イオンモール岡山と岡山放送の連携事例に注目

大型ショッピングモールのデジタルサイネージと見るか、ローカルテレビ局の新ビジネスと見るか、イオンモール岡山と岡山放送の連携事例は様々な視点から注目できる場所だ。また「街に飛び出すインターネットであるデジタルサイネージ」が「デジタルサイネージがインターネットに漕ぎ出した」という見方もできる事例でもある。

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300インチの大画面

岡山駅のすぐ近くに、昨年イオンモール岡山がオープンした。そのモールの中には、岡山放送(フジテレビ系列)が本社機能の一部を移転させた。このイオンモールおよびその周辺には、複数の運営主体によるデジタルサイネージがある。そのうちの一つ「haremachi TV」は、岡山放送が制作と運営を行っている。デジタルサイネージの表示場所は中央の吹き抜け部分に設置された300インチの大型ビジョンと、モール内の各所に設置された52台の専用端末である。館内の代表的な設置状況を見ていただこう。

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エスカレーター横の端末

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別のエスカレーター。ソファーからは遠過ぎて視認できない

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館内案内版の隣

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トイレの近くの狭い通路

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2Fの通路には4面マルチ

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フードコート

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この場所でこのコンテンツを立ち止まってみるとは考えにくいのだが。実際ここで15分観察し、画面に目を向けた人はいたが、視聴した人は誰もいなかった

率直に言って、残念ながら通常はほとんど誰も見ていない。イベントが行われるタイミングに立ち会っていないのでなんとも言えないが、見てもらえない理由は簡単である。設置場所と、その場所における人々の状態と、コンテンツが合っていないからである。コンテンツはモール内のお店の紹介を、テレビ番組と同じ形式で制作している。

レポーターがお店に行ってインタビューをして、時折大きなテロップが入る。情報バラエティ番組そのものである。来店誘導や商品紹介をしたいなら、こういったちゃんと見ないとわからない形式ではなく、1枚の写真と文字のほうがはるかにわかりやすい。実はこのharemachi TVはインターネットでもリアルタイムで配信されているのでご覧いただきたい。

これはテレビのような視聴態度であれば成立するが、モール内を歩いている人には残念ながら届かない。このことに関係者が気がついているかどうかは知る由もないが、テレビ的にはこの作り方は正しいので、ひょっとするとわかっていないのかもしれない。店内にいる人々は、テレビを見に来ているわけではなく、こういった別の目的で、あるいは目的なしでその場所にいる人々に対して、興味関心を持ってもらうのがデジタルサイネージの役回りである。テレビはあくまでも見る側に見る意思があるというのが大前提だが、デジタルサイネージは見る意思がない、という前提で作られるべきなのだ。

haremachi TVは設備的にも、デジタルサイネージというよりは放送そのものである。ミニスタジオとサブ、マスターがコンパクトではあるが公開された場所にある。通常のサイネージのようなローカル端末側でのデータ蓄積型ではなく、あくまでも館内の有線放送という位置づけである。当然ながら放送形式のほうがイニシャル、ランニング共にコストがかかる。これは放送のように、常に番組が変わっていくような編成をする場合は放送形式にならざるを得ないが、ほとんどのデジタルサイネージは長くても10分程度のコンテンツが繰り返される程度で十分だ。

そのためにローカルにファイルを蓄積させて、プレイリストだけで編成を変えていく形式が効率がいい。前述のように、館内での接触態度を考えれば、こういった大型商業施設では放送系のコンテンツ自体が適合していないので、通常のサイネージと比較すると設備としては非常に重たく、コストがかかるものになる。

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吹き抜けの大空間。中央下部がスタジオとマスター

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放送中だが足を止める人は少ない。スタジオ本番中は異なるかもしれない

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ミニスタジオ

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サブ兼送出マスター

デジタルサイネージは、インターネットに漕ぎ出すべきなのではないだろうか

一点面白いのは、デジタルサイネージがインターネットでサイマル放送である点だ。サイマルという時点で放送的なのであるが、これはどちらかと言うと館内サイネージ放送(?)をそのままサイマルでネットに出すという発想だと思うが、「サイネージをネットにも共有させる」という点は今後のトレンドになっていくと思われる。

こういった商業施設では、館内のお客様と館内にいないお客様と、どういったコミュニケーションをとるのかが課題になる。館内にいる間は、ポイントとタイミングを工夫すればコミュニケーションがとれる場面はたくさんある。レジ前やエレベーターなどだ。問題は館内にいない場合で、これは専用アプリを作ったとしても、日常的にそれを使う必然がないのでなかなかうまく行かない。

haremachi TVも、どうにかコンテンツを工夫して館内では視聴されたとしても、これを家や出先でわざわざ視聴するとは到底思えない。そこで今後は日常的なネットサービスと連携、あるいはSNSそのものをサイネージに使うという方向性になっていく、デジタルサイネージがインターネットに漕ぎ出すべきなのではないだろうか。事例もいくつか出てきているので、改めて紹介をしたいと思っている。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。