前編につづき、普段は風景写真を撮らない筆者が、デモ機のPhase One XTを持って奥多摩まで車を走らせる。
XT本体とレンズ2本を携え渓谷を歩くことで、はじめてその軽さを実感することになった。普段使っている中判一眼レフよりも随分コンパクトで軽快だ。三脚座があるため収まりが良いとは言えないが、いつものカメラバッグに入れるとスペースにも余裕がある。重量級の三脚を使う必要がないのもありがたい。
風景を撮ってみる
XTカメラに電源ボタンはなく、デジタルバックの電源をONにすることで使用可能な状態となる。カメラをセットし、シャッターボタンを半押しすると自動的にライブビューが開始される流れだ。ビューカメラや他の類似製品とは違い、IQ4に最適化されたXシャッターが搭載されているため、手動でシャッターを開ける操作は必要なく電子制御ですべてが連動する。まるで普通のカメラのようにスムーズだ。
ライブビューを確認しながらシフト操作で構図を定め、拡大して正確にピント合わせをする。シフト操作のダイヤルには5mmおきにクリックがあり、背面液晶にもシフト量が表示されているので、必ず確認するように心がけたい(いつの間にか触ってしまい、動いていることが何度もあった)。
撮影中にかなり便利だと思ったのが、ライブビュー中に露出を反映させたまま、ISO感度や絞り、SSを変更できること。一般的なカメラでは当たり前の機能だが、この種のカメラでそれを実現しているのは素晴らしい。純正パッケージだからこそ成せる技だろう。
ただ、その際に表示される数字が小さく、タッチの反応が悪かったりして、任意の数字をタップするのが難しいと感じる場面もあった。絞りを変更するつもりで撮影モードが変わってしまったりと、ライブビュー中の露出操作に関しては多少の慣れが必要かもしれない。
掲載した作例ではすべて三脚を使用しているが、風景を撮るなら手持ちでも実用できることを付け加えておきたい。
スティッチング
こちらはカメラを縦位置にし、横方向に3枚(+12、0、-12)撮影したものだ。前編でご紹介したようにディガロンS 23mmの場合、カタログ値で±2mmまでしかシフトに対応しておらず左右の画像には大きくケラレが出ている。これはディガロンWレンズでは発生しないため(フルシフト可能)分割して撮影したデータをスティッチングすることで、より広く、より高解像度のデータを生成できる。
レンズの位置は固定でデジタルバックだけを動かすので、1枚の写真を複数枚に分けて撮影する感覚。そのため合成も容易だ。Capture One Pro 22から実装された自動スティッチ機能が、XTのワークフローを簡単にしてくれる。
繰り返しになるが、ディガロンWレンズではこのケラれは発生しない。XTシステムの中で最も建築写真に向いているであろう「HR Digaron-W 32mm F4」の場合(換算21mm相当の画角で、フルシフト可能)、こうして複数枚をスティッチングすることで、さらに広角で立体感のある超高解像データが得られることになる。筆者はこのジャンルの撮影はほぼしないのだが、それでも非常に気になるレンズだ。
また、大型センサーゆえ絞っても被写界深度が浅く、絞りによる回折ボケも起きやすいため、±3度のティルト機能を備えた40mmレンズ「HR Digaron-W 40mm F4.0 Tilt」も風景を撮る方には大きな武器となりそうだ。
自動フレーム平均化機能
渓流の描写が異なるこの2枚、実はまったく同じ露出で撮影している。
自動フレーム平均化(Frame Averaging)は、NDフィルター不要で長時間露光と同じ効果が得られる機能である。露出を決定し、自動フレーム平均化で時間指定すると(この場合は20秒)自動的に20秒かけて撮影したデータを合成し1枚のRAWデータとして保存してくれるのだ。
長時間露光のため極度に絞り込まざるを得なかったり、NDフィルターで減光し露出を測りなおすといった、従来の煩雑な作業が不要となってしまう恐ろしい機能である。
説明書もロクに読まずに作例を撮りに出かけたが、この機能に関してはすぐに実用できた。そしてIQ4デジタルバックにはもう1つ、輝度差がある場面で画期的なダイナミックレンジを得られる「Dual Exposure+」という機能も存在する。また機会があれば重点的にしっかりテストしてみたいと思う。
なお、これらの機能はXTカメラ本体ではなく、IQ4デジタルバックのもの。そのため一眼レフのXFボディでも使用可能となっている。
レンズ補正
XTシステムの大きな利点として、レンズの絞りやシャッタースピードはもちろん、シフトした値がデータに記録され、それを元にCapture One上でレンズ補正(歪曲収差や周辺光量)が働く点が挙げられる。
ビューカメラにデジタルバックを装着し同様の撮影をしたことがあるが、周辺光量落ちを物理的に防ぐセンターフィルターや、色ムラを補正するためのLCCが必要で時間と手間がかかる。XTであればソフト上でお手軽に補正できてしまうわけで、これは本当に便利だと思わされた。
専用レンズフード
フェーズワン・ジャパンにてデモ機をお借りする際、フレア対策としてCAMBO製(ほぼ純正と言える)のフードをお借りした。今回のテストでは使用しなかったせいで画面中央にフレアが発生することがあった。業務で撮影する場合はこのフードが必需品となるだろう。
ポートレートでも使ってみる
このカメラで人物を撮影しようと思う人は中々いないと思うが、私物のフェーズワンで作品撮りをする合間に、あえてXTでも撮影してみた。
手持ちでポートレートが撮れないものかと、モデルのメイク中にピーキングの設定を追い込んで試してみたが、動く被写体には実用的でないと感じて三脚に据えて撮影することに。
135判換算15mm相当という超広角域でモデルを撮影したのは初めての経験である。画角が広すぎて人や物が写り込まないように撮るのが大変だった。データをCapture One上で確認するとかなり高精細で、超広角らしさを感じさせない写りである。広角という先入観なしで、この場合はもっと絞りを開けてもよかったと学習した。HRディガロンS 23mm F5.6 は、シフトこそ出来ないものの非常に優秀なレンズだ。
こちらはディガロンW 70mm。画角は135判換算45mm相当と、広角寄りの標準レンズといった感じだろうか。背景コントロールのためカメラの高さを先に決め、垂直を維持したまま-3.5mmフォールさせて撮影した。23mmほどの驚きはないが、線が細くスッキリ写るという印象のレンズである。
まとめ
構造は完全アナログ、ピントも手動なのに他はしっかり電子制御という、ローテクながらもハイテクな大変面白いカメラである。この大きさで645フルフレーム、16bit、1億5100万画素の裏面照射型センサーを搭載。時間をかけず手軽に撮影できてしまう恐ろしさ。
筆者はそれほどこの分野に明るくないのだが、特に建築写真の専門家にとって「Phase One XT」は高画質と撮影のスピードアップを実現した、理想的なシステムになり得ると想像する(もちろんコスト面を許容できればの話ではある)。
ディガロンW 32mmと、ティルトも可能な40mm、さらにIQ4の「Dual Exposure+」を使って風景写真を撮ったなら、とんでもなく豊潤なデータになるのではと、脳内でリアルなイメージが膨らむ。広角メインの写真作家さんには是非試してほしいカメラシステムである。
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つい先日、フェーズワン社よりレンズ固定式の『Phase One XC』カメラが発表された。前述のようにディガロンS 23mmは相当に優秀なレンズだが、XTの最大の特徴であるシフト機構がほぼ使用できない。それらを省くことで大幅に小型化したトラベラー向けの広角専用機が『Phase One XC』となるようだ。このレンズの写りの良さを体験してしまっただけに、こちらも登場が楽しみである。