デジタルサイネージにおけるコンテンツ表現ショーケース
デジタルサイネージは、家以外の場所に設置されたディスプレイなどの表示装置を用いて、何らかの情報を提供するものだ。情報には広告、販促、電車運行情報のようなインフォメーション、アンビエントなどがある。いずれの場合にも、必ず設置場所があり、その設置場所にはその場所の特性があり、それは時間によっても変化をする。また家以外の場所であるので、設置放送も色々なケースがある。家のテレビであれば1台が横に設置される。しかしデジタルサイネージの場合は、複数台設置されたり、縦に設置されることも多い。つまり、デジタルサイネージにおけるコンテンツ表現は、テレビとは大きく異なるのである。具体的な例を見てみよう。
■APOTEKのキャンペーン
これを見ればなるほど、そういうことかと合点がいくであろう。逆のこのクリエイティブを(仮に横サイズで制作されていたとしても)家のテレビでCMとして見ても、当たり前すぎて印象には残らない。広告商品特性(この場合はヘアスプレー)と、設置場所と、センサー技術が組み合わさって、はじめて最大の効果を得ることができる好例である。
同じような事例がブリティッシュ・エアウェイズのものだ。上の事例は電車の接近と風が映像の変化のトリガーになっているわけだが、この事例は空港から飛び立つ本物の飛行機を映像が組み合わさったものだ。
■BAのキャンペーン
航空機の飛行状況はデータで公開されているので、それを元に子供が指差す動画が再生され、航空機情報がスーパーされる。この場合では、BA475便はバルセロナ発ロンドン・ヒースロー空港行きで、フライトスケジュール上は17時30分に着陸する便だ。しかし、お分かりのようにすべての飛行機がスケジュール通りに飛行しているわけではないので、リアルタイムの飛行データーが必要不可欠なのである。単なるフライトインフォメーションをここまでクリエイティブなコンテンツに作り上げたアイディアには脱帽である。これはヒースロー空港ではなくブリティッシュ・エアウェイズの広告なので、他の航空会社の便がやってきた場合にどういう表示になるのか気になってしまう。
次はバス停のデジタルサイネージの例だ。
■ペプシのキャンペーン
ちょっとドッキリカメラみたいな演出ではあるが、これを何も知らずに実際に体験したら相当驚くに違いない。もちろんバス停なので、周りの人が気づいて楽しんでいることが映像からもよく分かる。これは言ってみればリアルとバーチャルの合体ということで、大型の高精細ディスプレイであるがゆえに実現できることだ。しかしながら日本だと、様々な規制や、リアルすぎてぶつかると危ないと言われそうで、多分実現しないだろうなと思ってしまうのは残念ではある。
海外の事例が続いたので、国内事例も見てみよう。最初は今ではあちこちのデジタルサイネージで見られるようになった縦型設置の特性と、キャラクターを上手く活用したものである。
■ホールズのキャンペーン
これはホールズとラブプラスのコラボレーション企画で、当時話題になった寧々さんというラブプラスのキャラクターが登場し、ディスプレイをエレベーターのカゴに見立てて寧々さんが消えてしまうわけだ。シンプルだがアイディアが素晴らしい。これもまたテレビCMで16:9の画角でCMでオンエアしても、何のことだかさっぱりわからないだろう。また一方で、このアイディアは今では縦型設置のディスプレイが目新しくなくなってしまっているので、もうこのままでは使えないだろう。クリエイティブにはタイミングも重要なのである。
国内の直近の事例は、JR品川駅の44面のディスプレイを活用したものだ。
■J・ADビジョン
品川駅の自由通路には片側に11面ずつ、左右表裏に合計44面の65インチディスプレイが設置されている。媒体名はJ・ADビジョンだ。この通路を行き交う人に、スケーターが動きまわるというダイナミックなクリエイティブは、前後方向に多数設置されたディスプレイを活かしたものだ。
PRONEWS読者にはお分かりの通り、これを実現するのは結構大変である。品川のこの場所の場合では、それぞれのディスプレイにSTBが設置されており、微妙な時間差で創出することでこうした表現を可能にしているので、ディスプレイに表示される映像はHD(720X1280)である。仮想的な大画面1面の分割・切り出し表示で実現させようするのは、この面数と解像度だと現実的ではないからである。
デジタルサイネージの可能性を垣間みる
こうしたクリエイティブを見ると、デジタルサイネージにはテレビにはできない、極めてインパクトがある表現の可能性を感じることだろう。やはり大切なのは、そのデジタルサイネージはどういう場所にどのように設置されているのか、ロケーションの持つ意味と、そこにどういう技術を組み込むことでどういうクリエイティブが可能になるのか。その組み合わせは無限大であり、すべてはアイディア次第なのだ。テレビにはできないことが、デジタルサイネージにはまだまだできるのである。