txt:江口靖二 構成:編集部

街に溢れるデジタルサイネージ

このところカメラ、赤外線などの各種センサーで店舗の混雑度を検知してデジタルサイネージで空席情報を案内したり、周辺の状況と視聴者の属性に合わせた有益な情報を提供する、あるいはデジタルサイネージの視認や接触状況を計測することで媒体価値を高めるといった事例が急速に増加している。

その一方で、生活者の知らない間に、これらのセンサーによって様々なデータが取得され、不適切に利用されてしまうかもしれない、という懸念もある。そこで、デジタルサイネージの業界団体である一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムでは、プライバシーに配慮しつつ生活者の利便性を高めるため、デジタルサイネージでカメラやセンサー類を用いるにあたって遵守すべき事項を整理した、センシングサイネージガイドライン(第1版)を発行した。

センシングサイネージガイドライン(第1版)

ガイドラインの策定にあたっては、経済産業省、総務省およびIoT推進コンソーシアムによる「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」(平成30年3月30日公表)を参考として、当該ガイドブックで対象としているカメラ画像に加え、その他のセンシングデータ(音声・静脈データ等)をデジタルサイネージで利活用するシーンを想定し、配慮事項や適用ケースをまとめている。

シンボルマークの策定

また、センサーを利活用することで生活者にとって価値の高い情報を提供するセンシングサイネージであることを示すとともに、センシングデータの適切な運用を行っていることを示すシンボルマークを策定した。ガイドラインに準拠したセンシングサイネージを設置運用する際にはこのシンボルマークを使用することができる。使用は届出制となっている。

ガイドラインの概要としてのなかから、よく誤解される事項がある。それはカメラを利用した画像認識の際に、「画像は保存していないから問題ない」という誤解である。実際に現在ではこうしたケースで画像を保存して解析することはほとんど行われていない。

しかし前述の「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」やその上位にある個人情報保護法の概念では、個人の識別が可能な情報は「個人情報」に該当し、画像そのものではなくコンピュータで利用できるように加工された情報、例えば顔画像からの特徴量抽出されたデータは「個人識別符号」に該当する。これらを6ヶ月以上保管する場合には個人情報保護法を遵守した対応が必要になる。

それ以下の場合には、取得しているデータの内容と、データの利用内容を告知する必要がある。また相談や質問を受け付けることができる連絡先も明らかにする必要がある。これらの詳細について、具体的な適用ケースも含めてガイドラインを示している。

こうした告知は、現場、サイネージ画面内、WEBサイトなどを利用して告知をすることになるが、詳細をWEBサイト以外で掲出するというのは現実的ではない。そこでガイドラインの定めた内容に従って運用されているデジタルサイネージであることを端的に示すためにシンボルマークを作成し、これを掲示することで端的に表現することができるよう配慮されている。

このシンボルマークはデジタルサイネージコンソーシアムのWebサイトから届け出をすることで入手できる。ただし同団体は認証機関ではないので、届出内容を詳細に判断することは出来ないしその立場ではない。そこで申し出があった場合は最低限の確認と、サイネージ事業者の連絡先、現場の写真の提出を求めている。細かい話だが、認識制度ではないので必ずしも100%厳密な運用ができないことが想定される。

そこでシンボルマークには明確にコピーライトを表記し、極端な場合はロゴ使用の差し止めを求められるようにしてある。

センシングサイネージのシンボルマーク

センシングサイネージガイドラインは、時代の要請、あるいはデジタルサイネージ市場の拡大のために半歩先を行くものである。最終的にはこうした利用が社会に認められるかどうか、ここが鍵なのである。たとえば街に溢れる監視カメラを考えてみるとわかりやすい。監視カメラが登場した当初は、「監視社会の到来だ」とか「オーウエルの1984の世界が現実に」などという言説が多数派であった。

しかし実際にはそこで言われるような監視社会的な利用などはなく、主に異常時(犯罪や事故発生)の際の手がかり、犯罪捜査の際に有効であること、世の中に受け入れられている。これを社会受容性があると言う。

デジタルサイネージのセンシングにおける社会受容性が鍵

デジタルサイネージによるセンシングにおいてもこの社会受容性があるとみなされるかどうか。それはこれから試されるところだ。試されるポイントは2点あって、不正な利用がないことと、利便性をもたらすことができるかどうかである。特に後者がなければ世の中には受け入れてもらえない。

一部からは、「パンドラの箱を空けた」とか「寝た子を起こすなと」いう趣旨の声も聞こえなくはないが、その閉鎖的で後ろ向きな発想は完全に誤ったものである。ガイドラインのサブタイトルにもあるように、すべては「生活者の安心と業界の健全な発展のために」である。

※執筆時点ではまだ記載できないが、このセンシングサイネージガイドラインに準拠してシンボルマークを使用している事例は、小売や駅などで間もなく複数登場する予定である

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。