JR大阪駅のうめきた地下口エリアが、複数の新技術を駆使した「近未来の駅」になったという情報と、あの通天閣がLEDディスプレイ化したということなので、それぞれの現場を確認してきた。
うめきたエリアというのは、JR大阪駅の北西側エリアで進む大規模な再開発事業によって新たに作られた地下ホームだ。500mほど離れた従来の大阪駅とは地下通路で繋がっている。行き方は従来の大阪駅ホームの西端から行くのがわかりやすい。うめきた地下口ホームは、関西空港や和歌山方面の特急や、おおさか東線のホームとなっている。
位置付け的には東京駅で言えば京葉線地下ホームのようなものだろう。この新たなうめきた地下口エリアで、3月から複数の先端技術を駆使したデジタルサイネージやAI関連のサービスが開始されていた。
デジタル可変案内サイン
乗り場案内のアナログサインがデジタルサイネージ化されたもの。これはなかなか便利である。固定化された情報しか表示できないアナログサインだと、伝えたい情報が複数ある場合にそれらを列挙することになるがどうしても煩雑でわかりにくくなる。その点では絞り込んだ情報を切り替えることで視認性と理解は飛躍的に向上している。
デジタル可変案内サイン
一方でアナログサインには未開通の新線(なにわ筋線?)やオープンしていない建物の情報がすでに書き込まれていて、利用できるまでの間は目張り処理されているのはちょっと残念な気持ちになった。
世界初のフルスクリーンホームドア
各地で駅のホームドアの普及が進んでおり、この面をデジタルサイネージ化する例も増えてきている。うめきた地下口の事例では、ホームドアの可動部分にディスプレイが設置されているというもの。これも実際の現場の様子を動画で撮影したのでご覧いただきたい。
可動するホームドアのデジタルサイネージに電車が着線する
機構的にはドア下部におそらく車輪があってドアを開閉させている。上部にはフレキシブルなケーブルがあって、ディスプレイに電源を供給しているようだ。表示のためのSTB的な機材がドア内に組み込まれているのか、上部の天井にあるのか、それはドア単位かホーム全体で1系統なのかは確認することはできなかった。
ホームドアはセンサーによって近づきすぎると注意喚起のアナウンスが流れる
車輪部分の溝にゴミが溜まるのをどう対応しているのかも気になったが、特急などのホームなのでそれほど問題にはならないのかもしれない。
自分だけの情報をサイネージに表示するOne to One
これは今回の各サービスの中では最も注目していたものだ。個人の行き先案内を、駅構内のサイネージで行く先々で表示して案内をしてくれるというものだ。下記のJR西日本のプレスリリースと、現場のサイネージで紹介されていた映像を見ていただきたい。
パーソナライズされたサイネージOne to Oneの紹介映像
実はこれらだけではよくわからないのだが、
- 対象のサイネージはうめきた地下口だけに3面(駅職員さんも曖昧だった)しかない
- 現状の使い方は、うめきたが「出発地」ではなく「目的地」という前提
- まずアプリ(JR西日本のWESTER)で目的地までの経路検索をする
- うめきた地下口までやって来ると、スマホと該当するディスプレイがBluetoothで通信して、うめきた地下口からの行き方をスマホへ通知する
- そのタイミングでスマホを見ると、自分のアイコンとなる画像が表示され、同じアイコンがサイネージにも表示され、どの出口からどちらの方向に行くべきかをナビゲートしてくれる
というもの。
しかしながら、結論を言うと残念ながら体験できなかったというか動作していなかった。この結論を得るまでに自分で15分ほど試したのだが、Webや現場のサイネージで繰り返し表示されている利用案内の通りの挙動には何度やってもならない。改札の職員の方に聞いても誰もわからず、わかる人がわかるまでに30分を要した。
わかる駅員さんの説明で、使い方自体が間違っていたのはわかった。前述の出発地と目的地の話である。そこで正しい設定で試してみたがやはり動作しない。先程の駅員さんも一緒に2台のスマホで試すもやはり動作しない。
さらに時間を開けて、通天閣からヨドバシカメラ梅田店に行きたいと設定したのだが、残念ながらうまくいかなかった。理由は申し訳ないがわからない。
サイネージをパーソナルな媒体として利用するというのは、歩きスマホをしなくても良いので非常に便利である、類似のサービスは以前本稿でも紹介したデルタ航空のデトロイト空港の事例がある。こういったパーソナライズした利用は、今後も大いに期待をしたいと同時に、大阪を訪れた際にはまた試してみたい。
ゲートのない顔認証改札機
顔認証によるいわゆる「Just Walk Out」な改札機である。現在は実証実験中となっていて、3月6日からモニターを募集している。モニター条件は大阪~新大阪駅間を含むICOCA定期券を持っていることだ。モニター登録は定期券のIDと顔情報を紐付ける。私は該当の定期券を持っていないので体験することはできず、通過する人の様子を観察した。なお交通ICカードで従来のようにタッチをすれば、誰でも通過は可能のようだ。
ゲートは想像よりも幅が広くて、同時に4人くらいは通過できそうなサイズのトンネル状になっている。ゲートにはドアはない。入場出場はどちらも右側通行になっているが入出場の仕切りはない。おそらくは朝夕で入場または出場に集中するだろうから、あえて仕切りは設けず、ゲート内であればどこを通過しても認識されるのだろう。未登録で通過しようとするとどういう反応になるのかは試していないので不明である。
ゲートの壁面内側の左右にはディスプレイが設置されていてCGが表示されている。これがどういう役割を果たしているのか、センシングに関与しているのかはわからなかった。
電車の改札機は、日本では交通ICカードによるタッチが一般的になっているが、海外ではクレジットカードのタッチが一般的になってきている。ただこれはICカードよりも反応速度が遅いために、日本のようなラッシュアワーには渋滞の原因となるだろう。
今回の顔認識はただ通り抜けるだけなので、非常に便利である。問題は精度だろう。すでに入出国では顔認識ゲートが導入されて久しいが、あれよりも遥かに短時間での処理が求められる。こうしたJust Walk Out改札機が普及していくことになるだろう。
AI案内ロボット「Ayumi」
最近駅などでよく見かけるタイプのAIコンシェルジュ端末である。対応言語は日英。表示部はLCDで、操作部は空中非接触ディスプレイになっている。非接触は最初だけ少し操作感に戸惑うが、すぐに慣れるので問題はない。情報入力は音声入力で行う。少なくとも日本語と筆者の英語は正確に認識した。筐体の形状が包み込むようなシールド状になっているので、マイクの集音精度も良いのだろう、認識率はかなり高い。
ただし、こうしたものにありがちだが、想定していないというかプリセットされていない情報には無反応、またはわからないという回答になる。このときもここから歩いて10分ほどにある飲食店まで行きたいと話しかけたところ、音声認識は正確だったが駅構内と思われる関連の店舗を案内してきた。
事情としてはわかるが、利用者からすると使えないというか逆効果で、だったらスマホでGoogleやChatGPTに聞くよ、ということになる。こうしたAIコンシェルジュのニーズは利用者、鉄道事業者の双方にかなり高く存在しているのは間違いないので、こうした閉鎖的な仕様は見直すべきだと思う。
移動案内などの結果は、表示されるQRコードを読み込んで持ち歩けるのは便利。しかしであれば最初からスマホで調べる、というのも現実ではある。
トイレDX
コンコースにあるトイレにはかなりコモディティー化してきている満空情報がデジタルサイネージによって可視化されている。表示場所はトイレの入り口と、コンコース内に数カ所設置されているタッチパネルの案内サイネージである。センシングは個室上部の天井に人感センサーが設置されている。
せっかくトイレに入る前に満室であることを確認できても、ここから最寄りの改札内トイレは、西口の1Fとなりアップダウンのある道のりを歩いて3分以上かかる。改札外の場所は不明だ。またタッチパネルサイネージ端末は操作しないと満空情報にはたどり着かない。
トイレの満空情報というのは何のためにあるべきなのか。これは満室時において他の選択肢を利用者に提供するものではないかと思うのだが、いかがだろうか。最近の商業施設や空港の例では、他の選択肢を提示してくれる。
プロジェクション
コンコースの奥まった場所の壁面に、プロジェクターで海の中のようなCG映像が投影されている。ニュースリリース等ではプロジェクションマッピングとなっているが、マッピングはしていないプロジェクションであった。また輝度やコントラストはLEDと比較すると物足りないのは否めない。
プロジェクションされる映像は、近くにあるタッチパネル端末で切り替えができたり、記念写真が撮れるような映像に切り替えられるのであるが、正直魅力的なものとは言い難い。このロケーションは今後拡張などの計画があるのかもしれないが、現在は人々の動線上にはない。手前のスペースはかなり広いので、イベントなどが定期的に開催されるとか、椅子やテーブルを置けばとてもいい空間になると感じた。
コンテンツも関西近隣、特にここから出発する電車の行き先のライブカメラ映像を見せてくれたら、特にインバウンド観光客には魅力的なものになると思うし、そこに行きたくなるかもしれない。関空のライブ映像や姫路城などは最適なのではないかと感じた。
通天閣のネオンサインがサイネージ化した
大阪名物、通天閣にデジタルサイネージが実装された。以前はネオンサインだったのはご承知のとおりだが、ネオン管の維持が難しくなる中で、LEDディスプレイにリニューアルされるのは時代の流れだろう。
通天閣は鉄骨構造で、上部は四角い4面で構成されている。今回は昼間しか訪れることができなかったが、4面のうち1面だけがLEDディスプレイ化されていた。残り3面は可変できないLEDライト、またはLEDによるネオン的なものである。可変できることによる複数情報の表示はプラス要因であることは間違いないが、ネオンと比べてどうしても風情が薄まったかなという印象ではある。
晴天の昼間にiPhoneで撮影。リフレッシュレートやシャッタースピードの関係で綺麗には撮影できていない
通天閣は公道上にあるために、デジタルサイネージでの動きの激しいアニメーションなどの表示は制限されるらしい。残念ではあるが通天閣というシンボリックな場所に、必要以上にデジタルが全面に出ることは正解ではないように思うので、ここは好意的に受け取りたい。