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デジタルサイネージにおけるここ数年のトレンドとして、LEDディスプレイの利用が拡大している。これはとても良いことなのだが、いくつかの課題や疑問も見えてきているように思われるので、今のうちに指摘をしておきたいと思う。なお記事中で使用している写真は良き事例として使用しているので誤解なきように願いたい。

昨今のLEDディスプレイ普及の背景には、LEDの高輝度化、高精細化、軽量化、そして低価格化がある。高輝度化は日中の屋外での使用を可能にした。高精細化によって、例えばドットピッチが2mmの場合に横の長さがおよそ4m、縦が2mの大画面サイズでフルHD表示が可能になっている。視認位置と画面サイズ、画面解像度の関係は距離による空気感まで考慮すると単純な話ではないが、ある程度近い距離でフルHDでの大画面化をLEDで実現できる点は重要である。

またLEDディスプレイは50cm角のユニットを組み合わせて構成されることが多く、LDCとは異なり複数面を組み合わせた場合もベゼルが存在しない。かなり狭額化したLCDであっても、どうしてもベゼルによる黒い線が見えてしまうのは今となっては厳しいものがある。

またユニット化によって、曲面配置や16:9以外の異型の画角での表示も可能である。「新宿東口の猫」で非常に話題となった「クロス新宿ビジョン」のようにL字の画面配置を施すことで、錯視によるインパクトある3D表現がより効果的に実現できるようになってきた。さらにユニット化と軽量化は設置工事の低廉化をもたらし、これらがLEDディスプレイの普及を加速させているわけだ。

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曲面LEDビジョンの事例:ウメダのウドンチャン(梅田BS3Dビジョン)

このようにメリットだらけに見えるLEDディスプレイなのだが、3Dコンテンツや異型表示によるインパクトには功罪両面があるようなのだ。

その3Dインパクトには継続性があるのか

インパクトがあるということは、慣れによって飽きられやすいという側面も併せ持つことになる。新宿東口の猫に関しては、他の類似事例と比べてクリエイティブが秀逸であることと継続性やストーリー性が高いことが重要だ。特に「本物っぽいけど明らかにCGに見える猫」を使っていることである。あの猫がもっと実写のようなリアルな質感だったらどうだろう。逆にもっとアニメキャラ的で平面的なものだったらどうなのかを想像してみれば、絶妙なリアルさに仕上がっているのがわかると思う。

さらに猫や犬というのは万人受けするキラーなモチーフであり、それをCGで動かしているのだからインパクトのある動きや仕草をいくらでも(安易に言い過ぎているのは承知の上で)表現できる。さらに不思議な鳴き声がインパクトと可愛らしさをより最大化している。これはあのロケーションでは音を出すことが可能だからである。

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新宿東口の猫(クロス新宿ビジョン)

その3Dは本当に2Dよりインパクトがあるのか

3D、というより「飛び出したように見えること」は、ノーマルで平面的なコンテンツよりはインパクトがあることが確かに多い。多いと思うがそれは絶対ではない。このところ多くのデジタルサイネージにおいて3Dがある種のブームになっていると言ってもいい。

しかし効果的とは言えないような例も散見されるように思われる。ブームに流されることのない、3Dに頼ることのないクリエイティブを忘れてはならない。さもないと3Dコンテンツの賞味期限は短命で一過性なもので終わってしまうかもしれない。

実際にサイネージの現場では、こうしたインパクト至上主義に引っ張られすぎて、従来型のクリエイティブや媒体に対して広告主などからインパクトがないと評されてしまうケースも多いと聞いている。ここは関係者、特にクリエイターの知恵の絞りどころ、腕の見せどころなのだと思う。

その3DをSNSで拡散させるための絶対条件

3Dに限らないが、デジタルサイネージはそのロケーション限定なので、空間を超えて人々に到達させるためにSNSで拡散することを期待したり、それが目標や評価軸になっていることも多いだろう。その際にLEDディスプレイではあらかじめ必ず十二分に配慮しておくべきことがある。

それはスマホで写真や動画を撮影した場合にクリアに撮影できるかである。LEDディスプレイと表示させるための機器構成によっては、表示するリフレッシュレートや撮影する時のシャッタースピードによって生じるモアレのようなものが出てしまい、綺麗ではない画像や動画が拡散されてしまうことが少なくない。

スマートフォン側の撮影設定で回避できることもあるだろうが、スマホでシャッタースピードを変えるような撮影方法するようなことを普通の人はしない。全てのスマートフォンに対して対策しておくことは困難かもしれないが、事前の確認によってある程度回避は可能なはずである。

どんな事象に関しても功罪はある。デジタルサイネージにおけるLED化はその大部分はメリットであり、まさに伸びしろしかない。新たな設置面の開拓と優れたクリエイティブがこれから大いに期待できそうである。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。