講師は「CAPSULE」の中
全米で最大のデジタルサイネージのコンベンションであるDigital Signage Experience(以下:DSE)がラスベガスのラスベガス・コンベンション・センターで2022年11月17日から19日まで3年ぶりにリアル開催された。現地の状況を報告する。もともとDSEはDigital Signage Expoとして運営されていたが、イベント運営会社の経営破綻やコロナの影響による幾度かの開催の延期を経て、およそ3年ぶりに名称と運営体制を刷新しての開催となった。
初日の基調講演には、AIを用いたデジタルアートの先駆者であるRefik Anadol氏が、「Space in the Mind of a Machine」に登壇した。同氏はステージ上に設置されたARHT社のホログラムディスプレイであるCAPSULEの中に表示され、本人はニューヨークのスタジオからのリアルタイムのライブ登壇である。
CAPUSLEは4Kの透明なタッチパネルLCDに特殊なホログラムシートを装着したもの。等身大サイズのホログラムディスプレイによるプレゼンテーションは、その場にリアルで存在する以上のインパクトを持っていたといっていいレベルだ。
実際に現場で見ると、立体的というよりは極めてリアルに見える
同製品は会場内の同社ブースにも展示されていた。CAPTURE KITというCAPSULEディスプレイ専用に設計された、ビデオ機器とスタジオ機器で構成するコンテンツ制作環境も展示していた。
基調講演においてAnadol氏は、「私はデータを絵の具として使い、機械学習の助けを借りて考える筆で絵を描いている。私の作品はアート、建築、サイエンス、テクノロジーの交差点にあるものだ。私の作品は、機械は学ぶことができるのか、意識することができるのか、そして夢を見ることができるのか?という問いかけだ。私は機械学習のアルゴリズムを使うことで、機械は夢を見ることができると信じている。それはデータの目に見えない物語性と、代替可能な現実の可能性を私たちに見せてくれるものだ」とクリエイティブ目線で語った。
またAnadol氏は2022年11月19日から2023年3月5日まで、ニューヨーク近代美術館(以下:MoMA)にて「Refik Anadol:Unsupervised」を開催するとのことだ。これは7.3×7.3メートルの巨大インスタレーションで、彼が自ら開発したAIモデルを用いて、MoMAが所有する18万点もの収蔵作品の画像38万点を利用している。
GoogleのChromeOSのリーダーが登壇
もう一つの基調講演「Redefine Your Customer Experience with Modern Kiosk and Signage Solutions」には、GoogleのChromeOSのリーダーViswanatha氏が登壇した。
同氏は「現在のキオスクとデジタルサイネージのソリューションは、高価で信頼性が低くて複雑だ。企業は従来のシステムとは異なる、新たな体験を顧客に提供できる技術を必要としている。ChromeOSのクラウドベースのプラットフォームはメンテナンスの必要性を減らし、接続されたあらゆるデバイスをリモートで管理する力をチームに与え、シームレスなエクスペリエンスを提供できる」とした。
なお、2022年9月にDOOH広告に対応して注目されているGoogle Display&Video 360に関しての説明やブース展示は残念ながら特になかったのが気になった。
サイネージ、CMSとその周辺機器
signageOSは、複数の異なるサイネージのCMSを利用している場合でもAPIを介してすべてのCMSの運用管理が可能になるプラットフォームを提供している。今回ソニーのブラビアサイネージに搭載されているCMSが連携可能となると発表があった。これによりsignageOSと連携するCMSは38となり、ほとんどのCMSとの連携が完了したといえる。
またsignageOSによって運用中のサイネージは6900面となったことも発表された。日本での導入実績はおそらくまだ少ないと思われるが、こうした上位レイヤーでの統合は、本稿 Vol.71でも紹介した人的な運用業務のアウトソーシングでこれを統合する動きなども含めて、日本でもニーズが高まってくるかもしれない。
またソニーはブラビアサイネージに加えて、空間再現ディスプレイや100インチクラスのCrystal LEDを展示した。
デジタルサイネージの周辺機器の分野では、オランダのNexmosphereがデジタルサイネージにインタラクティブ性を作り出すための多くのセンサーやコントローラー群を展示した。ELEMENTSシリーズは、静電容量方式のタッチセンサーやノンタッチセンサー、光センサー、カラーセンサー、RFIDなど、さまざまなセンサーとインターフェースがラインナップされている。
これらを制御するためのエクスペリエンスコントローラーは、ELEMENTSを組み合わせて、デジタルサイネージプレーヤーやPCに接続するためのインターフェースとなる機器である。これはエレメントからの信号を接続された機器に変換する部分となる。コントローラーの中には、LED制御や音声切り替えなどの追加機能が組み込まれているものもある。デジタルサイネージとIoT機器の連携においてのトータルソニューションは、販促領域での店頭展示などで今後さらに普及が進むと思われる。
ユニークな製品としては、Vestaboardがスプリットフラップディスプレイ、今では懐かしいいわゆる「パタパタ表示機」を現代に再創造したものを展示した。横22、縦6の合計132のBits(文字)で構成され、各Bitsは文字、記号、句読点、数字と、虹の7色を含む64個のダイカットマット印刷された文字を表示することが可能である。文字は視認性を上げるために特別にデザインされたフォントを使用しているという。
メッセージやデザインは、モバイル、タブレット、パソコン、iOS、Android、クラウドアプリから、独自のアプリとウェブインターフェースを介してVestaboardに伝えられる。実際の表示は必要な文字が来るまでの待ち時間やパタパタという回転音が心地よく、アナログ回帰的で好印象である。日本語表示の対応も不可能ではないそうだが、表示可能な文字数やその制御には、現時点ではカスタマイズが必要とのことだ。
実機はパタパタというフリップの音がなんともいえない味を出している
DSE 2022まとめ
イベントとしての今回のDSE 2022は、来場者は正直かなり少なかった。詳しい事情はわからないが、主催者とデジタルサイネージ業界の主要メンバーとの間は必ずしも良好な関係にあるわけではなかったようだ。
基調講演やセミナーには興味深いものも少なくなかったが、会場内には空きスペースが目立ち、各社のブースの出展内容もあまり目新しいものがなかったように感じる。これはDSEの問題というよりはアフターコロナにおけるデジタルサイネージ全体の課題を表しているのかもしれない。