ds89_top

XR(クロスリアリティ、またはxR)はVR、AR、MRの総称であるとする。一方でモーションキャプチャ、ボリュメトリックキャプチャ、ICVFXといった最新の映像技術は、生成AI技術をその背景にして、リアルとバーチャルの境界線を超えていく。デジタルサイネージは、元々リアルなロケーションを対象としているがゆえに、その恩恵を最も享受できる。今回はXRでリアルとバーチャルがその境界線を超えて溶けていく、その溶かし方のヒントを考えてみたい。

本コラムはデジタルサイネージ時評であるのだが、今回の記事は時評ではない。それどころか6年も前の事例である。にも関わらず、このきわめて先進的な事例は、今だからこそ我々に数多くの学びと可能性を感じさせてくれるので紹介をしたい。

この事例は、アクセサリーやリングを取り扱うメーカーであるJAM HOMED MADE東京店(渋谷区千駄ヶ谷)のリアル店舗において、2018年から行われたものだ。

ds89_01
JAM HOME MADE東京店

同店のオンラインショッピングサイトのリアルタイムアクセス状況を、株式会社プレイドが運営する、ECサイトで買い物しているユーザーをリアルタイムでVR上で可視化するシステム「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)を利用し、リアル店舗の壁面にプロジェクションするというもの。K∀RT3 GARDEN上でのバーチャル店舗のレイアウトをリアル店舗と同じにすることで、オンラインショップの来訪者がリアルタイムでアバターとして投影され、来店者と同じように商品を購入しているような動きをする。まさにリアルとバーチャルがXRによって溶け合うもので、「1分間に数万人が来店できる20坪の空間」なのである。

K∀RT3 GARDENはこちらをご覧いただきたい。

この店舗での取り組みは、2019年のグッドデザイン賞を受賞している。2022年の12月ごろのコンセプトリニューアルまでの間、長きにわたり継続して使われていた。

ここでいま我々は次に何を考えたらいいのか。アバターで現れるオンラインのお客様の存在が、リアルなお客様にとってプラスの効果をもたらすのか。アバターのデザインやリアルさはどのレベルがいいのか。オンラインのお客様にはリアルなお客様の存在がどう見えたら望ましいのか。店員による接客はリアルだけでいいのか、バーチャルではどうしたらいいのか。それぞれのお客様同士がコミュニケーションできたらどうなのか。などなど、検討をするべき点、示唆に富む点が数多くある。

この場合はオンラインショップにおけるアクセスデータがあるので、それを可視化して投影できるわけだが、この元データに当たるものは他にどういうものが利用できるのか。それはWebアクセスデータがわかりやすくて扱いやすいが、リアルな場所でもそれは可能である。

ds89_02
リアル環境からアバターを生成している京浜急行と日立製作所による駅改札混雑状況(駅視-Vision)京急線アプリより

そして2018年当時と2024年の現在では、コロナを経て生活様式も変化し、生成AIを背景にした様々な最新映像技術も大きく進化している。これらを組み合わせて駆使することによって、リアルとバーチャルを行き来するために両者を溶かす試みが、遥かに簡単で普通になっている。

こういった取り組み事例やそこにある考え方は、四角いディスプレイの中だけに閉じ込めないことだ。かつてデジタルサイネージは「街に飛び出すインターネット」と呼ばれたが、これからはさらに進化して、デジタルサイネージは「XRでリアルとバーチャルを溶かしていく」に違いないし、そこにはビジネスチャンスが埋もれているはずだ。


  • 社名:株式会社 JAM HOME MADE
  • 所在地:〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷2-38-2
  • 設立:2003年7月
  • 代表者:代表取締役社長 高橋征明
  • 事業内容:ジュエリー・アクセサリー、革小物、腕時計などの企画、製造、販売

JAM HOME MADE公式ホームページ

<システム設計>

PLAID, Inc./株式会社 プレイド

事業内容:Web接客プラットフォーム「KARTE」の開発・運営

<システムデザイン>

KAYAC Inc./株式会社カヤック(面白法人カヤック)

事業内容:「つくる人を増やす」を経営理念に、オリジナルWebサービス、Web制作事業などを展開

<店舗設計・デザイン>

インテリアデザイナー:佐々木一也(SMALLCLONE/スモールクローン)

代表作:UNITED ARROWS&SONS、UNDERCOVER、grocerystore.、White Mountaineering、ARTS&SCIENCE等

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。