txt:江口靖二 構成:編集部

川越にある観光案内サイネージ

このところ観光案内に特化したデジタルサイネージがとても多くなっている。しかし日本国内にはあまり使い勝手のいいものがなかった。それはUIだったり、タッチパネルの感度だったり、画面がサクサクと動かなかったりと課題が多かった。そんな中、川越にある観光案内サイネージは非常にいいものに仕上がっているので紹介しておきたい。

最初に観光サイネージの有効性について触れておきたい。言うまでもなく、それが国内であろうが海外であろうが、人は見知らぬ場所に出かけたときには、何らかのガイドやアシストが必要になる。かつてそれはガイドブックの役割だったが、今はスマホがある。スマホはもちろん見知らぬ街を旅するときにはとても便利な道具だ。だがそれは、特定の観光ポイントやレストランに行きたいといった、目的が明確な場合には便利だが、どこに行こう、何をしようというあいまいな状況には向いていない。こうした場合には観光に特化しながら様々なニーズに応えられる方がいい。

観光サイネージは利用者にとってメリットが多いのだが、どういうビジネスモデルにするかが問題になる。自治体や観光協会が運用するものが多いが、この場合の導入や運用のコストは公的機関が継続的に負担することになる。一方で公的な資金で回っているデジタルサイネージは、民間だけで動いているものに比べて放置されやすい。例えば広告媒体として運用されているサイネージであれば、画面が消えて「調整中」という張り紙をするような状況は許されるものではないが、公的なものでは案外そういう例が多い。

この川越の観光サイネージは、表示灯株式会社によって設置運営されている。設置場所は東武東上線の川越市駅の改札を出たところだ。上部にあるディスプレイは広告専用で、下の部分にタッチパネルディスプレイが設置されている。同社はもともと駅前地図を広告媒体化していた会社で、地図の設置費用を負担する代わりに広告媒体化して運営するという事業モデルである。

最近ではこうした案内地図が急ピッチでデジタル化されており、駅から自治体施設などに範囲を拡大している。自治体や観光協会からすると、低コストで案内サイネージが導入できるし、管理運営もやってくれるのであれば渡りに船というわけだ。こうした企業による明確な事業モデルで運営されているので、きちんと管理された媒体になっている。

上段は近隣の企業や飲食店の広告が表示され、下段が観光案内用になっている

観光案内部分にはいろいろと工夫が施されている。上段の広告用ディスプレイはある程度の大きさを確保する必要があるので42インチである。ときどきもっと大きなサイズのタッチパネルを見かけることがあるが、タッチ操作するとディスプレイまでの距離に対してサイズが大きすぎるので、端の方に表示される情報はとても読みにくいことが多い。このサイズであればタッチパネルまで手が届きやすいし、手が届く範囲から画面を見てもきちんと隅々まで見やすい。またこの高さで、もしもディスプレイが直立しているとタッチしにくく、手首が疲れやすいが、若干傾斜をつけてあるので操作しやすい。そして子供や車椅子の人にもこの傾斜と高さはとても優しい。

待ち受け画面には手書き風の地図を表示して、探している観光客の目を引くように工夫されている

42インチで横型設置を前提としたUIデザインは、基本のメニューボタンを左側にまとめて配置してある。そこからの階層構造は3階層目までで最終目的が達成できるようになっている。これ以上階層を深くすることはデジタルサイネージには向かない。このトップメニュー数や階層構造は、42インチ横に設置した場合を基準に決められている。

「おすすめコース」を表示しているところ。川越の観光スポットは歩ける範囲にあるのと、定番スポットがだいたい決まっている。そこでエリアの全体像を掴んでもらうためにコース図を表示する。正確な詳細地図ではないが、実際に歩いてみるとコース内のいたるところに案内板があるので迷うことはなく、観光用のデジタルサイネージとしてはこの方が正確な地図を見せられるより遥かに楽しい

またタッチ操作ができる観光案内端末であることをすぐに理解してもらうために、背景には手書き風の地図がデフォルトで表示されるように設定されている。機能がわかるようなアイコンボタンを表示するよりも、地図を見せてしまえば一目瞭然だからだ。ここは案外重要な部分で、初見で何ができるかを瞬時に理解してもらうことがとても大切である。

コース内の観光スポットの詳細情報を表示

この端末の設置場所は観光案内所のすぐ前なので、より詳細なことを知りたい場合はそちらに行けるし、すぐ横には印刷された周辺地図も置いてある。最近川越には観光客が非常に増えているので、ここの案内所は常に混雑している。そのため対面だけでなくこの端末でも案内をするとことにも意味がある。

ロボホンが読み上げてくれる機能もある

もちろんこの端末は多言語(日英繁簡韓の5言語)に対応している。面白いのは「ロボホン」が検索結果のテキストを読み上げてくれるところだ。関係者によるとテスト的に設置しているのだそうだ。スマーフォトンとの連携や、情報のプリントアウト、クーポン発行のような多機能連携は行われておらず、いい意味でシンプルに観光案内特化している非常によい端末である。実際のUIなどの感触は是非現地に行ってご確認いただきたい。首都圏からであれば週末の小旅行にちょうどいいのでオススメである。

観光案内所の入り口すぐ横に設置されている

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。