那覇の国際通りに98面という大規模なデジタルサイネージの運用が開始された。事業主体は沖縄振興エリアマネジメント推進共同体運営事務局で、沖縄電力、那覇市国際通り商店街振興組合連合会、琉球新報社で構成されている。

国際通りは、沖縄県那覇市の中心部にある約1.6キロメートルにわたって続く、観光スポットとして有名な商店街である。通りには多くの土産物店、飲食店、衣料品店などが立ち並んでいる。沖縄を訪れる観光客にとって、必須とも言える観光地の一つとなっている。7月17日に筆者が訪れた時には、通りを歩く人の8割は外国人観光客だった。

県庁前側から牧志方向を臨む

ここはアーケード商店街ではないので、デジタルサイネージディスプレイは沖縄の強い日差しと雨風に直接晒されることになり、設備的には極めて厳しい環境にある。また商店街としての賑いや、看板やサインの類がもともと非常に多く、ストリートとしての視覚情報は、渋谷センター街のようにそもそも過度とも言ってよい。

こうした環境において、今回のデジタルサイネージが現地で実際にどう見えるのか、事業として成立するのか、それは維持できるものなのかをこの目で確かめるのが、今回の沖縄入りの目的である。

媒体名は「那覇国際通りストリートビジョン」という。電線地中化に伴って路上に露出している変圧器部分を利用したパワーグリッドビジョンと、電柱に吊り下げたスカイキューブビジョンがそれぞれ49台、合計98面で構成されている。

最初にパワーグリッドビジョンの動画をご覧いただきたい。

パワーグリッドビジョン

比較的解像度が粗いLEDで、パネルはCOBだと思われる。トランスの上に新たに筐体を追加し、L字になるようにLEDが設置されている。これによって歩行者からは視認しやすくなっている。かつて東京都内で東京電力などが行っていた実証実験では、歩行者に対して垂直方向だけにLCDが設置されていたため全く視認されなかったが、そのときとは大きく異なる。これはLED化によって実現できたことである。

国際通りの両側に設置されていて、歩道に対してのL字の垂直面は、上り下りで逆側にLEDが設置されている。これによって逆方向の面もなんとなくではあるが、視認できるようになっている。

L字面の設置が上り下りで異なるようにしてある

コンテンツについては広告、公共PR、ニュースと天気予報が表示されている。クリエイティブについては、L字面を利用した構成のものと、16:9をそのまま折り返しているものが混在している。

L字面を意識したクリエイティブの例
L字面を意識していない例

筐体上部には垂直水平両方向の面にカメラが埋め込まれている。このカメラが何をしているかは表示がなく、筐体に貼られているステッカーで確認できる「沖縄振興エリアマネジメント推進共同体運営事務局」のWebサイトは存在していないので、いかなるセンシングをしているのかの情報を得ることができない。これは一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムの策定しているセンシングサイネージガイドラインに準拠しているのであれば、その旨を表示するべきである。

カメラが見える
これ以上の情報の掲示はない

続いてこちらがスカイキューブビジョンである。

この立方体型のビジョンはユニクロが利用していて非常に目を引くのだが、クリエイティブに大きく左右される。このクリエイティブは難易度が極めて高いと言えるので、ぜひとも工夫をこらしてもらいたい。

それではこれらのビジョンを、実際に通りを歩いて撮影してみたので、確認をしていただきたい。時刻は夕暮れ時で、サイネージディスプレイも既存のサイン類もどちらも見やすい時間帯を選んでいる。

実際に歩いてみた様子

パワーグリッドビジョンとスカイキューブビジョンのどちらも、各ディスプレイ間は同期が取れていない、あるいは取っていないように見える。一覧性はないこの見え方であれば大きな問題とは思わないが、時々同期しているように見える時もあって、気になってしまった。

もうひとつ気になったのは、スタートして1ヶ月にも満たないにも関わらず、パワーグリッドビジョンとスカイキューブビジョンの両方で、複数箇所において画面のフリーズなどの表示の不具合が発生していたことだ。

あえて動画で紹介はしないが、表示の不具合が少なくとも5箇所はあった

実際に現地で感じたことは、もともとある(いい意味で)商店街の持つ情報ノイズに、今回新たに情報を可変表示できるデジモノが加わったことで、国際通りは以前にも増して猥雑な空間になっていた。これが沖縄的に正しいのか、国際通り的に正しいのかは、私にはまだよくわからない。

ただ、事前の予測よりは、さらなるカオスな空間の創出という点で一定以上の効果があると感じたのは事実である。

那覇国際通りストリートビジョンは広告ベースの媒体だが、広告主がこの媒体をどう評価するのか、過酷な環境下においてハードウエアが耐えられるのか、運用体制が費用面も含めて継続して維持できていくのかを注目していきたい媒体である。

本件は内閣府の「沖縄振興特定事業推進費」を活用して行われるとのことだが、公的なサイネージの大部分は、これまでのところ公的資金が途絶えた瞬間に、維持ができなくなるのが現実である。国内外から多くの観光客(なんと823万人!)が訪れる、日本を代表する観光地のひとつである国際通りである。なんとしてもきちんとした運用が継続されることを切に願う。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。