コロナ以降、"回転しない"回転寿司が増えている。以前のように回転レーンを流れる皿をピックアップするのではなく、テーブルに設置されているタッチパネルや自分のスマートフォンから、食べたいものを注文し、注文品がレーンで届くスタイルにどんどん置き換わっているのはご承知のとおりだ。
これは衛生面からの対応であるが、目の前を流れてきた皿に思わず手が伸びてしまう、という出会いや楽しさが失われてしまった。
ところがいま、スシローで再び寿司が流れるようになったのだ。それもデジタルサイネージ画面上で、である。
筆者が訪れたのはスシロー新宿西口店だ。来店したら、まずは専用端末で人数と席の希望を登録する。すると呼び出し番号とQRコードがプリントアウトされる。自分の順番になると待合スペースのサイネージと自動アナウンスで自分の番号が呼ばれる。QRコードを専用のリーダーに読み込ませると、テーブル番号が指定された案内札がプリントされる。そこに記載された番号の席に行くと、案内番号と座席番号がテーブル横のディスプレイに表示されているので、自分の番号であることを確認して着席する。
テーブル横のディスプレイは70インチ4Kのハーフカットのタッチパネルディスプレイだ。横幅は1m55cmとかなり大きい。4人掛けのボックスシートにほぼいっぱいの大きさである。最初に画面をタッチすると画面モードが選択できる。このときはスシローモードとだっこずしモードが選択できた。これらはクリエイティブが異なるものである。
「ご注文へ進む」をタッチするとメイン画面に切り替わる。すると寿司が右から左に流れるグラフィックスが登場する。グラフィックスの寿司をタッチすると、注文トレイに入る仕組みだ。他にも商品メニューから選ぶことも可能で、これはいわゆるデジタルメニューになっている。デジタルメニューは上下左右にスクロールもできる。
サイネージ上を流れる〆鯖をカートに入れてみる
デジタルメニュー画面は上下左右にスクロールできる
自分専用レーンに注文品が到着する様子
45分経過したところでこういう画面が出た。このときは2時間近く待ちだったためではないだろうか
パネルディスプレイのオーダー端末と基本的には同じ。やはり圧巻というか、すごく楽しいのは、本物の皿ではなくグラフィックスの皿がディスプレイ上を流れていくところだ。70インチディスプレイなので表示される皿はほぼ原寸大で、なかなかリアルなのである。
自分の意志でデジタルメニューを操作するのではなく、目の前のディスプレイに表示されたものに思わず反応してしまうことを何度となく感じた。これこそが偶然の出会い、セレンディピティーだ、などという格好つけた言い方ではなく、「あ、これも食べたい!」と思ってしまう場面が何度もあった。注文金額に応じてゲームも楽しめるようで、子供がいるテーブルでは盛り上がっていた。
元々の回転寿司は、本物の寿司が目の前のレーンを流れていき、食べたいものを手に取ったわけだが、ディスプレイの場合はあくまでも流れてくるのはグラフィックなので、実際に食べられる現物ではない、いわば食品サンプルが流れているようなものだ。それでもリアルなものが流れるよりも、ディスプレイ上で流れているのを見るのは想像以上にエンタメ要素もあって、なんだか楽しいのである。これはかつてのリアルな回転寿司を知っているからこそ、サイネージ画面上のバーチャル回転寿司が楽しいのではないかと思った。
また注文した寿司は、自分専用レーンに届くので、取り忘れや取り間違いが起こりにくい。これまでも自分の席の前で注文品が停止する例はあったが、スシローの新しいレーンは自分専用のポートみたいになっているので、急いで皿をピックアップしなくてもいいのは些細なことだが落ち着いて食事ができる。
会計はタッチパネルで「会計」を押して皿の数などの確認があり、案内札をセルフレジに読み込ませて支払いを行う。店員と会話をするのは皿のチェックのときのみであった。せっかくここまでデジタル化できているのに、テーブルでキャッシュレス決済できないのはちょっと残念であった。
実はこの「デジロー」には伏線というべき、スシローのデジタルサイネージの利用実績があったのだ。コロナ禍の2021年5月16日から31日にかけて行われた「すしで、笑おう」キャンペーンである。このときには渋谷と品川のデジタルサイネージに寿司が流れて、テレビやSNSで大きな話題になった。その時の動画がこちらである。
回転寿司は元々ハイテクの塊でもある。厨房では握りロボットが稼働しているし、食べ終わった皿は投入口に入れれば洗い場まで水流で運ばれ、食洗機に投入される。待ち時間予想は在店中の顧客の人数や年代、性別などまで考慮してかなり精緻に自動算出されている。
デジローを導入することで売上や利益は上がるのか、滞在時間は、客単価はどう変化するのか。今後こういったデータが蓄積されていくにつれて、デジローがどれくらい導入されていくか気になるところだ。