txt:江口靖二 構成:編集部

Digital Signage Expo 2017から見えたサイネージの今

デジタルサイネージは、広告、販促、情報提供などの目的で利用が進んでいるが、実際の利用シーンにも変化の兆しを感じるようになってきた。それは一見わかりにくいのだが、私達の生活シーンの中で、より自然に溶け込んでいくために必要なことが数多く感じられるのである。こうした変化をDigital Signage Expo 2017(DSE)からピックアップしてみたい。

ディスプレイテクノロジーの進化

両面がディスプレイになっている

言うまでもなく、ディスプレイ技術は日々進化を遂げている。テレビなどの家庭内用途では4K/8KやHDRがトレンドである。デジタルサイネージももちろん同じであるが、家以外の場所での利用であるデジタルサイネージの視点からすると、これらとは別の進化と可能性を感じている。

厚さ3.65mmのLEの55インチOLED

例えばLGの超薄型OLEDディスプレイ。「ウォールペーパー サイネージ」と名付けられた55インチのOLEDは、その厚さわずか3.65mm(OLEパネル自体は0.97mmしかない)、ベゼル厚1.2mmの超薄型、超狭額である。これは数字以上に実際に壁面に設置するとかなりのインパクトがある。インパクトというのは、空間に溶け込むというかディスプレイの存在を忘れさせるものだ。

紙のポスターのようにディスプレイの存在感はほとんど感じられないレベルに

これまでもLCDを中心に薄型化の競争が進み、十分薄くなっていたのだが10mmを超える薄さはまた別次元のものになる。とくに商業施設などのデザインされた空間においては、ディスプレイ自体はその存在を感じさせることなく、必要な情報だけを表示することが本来あるべき姿である。従来のようにディスプレイスタンドや壁掛け金具といったものではなく、まさに紙のポスターを貼るような感覚である。

さらに空間上に吊るした場合には、両面に映像を表示できるものも登場してきた。これはやはり商業空間ではデジタルサイネージの設置場所や表現力、提供されるコンテンツの中身に重要な変化をもたらしていくだろう。

ユニット化されているLEDディスプレイの裏面

一方でLEDディスプレイがユニット化され、ユニットの組み合わせで大画面化が容易になってきた。メンテナンス上においてもユニット化は重要なことである。こうしたLEDディスプレイを複数枚組み合わせ、100インチを超えて300や400インチという表示環境が手軽に構築できるようになってきた。こうした大画面化は、4K/8Kがどんどん手軽に扱えるようになったことと併せて、さらに進展していくに違いない。

狭額になってもベゼルの存在はどうしても気になる

またユニット化によって、LCDを複数台組み合わせることによるマルチディスプレイ構成においては、ベゼルが非常に気になるようになってきた。狭額といってもベゼルがあることが視認できてしまうと、どうしてもそこは弱点となる。そのため今後は1画面で100インチを超えるサイズでは、マルチ画面構成は衰退していくことになるだろう。

逆に言えば、わざと各ディスプレイ間隔を開けて設置するような方向性、その設置形状をもともとの空間にマッチしたものにして、かつコンテンツ表現もディスプレイの隙間を活かした演出を施すことで差別化していく必要があると思われる。

デジタルKIOSKの進化

Coates社の決済機能付きのKIOSK端末

オンラインショッピングが活況である。そしてその主流はパソコンからスマホにシフトしている。指先で画面をタッチにながら買い物をすることに、いつの間にか私たちは抵抗を感じなくなってきた。こうしたユーザー体験の変化は、リアルな店舗にも浸透していく可能性が高い。それを予感させるようなショッピング用のKIOSK端末の展示も増えてきた。

こうしたKIOSK端末の多くは、筐体デザインもかなり洗練されたものになっている。日本では居酒屋チェーンやカラオケボックス、回転寿司などでもこうした注文端末はすでにポピュラーだ。例えばマクドナルドは、日本も含めて世界各地でセルフ注文用のKIOSK端末の導入を進めている。導入目的は人件費の削減と、金銭授受による時間の節約やミスの低減だ。クレジットカードだけではなく、電子マネーやスマートフォン決済の普及も追い風になっていくだろう。

デザインも工夫されている

店舗の営業形態、取り扱う商品やサービスによってKIOSK端末の役割も異なってくるだろうが、決済まで完結しなくてもデジタルカタログ的なものもあるだろう。また日本ではほとんど目にしないが、特に中華圏と欧州では、飲食店の多言語化されたメニューがタブレットで提供されている例は極めて一般的である。

日本のアドバンテージはどこか

では欧米やアジア圏のサイネージに対して、日本のアドバンテージはどこにあるのか。それはIoT的なものというか、各種のセンサー類を利用するものだと思われる。コインロッカーやトイレの空き状況の表示、商品バーコードを読み込ませてクイズ的な販促ツールに仕立てたものや生鮮品のトレーサビリティー情報を表示させるものなど、細々した利用シーンに丁寧かつ柔軟に対応するような事例は日本以外では見かけない。

こうしたものは必ずしも導入や運用に対して予算が十分確保されているわけではないので、すでに導入が進んでいるRaspberry Piをサイネージ用のSTBに最適化していくなどの工夫も日本ならではのものであろう。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。