のつながりを、すぐに実画で確認することができたのが、非常に精神的にも落ち着けて、撮影を心地良く進めることが出来ました。今回は大作で、しかも撮影時間も限られているし、撮りこぼしも出来ない作品なので、もう、こうなったら現場にずっと編集ユニットが欲しい!と思ってバスクさんにお願いしました。『踊る大捜査線』という作品は、僕にとっても特別な作品で、求められる及第点も高く失敗することのできない、非常にプレッシャーのかかる作品です。ですので、リテイクの細かい部分の判断にしても、とても気を使う現場が毎日のように続きます。そんなときに、この様々な不安要素を解消してくれたのが、このAvidの現場編集ユニットなのです。とにかくその場で判断してどんどん演出を進めて行けるので、もう僕の現場にとっては、無くてはならない存在ですね。」(本広)
「実は、本広組にはスクリプターという人がいません。その分編集マンに課せられる重責はあるのですが、現場編集ユニットが撮影現場にあれば、すぐに撮影結果や場面のつながりを確認できますし、編集室ではトライ&エラーでさらに追い込みができます。この積み重ねが結果的に良い作品になっていくので、そうした部分でもAvidを使っている恩恵は大きいと思いますね」。(田口)
「やはり田口さんが編集したものと、他の人が編集したものでは出来ももちろん違います。おそらくその編集マンの”自信”の違いなのだと思いますが、現場の演出も自信があると無駄なものは撮らなくなります。現場で無駄なものを撮っていると芝居も枯れてくる。演出は生モノですからね。どの分野でも自信のない人は無駄なものが多いのです。だからそういう無駄をなくして研ぎすまされてくると、今度はスタッフや役者たちの人間関係も強くなって、いっしょにモノを作っているという一体感も生まれてくる。今回、亀山(千広)さんも普段はTV局の役員なのに、いつになく現場のプロデューサーをされていました(笑)。そういう意味で『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』は、今まででも一番無駄のない研ぎすまされた作品です。脚本はもちろん、撮影から編集のワークフロー、プロデューサーからスタッフまで人間関係も一体となった、良い作品に仕上がったと思っています」。(本広)
「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」は、7月3日より全国ロードショー中だ。

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