2024年7月25日にオープンした渋谷SAKURAテラスのサイネージを確認してきた。ここのサイネージは、従来のこうした再開発や商業施設のそれとは若干異なっている、なかなかユニークなものだった。
最初に、デジタルサイネージとはあまり関係ないような、いや、もしかすると非常に重要なことなのかもしれないが、この渋谷SAKURAテラスは、渋谷再開発の他のエリアや施設と比較して大きく異なっている点があるように感じる。それは、買い物や飲食に来るような一見さん、またはよそ者が対象ではなく、勤務者、居住者、つまり日常使いの街なのだろうと感じた点だ。これは映像コミュニケーション設計には大きな影響を与えていると思うのである。公式サイトを見るとそれに近いことがちゃんと書かれている。
極めてユニークで斬新なLEDビジョン「Street Vision」
実は4月にプレオープンした時と、正式オープン後の8月7日の2回出かけて撮影をしている。何と言ってもStreet Visionが非常にユニークだ。これはLEDディスプレイなのだが、横長の5面ディスプレイと、その周辺に四角いLEDディスプレイがデザインされて配置されている。この四角いディスプレイは、正確に言うと全部ではないが立方体、キューブ状になっていて、側面や底面にも映像が表示される。これはこの真下にエスカレーターがあることを意識しているものと思われる。そして全体がトラスのような金属のフレームによる構造体に収納されている。
5面のディスプレイと自動連動する周辺の一部キューブ状のディスプレイ
横長部分は広告を想定していると思われるが、周辺のディスプレイは色連動していて、一番大きなディスプレイに表示されている映像から自動抽出して、グラフィックス化しているのである。言い方を変えると、異型ディスプレイの使い方としては今までないもので、全てのディスプレイ面を独占利用しないという見方もできる。それでいてかつての画面分割とは全く異なるクオリティーとインパクトがある。
自動生成されるグラフィックスにはどういうものがあるのか、選択ができるのか、いまは1秒間隔で変化しているようだが、そこも含めて変えられるものなのか。そして全体としてこれが効果的であると広告主が判断するのか、などなど注目ポイントが多い。
クリエイティブ視点からは、元素材からAIでテキスト抽出して、それを周辺のキューブに1文字ずつ表示させるとか、全面を利用してクロスワードパズルのようなコンテンツ化するとか、アイディアがすぐに出てくる。
いずれにせよ、かなりユニークかつ期待値が高い媒体ではないかと思う。
5面ディスプレイ部分に「ベゼルを表示」させることでクオリティーが上がっている
なおこれらのコンテンツ例は4月のプレオープン時のもので、8月7日時点ではオープニングイベントの抽選会?の様子が表示されている。
この状態だと5面のディスプレイがあることも、周辺が色連動できることもわからない。つまり使い分けができるということである
このようにStreet Visionは極めてユニークな表示スタイルとユニークな設置状況で、恐らく世界でここ以外にはないのではないだろうか。筆者は展示会などの例も含めて、このパターンは初めて見た。LEDディスプレイの非常に新しい使い方である。なお細かい仕様については、後ほど紹介する資料で確認していただきたい。
あのUNIQLOCKライクな「Corridor Vision」
こちらは普通の縦長LEDディスプレイなのだが、こちらも考え方はStreet Visionと似ている。入稿素材が全面に表示されるのではなく、媒体資料によると周辺部分は「時計要素+Street Visionと連動するようなグラフィック」が表示される。
4月に表示されていた時計要素のコンテンツ
媒体資料によると周辺部分は「時計要素+Street Visionと連動するようなグラフィック」が表示される。
時計要素といえばサイネージでも利用されたUNIQLOCKが思い出される。時計というコンテンツは間違いなくデジタルサイネージにおける最強のキラーコンテンツだ。いかなる人であっても、いかなる状況に於いても時間を気にしていない人はいないからである。Corridor Visionでも4月に時刻コンテンツが表示されていた。こういったものの中に入稿素材がはめ込まれるのだろうか。トータルなクリエイティブとして、入稿素材とうまくマッチさせることができるものなのか、非常に興味があるところだ。
イベントスペース内の「Space Vision」
これはイベントスペースである「BLOOM GATE」内の大型LEDビジョンである。普通に媒体として使用できるようだが、イベントスペース利用者が優先されるという変則な販売となっている。イベントスペースの稼働状況次第だろうが、ドアとガラスの向こう側の空間に設置されているので、イベントとは別にサイネージ単独での利用はどれくらいあるのかわからない。
他にはPillar VisionとRail Visionという超細長い媒体があるようだが、周辺の再開発が現在進行系のため、これらはまだ先のスタートのようである。
フロアマップと照明サイネージ
またデジタルサイネージという扱いになっていないのであるが、フロアマップにも注目しておきたい。左側にアナログのマップが、右側には2面のLCDディスプレイが設置されている。ディスプレイはタッチパネルにしたいところだがそうではない。ときどき表示が変わる。変わると行っても広告が出るわけではなく、情報が切り替わるだけである。
この考え方は、以前本稿でも指摘した麻布台ヒルズの考え方と同じである。特にテナント情報は頻繁に変更になるのが常なので、デジタル化しているのである。これまでの経験によってインタラクティブ性はあまり必要とされておらず、コストに見合わないという判断なのではないかと思う。確かにアナログ側の情報は、よく見るとほぼ変更がないものなのだ。
またこれがデジタルサイネージなのかという議論はあると思うが、オフィスエントランスフロアに向かうエスカレーターの壁面も良かった。もちろんLEDが埋め込まれているのだが、こうして可変表示されると空間の印象が大きく変わる。重要なのはこれを良しとした場合に、どうやって表示を制御するのかである。通常のディスプレイではないので、コンテンツと表示システムは従来のサイネージのものは使えない。これはいわゆる電飾の世界である。ここをカバーできている会社やシステムは案外ブルー・オーシャンなのではないだろうか。
ディスニーランドのスペースマウンテンのような期待値の醸成、というと言い過ぎか
またフードコートのようなエリアには、今となってはクラシカルと言えるLCDによる5面マルチがあった。これはこれで場面によってはまだまだ有りなのだと思う。
懐かしいLCD5面マルチ
施設としては派手さがないかもしれない渋谷SAKURAテラスは、デジタルサイネージ目線では様々な挑戦やヒントが溢れている場所だと感じた。まだまだ続く渋谷再開発の中で、エリア特性に対してデジタルサイネージが貢献していくことを期待している。
最後に、渋谷SAKURAテラスのデジタルサイネージに関する資料は、こちらからダウンロード可能である。