建築物や風景を撮影するカメラマンなら誰もが気になるであろう最高級カメラ、Phase One XT。コンパクトサイズでありながら大型センサーでのシフト操作を実現し、超ド級の高解像データを得られるシステムである。
今回は前編として、XTカメラの構造について紹介していきたい。
XTカメラシステムとは
本連載の第一回に登場した「Phase One XF」は完成度の高いシステムではあるが、一眼レフカメラという特性上、超広角レンズの設計に無理が生じる部分があった。レンズは巨大になるし、物理的なフランジバックの限界はいかんともし難い。
そこを一気に解決するのがこの「Phase One XT」システムである。基本的には広角のために誕生したカメラと言って良いだろう。
XTシステムは、カメラボディ、レンズ、IQ4デジタルバックの3つの要素で構成されている。XTカメラ自体は「背面がスライドする板」であり、シャッターボタンはあるものの、露出などカメラの設定はデジタルバック側で行うため、旧タイプのデジタルバックは使用できない(IQ4のみ対応)。
レンズはドイツの老舗光学メーカー、ローデンシュトック製を採用。絞りやシャッター制御は電子的に行う。レンズにはピントリングがあり、ピント合わせはデジタルバック側のライブビュー画面を見ながら手動で行う仕組みだ。
こう書くと特殊用途過ぎて、一般カメラユーザーはややこしく感じるかもしれないが、従来からあるCAMBO WRSシリーズや、ALPA 12シリーズ等と同じコンセプトの製品であり、建築写真の分野ではデジタル黎明期から需要があったカメラ形状だ(CMOS化によってピントグラスがなくなっている)。
その中でもこのフェーズワンXTは、645サイズの裏面照射型 1億5100万画素センサーを積んだIQ4に最適化された純正パッケージとなり、そのポテンシャルを最大限に発揮することができる唯一無二のシステムである。
シフト機構
何と言ってもXTシステム最大の特長はこのシフト機構にある。レンズの位置は変わらず、デジタルバックをX方向、Y方向ともに±12mm(計24mm)のシフトが可能となっている。
シフト(ライズ・フォール)が必須の建築撮影で、中判のクオリティを最大限に発揮するなら、この種の構造が最もコンパクトで効率的なのだ。
レボルビング機構
XT独自の機能として、レバーロックひとつで縦横を切り替えられるレボルビング機構がある。その際にレンズの位置が変わらないのもポイントだ。従来の他社製品では、デジタルバックを一度取り外して装着し直す必要があったりするので、スピード面でも、センサーへのゴミの付着を防ぐという面でも大きな利点だと感じる。
なお、標準装備されたアルカスイス互換の三脚座は取外しが可能。もし手持ちで使用する場合は、より軽快に使うこともできる。
レンズとイメージサークル
フェーズワンの現行デジタルバック「IQ4シリーズ」では、全機種で645フルフレーム(53.4×40mm)センサーを採用。話題の中判デジタルよりもかなり大きなセンサーを積んでいるため、当然ながらレンズに求められるイメージサークルはより大きくなる。
2023年7月現在、XT用レンズとしてのラインナップは以下の6本である。超広角から標準域まで、すべて独ローデンシュトック社製だ。
- XT-Rodenstock HR Digaron-S 23mm f5.6 ※シフト制限あり
- XT-Rodenstock HR Digaron-W 32mm F4
- XT-Rodenstock HR Digaron-W 40mm F4.0 Tilt
- XT-Rodenstock HR Digaron-W 50mm f/4
- XT-Rodenstock HR Digaron-W 70mm F5.6
- XT-Rodenstock HR Digaron-W 90mm f/5.6
ラインナップ中で最も広角の23mmだけが、鏡筒に赤のラインが入った「HR Digaron-S」となっており、無限遠でのイメージサークルは70mm。メーカーのスペックシートを見ると、IQ4の大型センサーの場合、±2mmのシフト量しかカバーしていない。その他は青や黄色のラインが入った「HR Digaron-W」レンズ。IQ4でフルシフト(±12mm)可能なほど大きなイメージサークル(88~120mm)を持っている。
つまり、シフト前提で導入する場合はディガロンWレンズを選ぶ必要がある。
次回予告
今回メーカーからお借りしたデモ機のレンズは、超広角の「HR Digaron-S 23mm f5.6(135判換算15mm相当の画角)」と「HR Digaron W 70mm F5.6(135判換算45mm相当の画角)」の2本。
筆者がXTカメラに触れたのは今回が初めての経験で、なるほどココはこういう機構になっているのかと感心しながら、試写のために奥多摩まで車を走らせた。
次回、Phase One XT(後編)では、実際に撮影したサンプルを見ながら、リアルな使用感をご紹介していきたいと思う。