Vol.84 話題の宇都宮LRTはサイネージも要チェック[江口靖二のデジタルサ

2023年8月26日に「宇都宮LRT」が開業した。新しい交通システムとしての関心と期待も非常に高い。さっそく乗車してきた宇都宮LRTの車内サイネージは非常に興味深いので、さっそく紹介をしておきたい。

LRTはLight Rail Transitの略で、いわゆる路面電車である。特に低床式なので乗り降りがしやすい。宇都宮のLRTはスタイリッシュな黄色いボディーで、3両編成でワンマン運行される。

黄色が目を引くスタイリッシュなボディーデザイン

車内には高さ19.6cm、幅69.8cmのワイドなLCDディスプレイが1編成につき10面設置されている。これは14インチディスプレイを横に2面に並べたくらいの大きさになる。設置方法は乗客や荷物などとの衝突回避のためにV字型に斜めになっていて、裏表の両面にディスプレイが設置されている。

3編成全体のディスプレイも見通すことができる
ディスプレイは両面にV字に設置されている

LRTは車両が小さいので、このサイズでも通常の電車と比べると車内空間においてはデジタルサイネージの存在感があり、視認性もきわめて高い。これが1編成に付き10面設置されているので、他の自分の最寄り以外のディスプレイも見渡すことができる。

実際の表示内容を動画で撮影したのでご覧いただきたい。撮影位置は先頭車両の一番前からで、3両編成の全体が見渡せる。

横長のワイドディスプレイは、全体を1つのキャンバスとして表示することも、左右を別のキャンバスとして表示することもできるようである。媒体資料によると、左右の両方に動画を表示することはできないが、静止画+静止画、静止画+動画、動画+静止画という表示構成が可能だ。動画を表示する場合には、素材の先頭部分に必ず黒味が入ってしまう。これは搭載されている機材のマシンスペックや再生ソフトウエアのバッファー処理の問題と思われる。多くのデジタルサイネージではこれを避けるようにすることが多い。しかし、黒味が入ることで素材が切り替わったことが認識できるし、それが目を引くことにもなるので、個人的には問題であるとは思わないし、異なる素材が連続して表示されるよりは、メリハリが効いて良いのではないかとさえ思う。

10面の各ディスプレイは同期していないので、再生タイミングは合わない。さらに静止画と動画を左右で表示している場合には、動画側だけに黒味が出るのと、動画の位置が素材によって左右どちらかが決まっていないので、ずっと見ていると黒味が右か左にバラバラに出現したり、左右どちらも静止画の場合は黒味が出ないなど、編成全体としてはなかなか「賑やか」である。これは電車内のデジタルサイネージでは珍しいことではあるが、変化こそが目を引くという大原則からすると、やはり悪いことではないだろうと思う。

車内の様子と、運賃表やドア上の運行上表のサイネージも紹介しておく。

 
窓は広く、シートは対面式
乗車時と降車時に交通ICカードをタッチする。乗降でタッチする場所が異なるのはやはり紛らわしい
バスの運賃表と同じ
ワンマン運転のために運転台ではカメラによる車内外のモニタリングをしている
ドア上の運行表示は多言語対応

もう一つ、交通機関におけるデジタルサイネージとしては、媒体としてのローカル性がとても高いように感じる。東京の地下鉄や山手線には感じられないローカル感である。これは田舎という意味ではなく、地域感である。同様のことは路線バスや、JRでも筆者に知っている例では橋本と茅ヶ崎を結んでいる相模線などでも感じることである。

乗客は明らかに地元の人が多く、表示されている広告もローカルクライアント一色で、満稿かどうかはわからないがかなりのクライアントが出稿している。開業時の御祝儀的な部分は当然あるにせよ、街を上げてLRTを歓迎していることがわかる。さらに先程も述べたように、LRTの狭さによってデジタルサイネージと乗客=オーディエンスとの物理的な距離もとても近い。シートの配置とディスプレイの配置も正対している。

これらのことをコンテンツにもっと活かすことができたら、メディアとしてもっと機能していくのではないだろうか。たとえば通学で利用している学生が目立ったので、このあたりに絞り込んだ、画面にQRコードを表示したスマホ連携のコンテンツを仕込んでみたいと感じた。

さらに宇都宮市がある栃木県の特殊なメディア状況として、県域地上波局とラジオ局、ケーブルテレビ局、コミュニティーFMもある。このLRTデジタルサイネージがこうした既存の放送メディアと積極的に連携して、放送にはないセレンディピティーな地域メディアとして機能できれば素晴らしいことだ。

LRTの開業と同じタイミングで、停留場など沿線の5カ所では時刻表や路線バスの乗り換え案内などを検索できるデジタルサイネージ「コレオ・タッチ」の運用が始まった。下野新聞社が宇都宮市の補助金を得て設置していく。最終的な設置場所はLRTの主要停留所4カ所と、市の施設に5カ所の計9カ所の予定。提供される情報はLRT時刻表やバスとの接続案内、近隣マップ、グルメ・ショップ情報、宇都宮市の広報情報、下野新聞のニュースなどだ。

LRTの宇都宮東口駅のホームの設置例(画面左端)
LRTの時刻表
宇都宮の地域情報
ローカルニュース

実際に利用してみたが、こうした情報KIOSK型のサイネージとしてはよくあるもので、グルメ・ショップ情報は写真も少なくコンテンツが充実していない。また決して広くはないプラットホームで、lRTを待つ間にタッチパネルを操作してニュースを見るだろうか。もしも多くの人が操作を行うと、それは乗降や待合時に支障をきたすことにはならないのか。この場所の持つ性格や状況を考慮する必要がある。

写真がほとんどないグルメ・ショップ情報

コレオ・タッチが設置される場所を全て確認した訳ではないが、設置ロケーションごとにこうした端末で有効なコンテンツ、そもそも設置の必要の有無は異なるはずである。私が操作したのはLRTの宇都宮駅東口の停留所のホームと、その上層にあるJR宇都宮駅から西口商業施設への通路の屋外に設置されているもの。この2カ所は距離にして数十mしか離れていないが、この場所にいる人の状況と属性は大きく異なるはずだ。

完全屋外に設置されている。事情があるのだろうが、どうして屋根のあるところに設置できなかったのか
この日は大雨だったが、なかなか過酷な設置環境である
カメラで人を検出して操作画面にシフトしているように思われる。属性取得については不明
この日はLCDとガラス面の距離がかなりあるのと、雨つぶの影響で反応は非常に悪かった

ここから50mほど離れたJR宇都宮駅の西口には、実証実験が継続されている類似の端末が設置されていて、ここは案外利用されていた。それはバス乗り場を知りたいからなのだ。日常的に利用していない限り、バスの乗り場というのはスマホの乗換案内アプリなどではなかなかわかりにくく、その場所にある看板やサインやサイネージで見たほうが、圧倒的に楽であることは誰もが経験しているのではないか。駅にいる人のニーズというのは、実はかなり絞り込めるはずなのである。

JR宇都宮駅西口2Fの連絡通路の奥で、改札から出てくるとちょっとわかりにくい場所
このときは日帰り出張と思われるビジネスマンがバス乗り場を検索していた

コレオ・タッチが数年でモノリス化して誰も見向きもしなくならないためにも、コミュニケーション設計をきちんとする必要がある。その上で、必要なコンテンツに絞り込むことだ。駅のホームなどで行政の広報情報やニュースを立ち止まってタッチパネルを操作してまで見たい、と思うような動機が果たして本当にそこに存在するのかということである。

宇都宮には年に数回は餃子目的で出かけているので、今後も定点観測をしていきたいと思う。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。