txt:江口靖二 構成:編集部

今年も6月10日から12日までの3日間、幕張メッセで「デジタルサイネージジャパン(DSJ)2015」が開催された。今年で7回目の開催になるこの展示会は、「Interop」や「Connected Media」、「APPS JAPAN」などと合わせて、13万6000人以上が来場した。DSJ2015のトピックとしては、何と言っても8Kサイネージであったと思う。

やっと?4Kが続々導入されはじめた

4Kが徐々に現実的なものになりつつある中で、デジタルサイネージの世界でも今年の4月以降、常設の4Kサイネージが続々導入されている。いまのところはJR東京駅、西武池袋駅、東急渋谷駅、阪急梅田駅などで広告利用での導入が進んだ。

とはいいながらも、実際には4Kですらまだ導入途上であるわけだが、DSJ2015ではデジタルサイネージコンソーシアムとNHKと共同で、「8Kサイネージプロジェクト」を進めてきた。これは8Kの利用用途として、放送、医療、パブリックビューイングに加えて、デジタルサイネージも非常に有望であると考えるからだ。放送に関しては国が定めるロードマップに従って、粛々と実用化に向けた取り組みが進んでいる。医療の世界でも同様だ。これらに加え、8Kの解像度はデジタルサイネージにこそ、最も成長性が期待されているのではないか、という仮説である。

デジタルサイネージにおける8Kには、2つの方向性がある。ひとつは高い解像度を活かした大画面化である。すでにマルチディスプレイであれば8K以上の解像度で運用されている事例が多数ある。たとえば羽田空港の国際線ターミナルには、32面マルチで12Kで表示されている。こうしたマルチ画面はもちろん、80インチを超える利用シーンは駅構内や空港、大型商業施設などで潜在的なニーズは高い。また100インチを超えるような屋外大型ビジョンでは、更なる高画質化のニーズも高い。LEDディスプレイの低価格化もこれに拍車をかけている。2020年のオリンピックに向けて各種施設や街頭に、パブリックビューイング用の施設も相当数導入されるに違いない。

もう一つの利用は高画質化を活かしたコンテンツニーズも強いということだ。例えば化粧品やジュエリー、車などでは、印刷との画質比較において、デジタルサイネージの利用を躊躇する広告主もあるのも事実だ。今回の「8Kサイネージプロジェクト」では、これらの可能性を検証することが目的でスタートした。デジタルサイネージコンソーシアムでは、NHKと検討を重ねて、これらの検証のために、世界ではじめてデジタルサイネージのためだけのコンテンツを実際に企画し制作した。これをDSJ2015会場内に設けられた8Kパビリオンにて公開展示を行ったのである。

デジタルサイネージと8Kは相性がいい

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現実にはあり得ないサイズで、現実以上の高解像度で表現される映像のインパクトは圧巻だ

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京都の観光サイネージを想定したもの

まずデジタルサイネージの特徴として縦画面での利用が想定されるので、98インチのディスプレイを縦に設置する前提で企画を進めた。このディスプレイも、BOE社の協力により、縦設置ができるものを用意した。現時点で世界にはこれ1台しか無い。そしてデジタルサイネージコンソーシアム会員から広く企画を募集して、実際のサイネージとして見た場合に、8Kの特徴があるものを厳選して制作に入った。制作に関してはNHKの全面協力を得ることができた。選ばれた企画は3点で、ジェイアール東海エージェンシーの企画による京都の観光サイネージを想定したもの、森ビルの企画による東京のランドスケープを表現したもの、そしてHNKエンタープライズによる化粧品メーカーを想定した女性のアップを多用した企画である。

京都と女性モデルの撮影にはソニーのF65を、東京の都市景観にはニコンのD800によるタイムラプス撮影を行った。これまでNHKでは放送利用を想定した景色やドラマ、あるいはライブのような作品を多数制作してきたのだが、これらとは接触態度が異なるデジタルサイネージの場合、より短時間で、よりインパクトのあるものが求められると考えられる。そこで特に女性モデルの企画では、製作過程における課題と実際に表示した場合のインパクトを検証した。


特に制作上の課題も浮き彫りに

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産毛の一本一本まで再現される8Kサイネージ。インパクトはサイネージにとって非常に重要だ

8Kではこれまで以上に細部まで再現可能なので、例えばメイクにも今までよりもはるかに多くの時間を要した。例えばマスカラひとつ取っても、いままで気にならなかった「ダマ」になってしまう部分が気になってしまうので、ヘアメイクさんたちは大型のルーペで確認しながらの撮影となった。合わせて照明のセッティングにも多くに時間を必要とした。

こうした今まで以上に手間を掛けて実際に得られる映像と、それをデジタルサイネージとして見た場合に、手間に見合うだけのインパクトを得られるかどうかがポイントである。結果としてはそのリアルさ、臨場感は圧倒的なものであったと言えよう。何年か後に、おそらく2020年頃までには、機材やポスプロ関連にかかる費用は問題ない程度まで低下することは間違いない。HDや4Kがそうであった、そうなりつつあるようにである。

可能性を現実味に変える努力

前述した西武池袋駅では、HDと4Kのサイネージを至近距離で比較できる設置環境になっている。そこでは4Kの表現力が際立っていることが確認できる。そして今回98インチ縦で8Kサイネージコンテンツを見てしまうと、4Kにすら戻れないことは誰しも感じたことだろう。2020年というのはやはり一つのターニングポイントになるだろうし、コスト面がクリアになれば(必ずなるのだが)、デジタルサイネージにおける8Kのニーズはかなり明確であることは検証されたのではないかと考えている。

冒頭で述べたように、4Kですらまだまだこれからであるわけだが、デジタルサイネージの普及を加速させるためには8Kサイネージの可能性は無限大であり、多くの人々の努力と挑戦が必要である。今回のトライアルは一つの大きなきっかけになったのではないだろうか。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。