ドワンゴが開催した「ニコニコ超会議2023」。コロナ禍の制限も多くが解消され、4月29~30日のリアル開催では12万人近い来場者が詰めかけた。会場の幕張メッセのほぼ全体を使う一大イベントで、大きな盛り上がりを見せたこのニコニコ超会議2023において、「超異世界転生VR」と題したブースを出展していたのがキヤノンだ。「EOS VR SYSTEM」によるVRの撮影体験を行った。

リアルとオンラインの双方で開催された「ニコニコ超会議2023」

EOS VR SYSTEMで異世界へと旅立つ

「超異世界転生VR」は、来場者が魔法世界の勇者や魔王に転生をして、ファンタジーの世界に入り込むというストーリー仕立てになっており、魔法を使っている姿をVR映像として記録してくれるほか、VRゴーグルを装着して、勇者となって魔王と対決、もしくは魔王に転生して勇者と相対する、という物語の世界を体験できる。

「超異世界転生VR」と題したキヤノンブース

この魔法を使うシーンで使われているのが「EOS R5 C」とVRレンズ「RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE」だ。まずは、このカメラとレンズの説明をしておこう。

EOS R5 CにセットしたRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE

EOS R5 Cは、約4500万画素のフルサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラで、8K動画の撮影に対応する。EOSの静止画性能に加え、8K CINEMA EOSカメラとして動画性能を追求している。

8K RAWでの60P撮影や、4K撮影時の8Kオーバーサンプリングによる高品質な4K映像の4:2:2 10bit記録、4K 120P撮影、5.9K S35mや2.9K S16mm対応などの機能を備えている。最適化された新たなCinema RAW Lightに対応し、12bitでの記録もサポートしている。長時間の動画撮影に対応する放熱ファンも内蔵する。

側面には放熱ファンも装備して長時間の録画に対応する

兄弟機のEOS R5と比べて、静止画機能よりも動画機能に重点を置いたカメラではあるが、静止画のEOSとしてのカメラ性能も備えつつ、さらにEOS VR SYSTEMに対応している点も特徴。これは、EOSカメラを使った3D 180° VR映像の撮影に対応しているカメラで、そのレンズとして使われるのがRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEだ。

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE。2つのレンズによって2つの映像が1つのセンサーに同時に記録される

このレンズは、名前の通り2つのレンズを備える魚眼レンズ。横に並んだ2つのレンズを通した映像がEOS R5 Cのセンサーを経由して記録され、それを合成することで3D、かつ180°のVR映像が生成できる。

撮影時には2つの魚眼映像が記録され、これを正距円筒図法に変換することができる

カメラ1台で撮影できるので、2台のカメラの露出を合わせるといった作業は不要。対角190°の画角を持つ10群12枚構成のRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEは、2つのレンズにともに電動虹彩絞りを搭載しており、カメラ1台の絞り設定で2つのレンズの露出が同期する。そのため、記録された2つの映像をあとから露出調整するといった手順もいらない。

撮影映像は魚眼レンズによる映像が2つ並んだファイルが1つ生成される。映像はスティッチをする必要もなくVR映像に合成でき、撮影、編集のワークフローを大幅に削減できる。

1ファイルに2つの映像が横に並んで記録されて合成するため、横方向の解像度は単純に半分になるが、対応カメラのEOS R5/R5 Cは最大8Kで記録できるため、水平解像度は3684画素の(ほぼ)4K解像度となる。VR映像として十分な画質を実現できるわけだ。

もちろん、伝統の「Lレンズ」として画質にもこだわっており、特殊コーティングのSWCによって魚眼レンズで入り込みやすい太陽光などの強い光源に対するゴーストを低減。UDレンズによる色にじみの除去や防塵防滴性能なども備えている。

EOS VR SYSTEMで異世界転生の撮影〜視聴までを体験

キヤノンは、CP+を始め、ここ最近のイベントでEOS VR SYSTEMをアピールしてきた。それまではすでに撮影されたVRコンテンツを視聴する展示だったが、今回の超異世界転生VRでは、初めて実際の撮影体験も実施。特に超コスプレエリアというブースの位置関係で、来場者との相性が良く楽しんでもらえると判断した。

記念撮影フォトブース

異世界転生の瞬間をイメージした記念撮影フォトブース

最初に、異世界へ旅立つ扉(記念撮影フォトブース)で写真や動画を撮影。透過型パネルや異世界への扉をイメージした内容になっており、普段撮れないようなシチュエーションで写真撮影が楽しめるようになっていた。

EOS VR SYSTEMを活用した映像撮影体験ブース

VR撮影を体験できる「魔法体験」コーナー

次に、転生して魔法を使ってもらうVR映像撮影体験ブースに移動。ここでEOS VR SYSTEMでの撮影体験が行われた。なかなか凝ったデザインの魔法書と杖を持ち、呪文を唱えて杖を振れば、背景に魔法の効果のCGが現れて、転生者として覚醒し"能力"を使う、という体験ができる。文章にすると素っ気ないが、コスプレエリアである。それっぽく撮影したい。

プロジェクターが表示する魔法のエフェクトと一緒に撮影ができる
なかなかいい造りの魔法書
この呪文と決めポーズで撮影する

撮影した3D VR映像は、後ほどYouTube上に限定公開され、ブースで渡されたQRコードにアクセスすることで、自分の映像が見られるという仕組みだ。YouTubeはVR映像に対応しているので、PCなどで視聴する場合もマウスで上下左右を見渡すことが可能。もちろんVRゴーグルで視聴すれば、顔を向けるだけで上下左右を見られる。なお、公開は期間限定となる。

実際の体験の様子

実際の体験映像(「ニコニコ超会議」の公式Twitterより引用)

VR映像視聴体験ブース〜魔法世界の勇者や魔王になった転生体験

ヘッドホンとVRゴーグル、杖を装着してVRの世界にダイブ

最後は、VRゴーグルと杖の置かれたコーナーで、VRゴーグルを装着して転生先を勇者と魔王から選んで転生体験が楽しめるVR体験ブースとなっている。もちろん、EOS VR SYSTEMで撮影された3D VR映像で、勇者となって魔王を倒す、もしくは魔王となって勇者と対決するという2つの映像を楽しめる。

「魔法世界の勇者と魔王」:勇者編

「魔法世界の勇者と魔王」:魔王編

VR市場での利用拡大を目指すEOS VR SYSTEM

VR映像の撮影は難しく大変というイメージの人も、簡単に撮影して編集、アップロードできるという点に驚くかもしれない。機材もカメラ1台。短時間の動画であればすぐに編集とアップロードができてしまうのだ。

キヤノンは、前年の「ニコニコ超会議2022」に初めて出展し、来場者に転生にまつわるVRコンテンツを体験してもらっていたが、多くの反響があったとのことで、2回目の出展となる今回は、さらに視聴体験だけでなく撮影体験もしてもらえるよう準備を進めたという。

前回のニコニコ超会議で得た知見を踏まえて、Inter BEE 2022やCP+ 2023でもEOS VR SYSTEMの視聴体験は実施してきたが、ニコニコ超会議2023では来場者の特性上、VRへの親和性は高いと判断し、視聴体験だけでなくさらに撮影体験も体験してもらうことで、VRへの認知拡大を狙った。

そもそも、これまでの来場者の意見を聞いてみると、「VRを初めて見た」という人も多く、見られる機会を増やすことが重要だとキヤノンでは判断。イベントで積極的に視聴体験を提供してきたのだという。

すでに、実際にVRを制作している現場からは引き合いも多く入っているそうで、やはり1台で手軽に撮影できるという点が重視されているという。また、Adobe Premiere Pro用プラグインを含むユーティリティも用意しており、そうしたツールへの機能改善などの要望も寄せられているそうだ。

EOS VR SYSTEMは、その構造上カメラ前方の半球(180°)をカバーするVRになる。全天球(360°)のVRコンテンツもあるが、そもそも撮影者さえ映ってしまう全天球型は撮影が難しいという課題があった。さらに当然のようにデータ容量も大きく重くなる。加えて、360°の全天球映像があっても、視聴されているのは前方180°が多い、という調査があるという。画質面でも、360°よりも180°の方が解像度は高くできるというメリットも考えられる。

こうした点から、180°でも十分という認識がVR業界にもあり、キヤノンとしてもEOS VR SYSTEMの180°でもニーズは満たせると判断しているという。もちろん、映像によっては360°が必要なコンテンツもあるが、例えばライブハウスの映像で観客席が不要ならば180°でもいい、といったように、コンテンツによって使い分けられ、そうした分野での問い合わせは増えているそうだ。

すでに静止画や動画制作でEOS R5やR5 Cを使っている制作現場では、レンズを買い足すだけでVR撮影もできるというハードルの低さも強みだ。EOS R5/R5 CもファームウェアのアップデートでEOS VR SYSTEMに対応しており、他のEOSへの対応拡大も要望としては増えているそうで、検討もしているそうだ。

EOS VR SYSTEMは、「VRのためだけの機材」ではなく、静止画も動画も撮影できつつ、レンズを交換するだけでVR撮影もできるという柔軟性がポイントだ。VRコンテンツが一般化し、ワークフローも洗練化されたことで、制作も容易になってきた。視聴するためのVRゴーグルのユーザーも増えており、コンテンツへの需要がさらに高まっている。キヤノンでは今後もこうしたイベントなどでEOS VR SYSTEMの認知拡大の機会を狙い、市場へアピールしていきたい考えだ。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。