かつて高嶺の花だった中判デジタルバックも、古いものは中古相場が落ちてきて、気になっている方も多いのではないだろうか。旧型であっても低感度の画質には十二分に魅力がある。
デジタルバックの母艦として、ハッセルV、ハッセルH、フェーズワン/マミヤM、コンタックスCなど多くの選択肢があるが、はじめにどのシステムにするのか重要な選択を迫られることになる。今回はこれから中判デジタルバックを使用したいとお考えの方に向けて、現行のシステムであり初期投資も少ない「フェーズワン/マミヤAFシステム」について簡単に解説していこうと思う。
マミヤ銘とフェーズワン銘で同じものがあったり、フィルムとの兼用機も含めると種類が多く、どれが何に対応しているのか分かりづらい部分もあると思う。筆者自身が使用してきたシステムでもあるので、検討する際にはこの記事を参考にしてほしい。
ここで注意していただきたいのは、デジタルバックやそれに関わるシステムは基本的に「業務用途」の機材であるということ。基本的には代理店を通して購入やメンテナンス等を依頼するもので、一般向けのカメラとは感覚が違う部分が多々あるだろう。カメラボディやレンズは一般的な金額の範疇でも、デジタルバックの修理はかなり高額になるため、予めその覚悟をし、なるべく保証付きの個体を正規代理店から購入することをお勧めしたい。
マミヤと645フォーマット
1975年、世界で初めて「645判一眼レフ」を発売したのがマミヤであった。
マミヤは歴史のある光学機器メーカーで、革新的な機構を持つ名機が多い。1975年の発売以降マミヤの「M645」は人気を博し「Mamiya M645 1000s」「Mamiya M645 SUPER」「Mamiya 645 PRO」「Mamiya 645 PRO TL」とモデルチェンジを繰り返しシステムとしての完成度を高めていった。
この記事をご覧の方々には周知のこととは思うが、120フィルムを使用した6×4.5フォーマットを「645(ロクヨンゴ)」と呼ぶ。中判フィルムの中では小さく経済的な部類で(15~16枚撮影可能)6×9判の半分の大きさであることから「セミ判」とも呼ばれる。デジタル時代になってもこの名残が意味を持っているというわけだ。
グラマラスなAFボディの誕生
1999年に初登場したこのグラマラスな造形のカメラは、H・R・ギーガーによるエイリアンを連想させる。マンガならフリーザの第三形態、動物に例えるならスナメリだろうか。筆者が写真をはじめたころ、カメラ雑誌の広告を見て無性に惹かれたのをハッキリと憶えている。
写真機のデザインとしてかなり評価が分かれたようだが、個人的にこの流線型デザインは美しいと思う。
Mamiya 645AF(1999年)
大きく電子化に踏み切ったブランニューな645ボディで、デジタル撮影には未対応。マウント形状に変更はないが、絞り連動ピンを廃止し電子制御に振り切ったため、従来の645レンズでは絞りが連動せず、それまでのユーザーは645PROを使い続けるか、システム全入替えかの選択を強いられた。
なお、初号機から現行XFまで、AFに関してはボディ内モーターを使用している。
デジタル対応の645ボディ
時代はデジタルへの転換期。
2000年代に入りAPS-Cのデジタル一眼レフカメラが台頭し始めたが、その画質は十分と言えるものではなく、業務用途では大型センサーのデジタルバックが使用されていた。
<フィルム/デジタル兼用機>
Mamiya 645AF D(2001年)
デジタルバックとの通信機能が追加された初号機。シンクロケーブル等は不要で、フィルムバックをデジタルに交換するだけでデジタル撮影が可能となった。Phase One(H、Pシリーズ)、Leaf(Valeo、Aptusシリーズ)等のデジタルバックが使用可能。
Mamiya 645AF DII(2005年)
デジタルバックとの通信が強化され、同時期に発売された「Mamiya ZD back」の使用も想定されている。カメラの基本性能もブラッシュアップされ、35種類のカスタムファンクションで細かい設定ができるようになった。
デジタル対応のDレンズ「AF28mm F4.5 D」や「AF75-150mm F4.5 D」も登場。
Phase One 645AF/Mamiya 645AF DIII(2008年)
フェーズワンとの共同開発機。表面の仕上げがザラッとしたグレー寄りのものに変更されている。すでに発売済みの「ZD Back」との連携を強化し、デジタルバック側からカメラのカスタムファンクションを設定できるようになった。またデジタルの強化だけでなく、高速タイプの新型フィルムバック「HM402」を標準装備。Dレンズ「AF80mm F2.8 D」「AF150mm F2.8 IF D」が同時発売。
<デジタル専用機>
Phase One 645 DF / Mamiya 645DF(2009年)
フィルムを切り捨てることで飛躍的な進化を遂げ、特にAFスピードや精度が向上。筐体デザインも少しシャープなイメージに更新された。アクセサリー類は基本的に従来機と共通。IQ3シリーズまでの同社デジタルバック、Leaf Aptus&Leaf Credoにも対応する。
また、シュナイダーと共同開発のリーフシャッターレンズ(LSレンズ)が同時に発売され、従来のフォーカルプレン用レンズ(FPレンズ)と同居するハイブリッドシステムとなった。LSレンズ使用時は最大1/1600(デジタルバックによっては1/800)でストロボ同調し、それを超えるとFPモードで1/4000までのシャッターが切れる。シャッターはLS/FPどちらかに限定することも可能だ。
同時発売の縦位置グリップ「V-Grip Air」にはProfotoのコマンダー機能を内蔵。また、グリップ装着によりボディ側の電源として単三電池の他、Phase One/Leaf Aptus用バッテリーが使用可能となっている。
Phase One 645 DF+/Mamiya 645DF+(2012年)
前機種から形は変わらないものの、AFアルゴリズムが新しくなり、ミラー・シャッター周りの構造が見直され耐久性もアップ。AF微調整の機能が備わるなど随所でブラッシュアップがなされた。
これまでシリーズを通して単三電池6本で動いていたが、専用のリチウムバッテリーが登場。これによりDF/DF+使用時のエネループ充電地獄から解放された。
Phase One XF(2015年)
ソフトウェアの更新により機能が追加されていくカメラシステムの現行機モデル。高級感のあるアルミボディは従来機とは一線を画す。デジタルバックは同社IQシリーズ、Leaf Credoに対応。旧型のPシリーズやHシリーズ、Leaf Aptusシリーズのバックは使用できないので注意が必要だ。
2015年にマミヤの光学事業はフェーズワンに引き継がれたため、ここでマミヤの名は完全に消えてしまった。
※XFボディについては連載第一回で触れているのでそちらもどうぞ。
レンズの世代と対応機種
初期型AFレンズ(645AF~DF+ボディで使用可能)
※修理受付不可
この時代のAFレンズは設計が古いものの、55mm、80mmなどは案外よく写ってくれる。傾向としては、柔らかく階調重視でデータを等倍まで拡大するとしっかり解像しているという感覚だろうか(デジタル使用時の印象)。中望遠域は総じて優しい写りで、最短撮影距離が長く使いづらい面もあるが、マミヤのレンズはボケに癖がなく美しい。
MFタイプの120mmマクロはひたすらシャープ路線。2倍ズームの55-110mm、105-210mmも写り自体は悪くなかったと記憶している。また、上の写真のタイプは加水分解による表面のベタつきが発生しているものが多い。写りに影響はないが注意が必要だ。レンズ側にAF/MF切り替えスイッチがないため、XFボディでは使用に制限があると思われる。
セコールDレンズ(645AF D II以降のボディで使用可能)
デジタルでの使用を想定した「D」レンズ。マミヤブランドの「Mamiya Sekor D」と「PHASE ONE」銘のものがあり性能は同じだ。フェーズワン・ブランドのものは現在でも修理が可能との返答を得た。
レンズ側にAF・MFの切り替え機構が実装され、ピントリングも実用的な幅になった。外装の材質が変わりベタつきの心配もなくなっている。また、レンズマウント側の接点が2列になっているのも特徴だ(2列目はファームウェアの更新等で使用される)。
新たな設計としては、超広角の「AF28mm F4.5 D」、標準から中望遠までの便利すぎる2倍ズーム「AF75-150/4.5 D」、明るくなって最短撮影距離も改善された「AF150mm F2.8 D」など(これらは645AFD II以降の機種で動作する)。
その他、光学系は従来のままブラッシュアップされたものが多いが、ほとんど同じ写りのものもあれば「AF35mm F3.5 D」のように、別のレンズかと思うほど良くなっているレンズもある。
LSレンズ(645DF以降のボディで使用可能)
独シュナイダー社と提携して開発されたリーフシャッター(LS)レンズ。内部にシャッターを搭載しており1/1600までストロボ同調が可能となっている。こちらもマミヤブランドの「Mamiya Sekor D」と、シュナイダーブランド「Schneider-KREUZNACH」銘があり、どちらも性能に変わりはない。
デジタル専用ボディ「645DF」と同時に「AF 80/2.8 LS」「AF 55/2.8 LS」「AF 110/2.8 LS」の3本が発売され、後に新設計の「AF 240/4.5 LS」、その他数本のレンズがLS化された。
Blue Ring レンズ(645DF以降のボディで使用可能)
XFボディに合わせてリニューアルされたシュナイダーの新型LSレンズ。アルミニウム製の高級感のある外装に変更され、デザインとして青いリングが施されていることから「ブルーリング」と呼ぶ。ピントリングやレンズフードにいたるまでアルミの削り出しで製造されている。
645フルフレームでの周辺画質を改善した新型の80mm「Schneider Kreuznach 80mm LS f/2.8 Mark II」の他、形状から見て35mm、45mm、150mm(F2.8)などは新設計だと思われる。
まとめ
今回はフェーズワン/マミヤAFシステムを大まかに見てきたが、645DFボディにLSレンズでもかなりお手頃な価格で入手可能な上、現在でもメーカー修理が可能だ(LS以前のものはフェーズワン銘のみ修理を受付してくれるようだ)。はじめから高額なレンズを購入しなくても良いのは大きなメリットだろう。最終的に最新のXFボディに移行する場合、既存のレンズがそのまま使えてしまうのも嬉しい。
2023年現在、フィルム兼用機であるマミヤ645AFD系ボディの中古価格が謎の高騰を見せており、劇的に改良された645DF/DF+よりも高額になるケースがあるようだ。1台のボディでフィルム/デジタルの両方が楽しめると惹かれてしまう方もいると思うが、デジタルバックで使用する場合は、AFまわりの性能がまったく違うことから、迷わずDF/DF+ ボディをオススメしたい。
また、645DF/DF+ボディで使用できる専用リチウムバッテリーだが、残念ながら現在では入手困難となっている。筆者も長い間エネループ6本で運用していたが、電池の持ちがイマイチなので予備を用意し、毎回12本充電する必要があり大変面倒ではあった。現在はリチウムバッテリー2本で運用しており、実に電池の持ちが良く快適である。
しかしながら、趣味の道具として長く使いつづけるという観点では、単三電池6本で普通に使えるという事実は、大きな安心材料にもなるだろう。
<ご注意ください>
業務用のデジタルバックは構造上壊れにくい面もありますが、製造からかなりの年月が経過しているものも多くあります。修理受付が終了している製品であったり、修理が可能な場合もかなり高額になるのが普通です。
機械はいつの日か必ず壊れるものです。
よく調べて自己責任の上で、もし購入する場合は返品保証付のものをお勧めします。