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デジタルサイネージの設置ロケーションについて、これから新たに期待されるロケーションは天井面、頭上である。LEDまたはプロジェクターによって新たに利用できる可能性が高い、ここまでほとんど未開拓の領域だ。頭上は視線が行きにくく、情報を伝えるというよりは空間選出的な要素が強いが、クリエイティブ表現も含めて広告媒体とは異なる方向性で開発できるかがポイントになる。

頭の上はまだまだ発展途上

デジタルサイネージのロケーション開発は常に模索と探求が続けられている。新たなロケーション開発は、テクノロジーの進化で拡大されることが多い。LCDパネルのベゼルが狭額になることで、マルチ画面による構成が可能になったり、パネルが薄くなることで柱面が利用されてきた。ここ数年のLEDディスプレイ化による大型化、曲面化が進んでいるが、LEDによるもう一つ注目した動きが天井というロケーション開発である。

天井というロケーションは、デジタルサイネージではここまでほとんど手がつけられていなかった場所だ。天井面にLCDを設置する場合、パネルガラスの耐久性と放熱の問題がある。またプロジェクターだとプロジェクター本体の設置場所の確保や投射距離が問題になる。

筆者が体験した数少ない利用事例としては、ドバイのブルジュ・ハリファの展望台直行エレベーターや、韓国のソウルタワーのエレべーターカゴ内の天井面で見たことがある。

ここで最近の天井面を利用したデジタルサイネージの事例をいくつか紹介しておく。

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天井の事例といえばラスベガスのフリーモント・ストリート・エクスペリエンスだ。幅27m、長さ457mと大きさも世界最大
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展示会ブースでの利用例
江口靖二のデジタルサイネージ時評 Vol.80 サイネージで伸びしろのあるロケーションは天井面説明写真
光が持つ効果を活用して、感情に伝えるような驚き、"酔いしれる"体験を フルカラーの色と光でつくりだす
株式会社カーディナルのプレスリリースより

渋谷駅東京メトロ銀座線の高架下の事例(これは常設ではないと思われる)

天井面のロケーション特性と視認性

天井面、頭の上という場所は必ずしも視認性が低いわけではないと思う。自分の真上は見上げる必要があるが、ある程度の距離からは通常の目線で認識できる。ディスプレイに向かって視認者が徐々に接近してくる状況だとすれば、コンテンツ表現やディスプレイの設置形状を工夫することで面白い表現ができそうだ。道路面に表示された交通標識文字は、移動している運転席からの視認性を良くするために変形されているような工夫である。

もちろん、文字などで多くの情報を伝えるには適したロケーションではない。だが直接的な情報以外の部分で、多くのものを伝えられる、感じられる場所だと思う。自然な状態で我々の頭上から得られる情報は、星、太陽、空、雲といったもので、地上とは別次元のものであるように思う。頭上とは良い印象があり、憧れでもある。こういったロケーションに対する潜在的なイメージも、天井面を利用する際には味方につけられるべきである。

天井と同様に、床面側もLED利用に適しているが、どうしても人間の重量に耐えられる仕掛けが必要なことと、汚れへの対策が必要なので、天井面ほどの期待はできないロケーションである。

頭上に適したコンテンツとは

天井面のクリエイティブは、これまでのものとは分けて考えたほうが良い。例えば金沢21世紀美術館に恒久展示されているレアンドロ・エルリッヒの作品「スイミング・プール」のような状況を再現したらどうだろうか。何かが上から覗き込む設定で、3Dコンテンツ化する。もちろん常に覗き込むコンテンツだけでは効果が薄れるので、使い分けやタイミングを工夫しておく必要がある。

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金沢21世紀美術館にあるレアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」 ©三ケ日 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

天井面のサイネージのクリエイティブでやってはいけないことは、普通のコンテンツの流用だ。かつて柱面に縦設置のデジタルサイネージが登場した当初は、縦画面に特化したコンテンツ素材ではなく、従来の16:9の横素材の流用が目立ったわけだが、せっかくの縦画面の効果は半減したことを思い出してほしい。

本稿で紹介した北斎の天井絵のように、昔から天井面は場所の特性や様々な意味合いを込めて利用されてきた。もしも北斎が今の時代に生きるデジタルメディアのクリエイターだとしたら、彼はそこにどんなものを描くのか。そういう視点で、まだまだブルーオーシャンで、伸びしろの大きい天井面を新たなキャンバスとしてのビジネスを考えたい。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。