京都駅のバス乗車案内サイネージを体験してみる

京都駅のバス乗車案内サイネージは非常に素晴らしい。しかし同時に非常に残念なのだ。個々の機能は非常に便利なのだが、トータルなサイン計画やコミュニケーション設計ができていないからだ。2020年に向けて、ここをベンチマークとすることは非常に重要であると思われるのでレポートして見る。

いうまでもなく、京都は観光で訪れる人が多い。それは日本人と外国人の両方だ。観光客は京都には当然不案内なのだが、京都の観光地はバスでアクセスする場所が多い。バスというのは不案内な観光客には非常に難易度が高い乗り物だ。読者の中にもニューヨークの地下鉄に乗ったことがある方は多いと思うが、バスに乗ったことがある人はきっと少ないのではないだろうか。

ではあなたが観光で京都にやってきたと想定して、この場所での動きを見ていこう。まずは京都駅に降り立った。目的地が嵐山だとしよう。新幹線とは反対の中央口を出て少しだけ歩くと、デジタル化されたバスの乗り場案内がある。かなりの数の人が、案内板の前で自分の行き先、乗るべきバス、その乗り場、発射時間を必死で探している。ここにいる人は全員が「探している人」なのだ。

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バス乗り場案内板の前にはいつも人だかりができている

この案内板の左半分はアナログである。乗り場の配置と主要な行き先(観光ポイント)が書いてある。これらの情報は変化しないからアナログなのだ。右半分はディスプレイだ。60インチクラスだろうか、横に上下2面になっている。ズラリと並んだ行き先は11色だろうか、エリアごとに色分けされているが、観光客にはどれだけ意味があるのだろう。目的地である嵐山をこの中から探し出さなければならない。黒い背景に白い文字なので視認性は非常に良い。そもそもディスプレイの輝度は相当高いだろう、日中でも極めてクリアに視認できる。

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左半分がアナログパネル。右半分がディスプレイ横上下2段

しかし、非常に見やすいけど探しにくいのだ。これはディスプレイが横置きだからだと思う。人は視覚的に単純なものを探す場合には、上から下に探すほうが探しやすい。ところがこの表示環境では、左右にも探していくことになる。縦にディスプレイを何面か並べると何が違うのか。それはベゼルの存在が重要だ。このケースでは、60インチの横置きパネル1枚に横2列の表示をするのと、40インチ位の縦置きパネルを2枚に表示するのでは、探す側のストレスが違う。つまり一度に探すべき数、すなわちゴールが見えているからだ。1枚目になければ2枚目に行けばいいのが予めわかっているので小休止になる。これは筆者の経験と分析によるものだが、脳科学的に誰か証明してくれないだろうか。

またこのケースでは、情報量そのものが横方向にそれほど多くないので、ディスプレイは縦置きが適している。欧米の空港のフライトインフォメーションはほとんどが縦表示であるのにはこうした理由があるからだと思う。

では嵐山行きのバスを探そう。えーっと、あった!下段の左側に嵐山・大覚寺方面の文字がある。よく見ると「28 10:35 D3」という数字が並んでいる。これがまた難解だ。この場合必要な情報と、その優先順位を考えてみよう。28というのは路線番号で、10:35は発車時刻、D3は乗り場の番号である。ここで大切なことは時間と乗り場であって、路線番号はあまり必要がないのだが、ここでは路線番号が一番最初に、それも一番強調されて表示される。これも探す際には無意識にフィルタリング(スルー)させられているのでストレスになる。

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嵐山行き部分の表示の拡大

これで10:35にD3乗り場から出るバスに乗車すればいいことがわかった。当然D3の場所はわからないので再び探すことになる。そこで左のアナログパネルを見るわけだが、右のデジタルが読める位置からだとアナログパネルが読めないので移動を強いられる。ここで人の交錯が発生してしまう。

バスを利用した京都観光案内サービス「B-navi」の存在

さあ無事にD3乗り場の場所がわかった。そちらに向かおうとすると何やら「B-navi」なるものの看板が見える。これは無料Wi-Fiに連動した、バスを利用した京都観光案内サービスのようだ。こういうサービスの案内は、駅からの動線で言うと、本来もっと手前にあるべきなのだが、なぜか観光客の問題が解決してから、こうした便利なツールの存在がわかるのである。明らかに動線設計が間違っているのだ。

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動線的に適切ではない場所にあるB-naviの大きな紹介看板シール

せっかくなので「B-navi」を試してみたが、これが接続までの難易度が非常に高い。どうやらSSID「B-navi」を探して接続するようなのだが、SSIDというものが果たしてどれくらい認知されていて、うまく接続できるのだろうか。現場には7名くらいで見に行ったのだが、なかなか接続されない。接続できてもブラウザを立ち上げるというところがわからない人も多いと思われる。後でわかったことだが、接続のためのWi-Fi関連インフラが脆弱なようで、接続したとしてもびくとも動かないことも多かった。

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バス停のポールに貼ってある小さくてわかりにくいB-naviの紹介

こうしたいくつかの障壁を乗り換えて、このB-naviを使ってみると、これはWEBアプリというかWEBそのもので、コンテンツは非常によく出来ている。わかりやすくて親切かつ適切だ。英語にも対応している。このあたりはJapan Free Wi-Fiに組み込んで、日本各地で同じように使えるのがいいと思う。またWi-Fiスポットから移動しても利用が継続できるよう、LTEなどからでも接続できるようにするべきだろう。

D3乗り場を探すのだが…

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D3の場所にあるディスプレイ。写真奥に小さくD3が見えている

さて、D3乗り場を探す。これがわかりにくい。D3と書いてある通常のサインが小さくて見にくい。例えば空港などではゲートナンバーは非常に大きく表示されている。ここのバスターミナルはどういうわけかこれが小さすぎる。なんとかD3を見つけても、写真のディスプレイには10時35分発という表示が出ていない。これはちょっと不安にさせる。特に外国人からすると、いちばん最初から間違えているのではないかという事を考えてしまうものだ。自分が外国でよくこういう経験をするからよくわかる。そしてこれも後でわかったのだが、発車時刻はD3にバス停ポールのLED電光表示板に出ていたのだ。

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バス停のポール。わかりにくいが発車時刻がLEDで表示される(これはD3ではない別の場所ポールの写真)

ほんの少しの工夫だけで便利になるはず

京都駅のバス停案内は、すべての機能、パーツは相当良く出来ている。しかし一つ一つがちぐはぐで、トータルな動線やサイン計画、コミュニケーション設計がなされていないのだ。想像だが運営主体が違うとか、縦割り別発注で全体をプランニングしていないのだろう。それぞれをほんの少しだけ変えることで劇的に利便性が上がるだけに、もったいない。

2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、こうしたバス停案内に限らず、サイネージが東京エリアや全国の観光スポットに続々と導入されると思う。ぜひ実際に京都のこれを体験して、トータルな設計によって、ほんの少しの工夫だけで飛躍的に利便性が上がるということを実感してみていただきたい。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。