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インストア・サイネージの大きな変化

インストアにおけるデジタルサイネージが、コロナによって大きく変化を見せている。米Cooler Screens社が提供するデジタルサイネージ(というよりはリテールにおけるDXを実現するためのプラットフォームというのが正しいのかもしれない)は、全米最大のドラッグストアチェーンであるWalgreensの数千店舗に実装済みだ。

Cooler Screensはコンビニやスーパーなどの冷蔵庫のドアをデジタルサイネージメディア化するものだ。ご承知の通り、コンビニなどでは店舗内は徹底的に活用されているので、新たにディスプレイを設置する場所を確保することは困難である。

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サイネージ、未踏の場所は冷蔵庫?!

そんな状況の中で、唯一と言っても過言ではない未踏の場所が冷蔵庫のドアである。飲み物や冷凍食品を販売する冷蔵庫の前面ドアに4KのLCDディスプレイを取り付ける。ディスプレイ上部にはそこにいる人を認識するカメラが、庫内には在庫状況を把握するカメラとセンサーが設置されている。

これらによって冷凍食品やアイスクリーム、飲み物の商品販促ツールとしてデジタルサイネージが機能するだけでなく、センシングによってそこにいる人の年齢、性別や天候や気温・湿度などの変数に基づいて表示内容を変化させる、これがダイナミックデジタルサイネージである。

冷蔵庫の棚に設置されているセンサーが収集するデータをエッジAIシステムが解析し、品切れ商品の通知や、POSレジシステムと連動して販売価格を変化させて表示することも可能になっている。これらに加えて価格管理システムも提供されており、広告主であるメーカー企業に対して、さまざまなPOS関連のデータを可視化する分析ツールを提供している。この分析ツールからは、広告ごとの売上指標や、品切れ商品の状況、増加した売上機会の数値などの情報を得られる。

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これにより、例えばすでにWeb広告で広告運用を行っているマーケターがキャンペーンパフォーマンスをモニタリングしているのと同様に、あるいはそれ以上に、各店舗の冷蔵庫のデジタルサイネージで表示したときの効果、ダイレクトな販売実績までもをリアルタイムでモニタリングできる。

このビジネスモデルは店舗内の広告媒体化という側面よりも、広告主と小売業者にインテリジェンスを提供し、より良いショッピング体験を実現するために構築されたものといえる。

Cooler Screensの大きな課題とは?

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Cooler Screensの最も大きな課題は(それはかなり致命的とも思われるのだが)、消費者からの嫌悪感が少なくないということだ。これらには大きく2つあって、「映像に邪魔されてドアを開けないと中身が見えない」というものと、「大画面の映像はうざい」というものだ。

前者は在庫状況まで正確に把握できていない店舗や事例も多く、ドアを開けたら商品がないという失望感からくるもの。これをセンシング技術やシステム対応で解決するためには、カメラの設置場所、超広角レンズの選択、ドアの開閉によって発生しやすい結露への対策が必要になる。

センサーと言っても日本のような傾斜がついている棚であれば、商品は常に前方に移動するのでまだ対応策はあるが、そうでない場合は光軸センサーや重量や感圧センサーを複数組み合わせる必要があり、結構大変なはずだ。商品棚での欠品というのはサイネージとは無関係に改善するべきことなので、テクノロジーではなく定期的な状況確認といった運用で解決するべきである。

後者に関しては身長くらいの大きなサイズのディスプレイで4K映像を見せられるのは、視認距離によっては確かに心地よいものではないだろう。ここはクリエイティブの工夫や画面切り替え変化のタイミングの調整によってある程度改善は可能ではあると思う。

Amazonが準備しているサイネージ媒体

さてもうひとつ、リテールメディアのメディア化に関しては、Amazonの非常に興味深い動きがある。Amazonは2022年第2四半期に実店舗でサイネージ媒体を販売する計画を持っていることが、US版Business Insiderで明らかになった。

GDPRなど様々なプライバシー保護規制や、Cookieを利用できない近い将来を見据えて、企業やブランドは現実の消費者と安全にコンタクトする方法を模索している。Amazonのメディア化という視点では、これまでPrime Videoやeコマースが中心だった。しかし、いまではオフラインのインストアとネットが一体となり、もっと大きなものへと形を変えつつある。

Amazonの広告営業部門の2021年の売上は32%増の310億ドルに達し、すでに収益の一つの柱である。AmazonはDSP(デマンドサイドプラットフォーム)に多額の投資を行い、広告主のマーケティング担当者がブランド広告に費やす多額の広告予算を自社に誘引しようとしている。Amazonは自らのチャネルを広告媒体化しようとしている、それもオンラインとオフラインの両方で、である。

日本に目を向けてもこの傾向は顕著である。ファミリーマートのファミリーマートビジョンも目指している方向は同じだ。OMO(オンラインマージオフライン)やDXなどと称されるものが、いまリテールの現場から実現できる。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。