シグマは2025年6月20~21日の2日間、川崎市麻生区の本社で「Sigma Aizu Prime Line」の国内初お披露目イベントを開催した。Aizu Primeは、全焦点距離でT1.3を達成した大口径シネレンズであり、シネマ専用設計が特徴である。
会場には多くの映像業界関係者が来場し、新製品への高い関心が見受けられた。大きな盛り上がりを見せた本イベントの企画について、キーマンにお話を伺った。
――まずは自己紹介からお願いできますでしょうか
藤井氏:
シグマで国内のシネレンズにおけるマーケティングと営業を担当しております藤井俊成です。担当してからは3年で、今回のイベントでは企画全体を統括しました。

北山氏:
映像機材のメーカーや販売店に向けて、マーケティング支援、販売戦略の設計、イベントのコンセプト立案や運営サポートなど、包括的なコンサルティングを行っているMotiの北山壮平と申します。

Sigma Aizu Prime Line
――まずは今回発表されたAizu Primeの特徴について教えてください
藤井氏:
世界で初めてT1.3をラージフォーマットで実現したプライムのラインナップで、現状は25mm~75mmの8本、来年中を目標に18mm~125mmの計12本を展開します。

Sigmaがこれまで発表してきたほとんどのシネレンズは、スチルレンズの光学設計をベースにしつつ外観等をシネレンズ化するリハウジング的な手法でモノづくりを行ってきました。これらの製品は、当初我々が想像した範囲を超え、より多くの映像制作の現場に導入いただく機会を得ました。
同時に、この出来事はメーカーである我々が新たに貢献できる可能性を見出す機会ともなりました。
その中で、様々な映像制作に携わる皆様に対して開発メンバーと共にヒアリングを行った結果、映像表現に適した描写の存在と各焦点距離における描写の統一の重要性に気づき、これをラージフォーマット対応の開放T1.3というより高い明るさを実現しながらも、従来のFF High Speed Primeと同等のサイズ感で仕上げた製品がAizu Primeです。

Sigmaらしい世界観を体現したイベント
――今回のイベントはどのようなイベントだったのでしょうか?
藤井氏:
映像業界において比較的後発である当社が、ありがたいことに一定のご支持をいただいている状況で、かねて新製品に関するご要望やご期待は多く頂戴しておりました。
そういった中で発表する今回の製品は、完全新規設計という貴重な機会に恵まれたことから、単なる発表で終わらせるにはもったいないと感じておりました。Aizu Primeという特別な製品をローンチするにあたっては、製品の特徴に留まらず、Sigmaの持つ世界観をパッケージで提供する機会として企画しました。
製品の開発は数年前からスタートしておりましたが、イベントの直接的な企画はおおよそ半年前からスタートしました。その際、これまで多くのプロジェクトを共にしてきた北山さんにお声がけしました。北山さんはSigmaの持つブランドトーンを理解しつつ、映像業界ならではの慣習を認識されていますので、本来あるべきローンチの姿とは何かという原点の部分からコミュニケーションを図ることができると思い、お願いしました。
最終的には新製品に関する「新製品プレゼン」「エンジニアトークセッション」「実写セッション」の3つを大きな柱とするイベントになりましたが、これが固まるのは企画検討の開始からずいぶん先のことで、当初はまっさらな状態で「とにかく貴重な機会となるこのローンチをどう演出すべきか考えたい」という漠然としたものでした。
――お声がけを受けてどのようなことを考えられましたか?
北山氏:
まず最初に考えたのは、「この製品を誰に、どのような形で届けるべきか」という共通の出発点をしっかりと持つことでした。
Aizu Primeのような特別なプロダクトを発表するにあたって、あらためてターゲット層を見極めた上で、その方々に最も自然に、そして深く届く場や見せ方とは何か——その検討からスタートしました。
映像業界特有の慣習や価値観を理解しつつも、それに縛られすぎることなく、Sigmaが持つ思想や美意識、そして完全新設計による最高峰のシネマレンズとしての在り方を、どのように立ち上げるべきか。
藤井さんと共に、その本質を探る議論やシミュレーションを何度も重ねながら、発表会の"あるべき姿"を丁寧に模索していきました。
一見すると非効率にも映るような打ち合わせの連続だったかもしれませんが、そうしたプロセスを惜しまなかったからこそ、Sigmaの姿勢を深く内包したアウトプットにつながったと感じています。
そしてそれが結果的に、プロジェクトの途中でさまざまな条件によって方向転換が求められた場面でも、迷いなく判断し、軸をぶらさずに進められた大きな要因だったと思います。
ですので、ただ依頼を受けたというよりは、「この製品をどう世の中に提示すべきか」を藤井さんと一緒に改めて深く問い直すところからスタートした、というのが正確なところかと思います。

――議論は順調に進行したのでしょうか?
藤井氏:
決して順調とは言い難いものでした。企画は半年の間に大きく2度の変更を経ています。
北山氏:
最初に検討したのは、Aizu Primeを使用したライブデモンストレーションでした。ただ、本社を活用するという制約上、通常業務との両立が難しいという運営上の懸念に加え、大掛かりな構成になることによる予算面での負担も大きく、結果的に実施は見送る判断となりました。
とはいえ、Aizu Primeの描写の美しさを"どう適切に伝えるか"という点に関しては、「単に目で見る美しさを超えた体験」を届けるべきだという共通のコンセプトを、藤井さんと早い段階から持つことができていました。
また、レンズの描写力を活かすには、レンズの前にある空間そのものが美しくある必要がある——という考えから、Sigma本社が持つ空間の美しさをいかに引き出し、レンズを通して映し出すかという次のステップへと、議論を進めていくことができました。
藤井氏:
レンズ描写を適切に見せるにあたっては、適した環境を準備しつつ、レンズ以外の差分を極限まで少なくする必要があると考えました。そこで次に検討した企画案では、より映像制作に対して高い技術力を持つ企業に協力を依頼し、実写の空間を整えることに注力するというものでした。
しかし、同時にイベントで提供すべき「Sigmaならではの世界観」を我々が要件定義することは容易ではなく、限られた時間の中で新たなメンバーと精度を高めることへの難しさにも直面しました。
最終的にはイベント実施の約1カ月前、自分たちで企画から運営までを直接行う形に変更し、実写エリアの構築も直接アサインしました。
イベント後の反響と展望
――実際のイベントにお越しいただいた方からはどのようなフィードバックがありましたか?
藤井氏:
とても高い評価をいただいていると感じています。イベントの最中にはご来場された多くの皆様が、各時間枠ギリギリまで過ごしていただき、良い表情をされていたことが印象的でした。
また、事後のアンケートには何らインセンティブがないにもかかわらず、非常に多くの好意的なご意見をいただいたことも印象的です。
――それは狙い通りだったのでしょうか?
北山氏:
狙い通りというよりも…期待していた以上だったという感覚に近いかもしれません。こちらが意図して設計した空間や導線に、来場者の方々が自然に溶け込んでくださって、そこに流れる空気やリズムが非常に心地よく感じられました。
演出した側としては、その場に生まれた"空気"こそが一番の成果だったと感じています。

――そこで狙った空気感とは具体的には何だったんでしょうか。
藤井氏:
今回のローンチイベントとして求められる要素、具体的には「Sigmaの世界観に触れてもらうこと」「製品の良さを体感できること」「日本の企業としてシネレンズに取り組む姿勢」の3点を過不足なく、しかし飽きさせずに提供することに取り組みました。
北山氏:
藤井さんの挙げた3点の中でも、特に"Sigmaらしい世界観"をどう体現するかに注力しました。外部の立場だからこそ、Sigmaというブランドを客観的に捉え直し、来場者が期待する"Sigma感"を過不足なく、自然に感じ取ってもらえるようにすることが狙いでした。

言葉で説明するのではなく、空間全体から静かににじみ出るように。素材の質感や光の使い方、動線設計に加えて、音楽もまた空間演出の一部として捉え、場のトーンに合わせて6時間分のプレイリストを選曲しました。
とりわけ試写エリアでは、Sigma本社の大きな窓から見える青々とした木々の景色を活かすため、背景に半透明のビニール素材を採用。自然光と映像空間がやわらかく交差するような演出により、レンズの描写が最も引き立つ静けさと集中感のある環境を整えました。
そうした空間全体の設計を通じて、"Sigmaの世界観を体感してもらう"という当初のコンセプトを、言葉ではなく空気として届けることが狙いでした。
藤井氏:
結果的にそういったコンセプトを提供できた今回のイベントは、この映像業界において数多く行われる機材内覧会の中でも、特別な機会になったと感じています。イベントの様子は、ぜひ映像にてご覧ください。
――今後のSigmaの映像業界に対する展望を教えてください。
藤井氏:
今回新たに発表したAizu Prime Lineはもちろん、同時に開発発表を行ったAF Cine Line、既存のHigh Speed Zoom LineやFF High Speed Prime Line、数多くのスチルレンズなど、当社が誇る優秀なエンジニアと会津工場の技術力によって生み出される製品で、多様化する映像制作に新たな可能性をもたらし、製作にかかわる皆様に貢献したいと考えております。
Aizu Primeに関してはいよいよ8月発売となりましたが、ぜひ多くの皆様にお試しをいただき、1つでも多くの作品に採用いただきたく思っております。
デモのご依頼もお気軽にお待ちしております。
