Leaf(リーフ)はイスラエルの業務用デジタルバック・メーカーで、かつてはビューティ・ファッション業界で活躍していた有名どころである。
この連載でLeafのデジタルバックを紹介するのは2度目となるが、今回はAptusシリーズの中でも、ハッセルブラッドVシステムに最適化された「Leaf Aptus-II 10R」を取り上げる。
6×6フォーマットの受光面と同じ長辺56mmを達成した唯一のセンサーであり、デジタルバック自体にセンサー回転機構を持った珍しい機種でもある。
Aptusシリーズ
Aptus(アプタス)とは、パソコンと繋がずに単体で撮影できるようになったLeafのデジタルバック名だ。ありとあらゆる中判カメラに対応し、それぞれのマウントで発売された。
シリーズを通して3.5インチの大型タッチパネル液晶を採用しており、付属のスタイラスペンか指で操作をする。内部の冷却ファンが常時駆動しているのも特徴だろう。記録メディアはCF、パソコンとの連結撮影はFireWireと、この時代のデジタルバックとしては標準的なものだ。バッテリーは下部にぶら下げる形で装着する。
ハッセルブラッドVマウント用では、構造上シャッターのタイミングをデジタルバックへと伝えるシンクロケーブルが必要になる。
長辺56mmの大型センサー
2010年発売の本機「Leaf Aptus-II 10R」は、5600万画素のダルサ製CCDセンサー(16bit記録)を採用。Aptusシリーズではもちろん、数多くのデジタルバックの中で唯一、56mm×36mmという特殊なセンサーサイズを採用したモデルである。
6×6フィルム機の受光面が56×56mmなので、長辺に関しては完全な「フルサイズ」を実現していることになる。実際に120フィルムで撮影した場合もプリント時には若干トリミングされるし、同じ6×6のカメラでもメーカーや機種によっては受光面が若干小さいことさえある。56mm幅ギリギリまでデジタルデータとして使用できるのは、この機種だけだ。
56mm幅に対応したおかげで一般的な中判センサーよりも横長になっている。縦横のアスペクト比は概ね3:2で、一般的な135判フルサイズ機に近くなっている点も特徴だろう(厳密には135判よりわずかに長い)。
またシリーズ最上位機種として「Leaf Aptus-II 12R」があり、ほぼ645フルフレームとなる53.7×40.3mm、8000万画素センサーを採用している。だが長辺だけを見れば10Rの方が長く、改めて不思議なセンサーサイズだとわかる。
センサー回転機構
ご存知のように、ハッセルブラッドVシステムは正方形の6×6フォーマットを採用しているため、縦位置、横位置という概念がそもそも存在しなかった。
しかし、デジタルバックでは基本4:3の長方形のセンサーを採用している。そのため縦位置で撮影する場合は、バック側を90°回転して装着し直す必要があった。デジタルバックを一度外すということは、埃の混入や落下のリスクが伴うということでもある(黎明期には正方形のセンサーも存在したがここでは割愛する)。
この「縦位置問題」を一挙に解決するのが、Leaf Aptus-II 10R / 12Rで実装された、センサー回転機構「Verto」である。側面と底面に覗く回転用のダイヤルがあり、簡単にレボルビングさせることが可能だ。Vシステムをデジタルで使用するに当たって、理想的な機構と言って良いだろう。
回転ダイヤルには赤丸の印があり、現在の向きが一目でわかる。また適度なクリックがあり簡単に動かないよう工夫されているのも有難い。
純正デジタルバックとの違い
ハッセルブラッド純正デジタルバック「CFV」シリーズはカメラ本体とのマッチングが素晴らしく、外観だけ見ても、往年の名機との組み合わせが美しい。
バックを装着するだけでシャッターが機械的に連動するため、今回のようにシンクロケーブルを介してシャッターの信号をバック側に伝える必要がない。ケーブルレスで撮影できるのは実にスマートだ。
ただシャッターが機械的に連動する弊害か(フィルムバックへの連動ピンは1つしかない)はたまた別の事情があるのかは不明だが、CFVシリーズは縦位置に装着できない設計となっている。
ハッセルブラッド側は「縦位置で撮りたければ、プリズムファインダーとグリップを装着して使ってほしい」というスタンスなので、Vシステムでのウエストレベル撮影では、縦位置をあきらめる他ないのが現状だ。人物撮影の多い方にはかなり厳しい制約になってしまうだろう。
手持ち撮影サンプル
カメラは名機Hasselblad 500CM。ボディがコンパクトなのが嬉しい。年代物の機種ではあるが、趣味と割り切れば現代でも十分に実用できる。何よりシャッターや巻き上げの感触が心地よい。
今回はファインダーマスク欠品のため、実写の範囲を見ながらパーマセルテープをスクリーンに貼り代用した。
ウエストレベルでこの横長フォーマットは新鮮で楽しく、同時に難しさも感じる体験だった。135判フルサイズ機よりもほんの少し横長に写るせいか、準パノラマのようにも感じてしまう。
久々のAptusだったが、晴天下での撮影ということもあり、背面の液晶画面が本当に見えづらい。日陰に駆け込まないと何が写っているのか判別できなかった。古いデジタルバックはそういうものだと言われたら、正にその通りではある。
本機のISO感度は80-800となっており、CCD機ではお決まりのごとく、文句のない高画質を得られるのは、ISO80と100のみ。
ボディのミラーショックを考え、9割以上は1/250固定でシャッターを切った。最低感度のISO80では晴天下でも絞りがF4~F5.6辺りとなり、空を撮る場合でもなければそれ以上は絞ることができなかった。
なお、ISO200でも綺麗に写るが、解像力やレタッチ耐性などが少しずつ落ちてノイジーになっていく。
センサーが3:2のアスペクト比ということで、横位置でのフレーミングが気持ちよく決まる反面、縦位置では非常に扱いづらく感じてしまい、結局はほぼ横位置での撮影となってしまった。被写体(歩いた景色)のせいもあるだろうし、ウエストレベルで上から覗き込んでいるという部分も大きいように思う。
縦位置での人物撮影
こちらは自然光での人物撮影サンプルである。使用したレンズは「Carl Zeiss Makro-Planar T* 120mm F4」中判の120mmとしては寄れるレンズで(最短80cm)人物撮影にはちょうど良いレンズとなる。
人物撮影では縦位置を多用するが、長辺56mmギリギリまで写ることで、やたらと縦が長く感じてしまう。普段4:3の画面に慣れているせいもあり、強い違和感を持ちながらの撮影となった。光学ファインダーの角は暗いこともあり、どこまで写っているかわからずフレーミングに難儀する。
ここは良し悪しではなく、単に慣れの部分が大きい。この縦長の構図縛りでコンセプチュアルな撮影を行うのは面白そうだと思った。
なお、この撮影では歩留まりを確保するため、三脚を使用。Capture One Proにてテザー撮影を行った。ファイルの現像は最新バージョンでも可能だが、Aptusシリーズでのテザー撮影をサポートしているのはバージョン12の途中まで(今からダウンロードする場合はv11まで)。FireWireをサポートするMac OSのバージョンはCatalina(10.15)までとなっているので、実用する場合は注意してほしい。
Thunderbolt変換の場合は電力が足りず、別途リピーターハブが必要となる。個人的にはFireWire端子をもった2012年のMac Book Proを用いるのが簡単・確実だし安く済むと思う。
RAW現像前提の画づくり
今回の作例も、Capture One Pro 21にて簡単にRAW現像を施している。業務用中判デジタルバックはRAW現像が大前提で、そもそもRAWでしか記録できないため、無調整の状態で見る意味はほとんどない。
コダックCCDでは撮影時にほぼ画が完成しているのに対し、Leaf AptusシリーズのダルサCCDは、現像処理前提のネガのようなデータである。光がハマれば艶のある素晴らしい発色を見せるが、撮ったままの写真はパッとしないことも多い。動画のLogデータに近いといえばわかりやすいだろうか。
Capture One上で多くの純正プロファイルが用意されているので、自分の好みのものをベースとして追い込んでいくのが良いだろう。初期のAptusを経験している筆者から見ると、本機は後期型だけあって色味のクセも少なく、マイルドで扱いやすい印象を受けた。
まとめ
ハッセルブラッドVシステムは現在でも人気だが、いまだに業務で活躍しているケースは少ないだろう。Leaf Aptusシリーズも本来はスタジオ撮影を得意とするデジタルバックだが、現在ではテザー環境の難しさもあり、趣味の道具として使われることが多いように思う。
そんな組み合わせでのスナップには「不便」と「楽しさ」がついて回り、漏れなく芳醇なRAWデータが付いてくる。暗いとすぐに撮れなくなるし、野外では液晶画面が見づらく、電池の持ちも良いとは言いがたいが、そのシャープさと豊富な情報量、独特な発色は魅力的だ。
注意点として、本機で大きな特徴となるセンサー回転機構だが、いつの間にか回転ダイヤルに手のひらが触れてしまい、センサーが傾いた状態で撮影してしまうことが何度かあった。撮影後に必ずプレビューを確認するよう心がけたい。
2009年にLeafはPhase Oneに買収され、2024年現在でも窓口は引き継がれているものの、Aptusシリーズの修理受付は終了してしまったようだ(Leaf Credoシリーズは継続)。購入を検討される方はその点を押さえておいて欲しい。
昨今のデジタルカメラのような「カンタン・キレイ」とは方向性が違いすぎる製品だが、RAWデータのポテンシャルは相当なものだし、発色に特徴がある中で、使う人によってまったく違う仕上がりになるのが面白い。色味をメーカーに委ねることなく、自分で仕上げたい、イメージを追求したいという方は、是非ともトライしていただきたいと思う。