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プレ開催から数えると今年で15周年を迎えた、日本最大のデジタルサイネージイベントである「デジタルサイネージジャパン 2023(DSJ2023)」が、6月14日から16日にかけて、今年も幕張メッセで開催された。DSJは、今年で30周年になる情報技術やネットワークに関連する業界イベント「Interop」と同時開催されている。

今年は3日間の来場者数が119,108人となり、ほぼコロナ前に戻ったと言える。それでは早速、今年の展示内容からいくつかピックアップしてご紹介していく。

ザイトロニック

ザイトロニックはタッチセンサーの設計と製造に特化した企業である。タッチパネルディスプレイで利用されるプロジェクテッド・キャパシティブ・テクノロジー(PCT)で知られている。

今回、同社はタッチスクリーンのGUIによってボタンなどを設置する際に、タッチ面のガラスに凹凸があるディスプレイを参考出品した。これまでのタッチパネルディスプレイは、タッチ面のガラスがフラットなので正確なタッチができなかったり、タッチできているかを指からの触覚で確認できなかった。この課題を解決するために、ボタン部分だけが若干凹んでいて、周辺が膨らんでいるのである。

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一見すると普通のGUIベースのディスプレイだが…
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わかりやすくするために画面を切り替えると、GUIのボタン部分が凹凸になっていることがわかる

実際にタッチしてみると、これまでのフラットなタッチパネルに比べて触覚が伴うのでストレスが格段に少ない。例えば、やや暗い場所や複数のボタンを配置した場合に視覚と触覚の両方で確認でき、メリットが大きいことがよくわかる。GUIは画面レイアウトやデザインを自由に変えることができる点がメリットであるが、機器類や自動車の操作といった、GUIが固定されていて構わない場合には非常に有効である。特に、タッチではなくスライドするような時には指先がきちんと凹凸でアシストされるので非常に使いやすい。

またもう1つ興味深い展示として、円卓型のタッチディスプレイを装着したテーブルを参考展示していた。これはバーなどを想定したもので、注文や決済をテーブルだけで完結させるもの。いわゆるスマートテーブルである。ゲームやネットのブラウジングもできるようになっていて、使わない時はテーブルクロスのようなものを表示させることもできる。こうした使い方は飲食店だけではなく、学校の教室などにも普及していくのかもしれない。同社では飲食店などの什器を扱うパートナーを探しているとのことだ。

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テーブル上面にディスプレイが組み込まれている
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ディスプレイから注文もできる。ディスプレイ周辺にあるメッシュ状のものはセンサーではなくデザイン

インセクト・マイクロエージェンシー

インセクト・マイクロエージェンシーは、同社のデジタルサイネージ配信システムであるFLOWシリーズに、「LINEから簡単サイネージ機能」を追加した。

これはLINE公式アカウントを友だち追加するだけで、スマホから簡単にデジタルサイネージのコンテンツの配信ができる機能である。これにより、わざわざPCを開いて管理画面にログインする手間がなく、使い慣れたスマホとLINEを使用することで、専門的な知識や複雑な配信設定作業の習熟をせずとも誰でも配信設定することが可能になる。

FLOWシリーズは、小規模な店舗などでの利用に特化したシステムで、こうした現場ではできるだけ簡単にコンテンツ更新ができることが求められる。パソコンやCMSを操作することなく、LINEから写真や動画を選択するだけという、これ以上ないというくらいに簡単な操作で、必要最小限、いや多くの現場では必要十分な機能に絞り込んだ結果による機能である。

例えば、コンテンツ投入は、サムネイル表示させたスマホ内にある動画や静止画を選択するだけだ。配信順は選択順であり、素材の配信順の変更という概念はなくて、配信順を変更したい場合は新たに選択し直すだけである。複雑なプレイリストを作成する必要がない利用現場が多いので、これで十分なシーンはかなり多いのではないだろうか。

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LINEから起動した配信設定画面
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素材選択画面

イノベーターワン

イノベーターワンはCMSからシステムソリューション構築、配信代行、映像制作、ディスプレイ製品群までをトータルで提供する企業である。2021年に創業した新しい会社で、ディスプレイなどはBOEから提供を受けている。

同社のブースはサービスブランドであるMiramage(ミラメージュ)を全面に打ち出し、広大なブース展開を行った。なかでも世界最大クラスの98インチの裸眼3Dが来場者の目を引いていた。

また同社ブースは大柄LEDビジョンを中心に据えて、ブース上部にはシースルーで印刷された布が効果的に配置され、ブース全体のカラーリングとデザインがトータルでコーディネートされており、DSJ2023のブースアワードでグランプリを受賞した。

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ブースアワードグランプリを受賞したイノベーターワン
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98インチLCDによる裸眼3D

LGエレクトロニクス・ジャパン

LGエレクトロニクス・ジャパンブースでは、超高精細な0.9mmピッチのMicro LED 「LG MAGNIT」を日本国内では初めて出品した。同製品の特徴は超高精細であることはもちろん、各LEDユニットを組み合わせて設置した際に、各ユニットが正確な平面を構成でき、つなぎ目も完全にフラットにできることだ。

デジタルサイネージにおけるLED化の波は著しいものがあり、こうした超高精細なものも普及がさらに進んでいくものと思われる。

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LGエレクトロニクス・ジャパンブース
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0.9mmピッチのマイクロLED

スノーピーク

なぜDSJにスノーピーク?と思われるかもしれないが、アウトドア関連企業であるスノーピークがDSJに出展を行った。同社はニューフォリア社のブース内での共同展示で、「インタラクティビジョン」の展示とデモを行った。これは分散しているオフィスを映像と音声でシームレスにつなぎ、社内コミュニケーションを円滑にするためのソリューションである。

大型のプロジェクターをL字型に配置して、あたかも空間的にも一体化しているような環境を実現させる。単に映像だけではなく、アウトドアや自然を感じさせるように、今回はDSJ会場側が自然の中のリモートオフィスという設定で、アウトドアを感じさせるインテリアをトータルで提案していた。超単焦点のプロジェクターは木製のボックスに本体が見えないように収納されている。映像伝送はWebRTCによる超低遅延で、画角やサイズ感が物理的な壁を感じさせることがないものになっていた。

スノーピークはアウトドア関連の企業であるのは周知のとおりだが、最近はテクノロジーとの融合に注力をしており、こうした取り組みはNTTが推進するIOWNのような新技術で、ますます普通なものになっていく世界が見えてきたように思う。

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L字に設置することで空間が一体化している

ゴッドスピード

ゴッドスピードはリテール系のサイネージに強い企業である。今回はそのブースの演出が秀逸であった。ブース全体をあえて黒い壁で覆い、中が見えない。中の展示に注目してもらうために、単なる黒い壁だと思っていたものは実は壁面全部がLEDディスプレイになっていて、シンプルであるがインパクトあるグラフィックスで目を引き、なかに興味をもたせる演出である。エントランス部分にあるキューブ型のLEDも効果的に使われていた。

デジタルサイネージの展示会ではこうした演出を自社ブースでも施すことで、単なるディスプレイの紹介や提案を超えた、トータルな提案ができる企業イメージを伝えることができる好例であった。

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一瞬真っ黒になったところに文字が現れるインパクトはなかなかのもの

以上が、DSJ2023の一部の出展企業の展示内容の紹介である。各企業はそれぞれ独自の技術やサービスを披露し、来場者にインパクトを与える展示を行った。今回紹介した企業は、タッチパネルディスプレイの改良や簡単な配信機能の導入、ディスプレイ技術の進化、オフィス環境の映像化など、デジタルサイネージの幅広い可能性を示している。

DSJ2023は、30周年を迎えたInteropと同時開催されることで、情報技術やネットワーキングに関連する様々な分野の専門知識や最新トレンドを一堂に集める機会となった。今回紹介した企業の展示は、デジタルサイネージの未来を予感させるものであり、業界の発展に向けた期待を高めるものとなった。

これからもデジタルサイネージの進化は続いていく。次回のDSJにはさらなる新しい展示や技術が登場することを期待していきたい。

デジタルサイネージアワード2023

最後に、DSJ会期中には「デジタルサイネージアワード2023」の受賞発表と表彰式も行われた。今年の受賞作品は以下のとおりとなっている。

■グランプリ

「ランダムマック」

  • 日本マクドナルド株式会社
  • 株式会社電通
  • 株式会社電通クリエーティブキューブ
  • 株式会社 LIVE BOARD
  • Hivestack Japan株式会社

■準グランプリ

「エキマトペ」

  • 富士通株式会社
  • 東日本旅客鉄道株式会社
  • 株式会社JR東日本クロスステーション
  • 大日本印刷株式会社

■優秀賞

「大阪駅(うめきた新エリア)におけるデジタル案内」

  • 西日本旅客鉄道株式会社
  • 株式会社JR西日本テクシア

「渋谷55ストリートビジョン」

  • 株式会社メトロアドエージェンシー
  • ワウ株式会社
  • 株式会社クラウドポイント

「ZONe ENERGY(ゾーンエナジー)」

  • ZONe ENERGY
  • 株式会社電通
  • 株式会社電通クリエーティブX
  • 株式会社マテリアル
  • 株式会社電通アドギア

「Duct Mimicry Ambient Digital Signage」

  • PARTY
  • NIKKEN SEKKEI
  • SOLSO
  • H inc.
  • DGX-japan
  • Uzabase

「デジタルサイネージのための モバイル通信サービス『デサモ』」

  • 株式会社ジェイアール東日本企画

「都市空間にバーチャル広告やコンテンツを重ねて配信できる『XRscape』」

  • KDDI株式会社
  • 株式会社Psychic VR Lab

「日本初!透過型フィルムLEDによる外壁ビジョンと立体アート」

  • 三井不動産株式会社
  • ピーディーシー株式会社

「街に溶け込む恐竜」

  • 東宝東和株式会社
  • 株式会社電通
  • 株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND
  • 株式会社 LIVE BOARD
  • Hivestack Japan株式会社

今年の受賞作品は粒ぞろいであった。また広告、販促、インフォメーション、アンビエントやエンターテインメントなどの従来のデジタルサイネージの利用用途に加えて、社会課題の解決という新しい視点が加わってきている点が注目に値する。受賞作品の動画や写真などの詳細情報はこちらのデジタルサイネージアワード公式サイトで確認することができる。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。