「CDTVライブ!ライブ!」収録でリモートプロダクションユニット「CBK-RPU7」を採用

2023年12月4日(月)夜7時から放送された、TBS系「CDTVライブ!ライブ!」の2時間スペシャル「King Gnu Fes.」における、5G通信により高画質、低遅延での映像伝送を実現するリモートプロダクションユニット「CBK-RPU7」を運用検証し、新たな番組制作を模索する取り組みについて紹介をしたい。

今回お話を伺ったのは、株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 制作技術統括部 鈴木昭平氏と、株式会社TBSアクト スタジオ本部 スタジオ撮影二部 間島啓輔氏のお二人である。鈴木氏は制作技術部統括部のテクニカルマネージャーという立場であると同時に、CDTVライブ!ライブ!においてはビデオエンジニアを担当している。間島氏はカメラマン出身で同番組ではテクニカルディレクターを担当された。

こちらのお二人に、CBK-RPU7がライブ映像制作にどのようなメリットをもたらしたのかを深堀りしていく。

間島啓輔氏(左)鈴木昭平氏(右)
CBK-RPU7

ワイヤレス運用のハードルを下げるコンパクトな筐体

今回の機材選択のきっかけはどういうものでしたか

鈴木氏:

あるアーティストのPVで20台ほどの動き回るカメラを使った映像演出にインスパイアされて、テレビでもこういった演出ができないかと考えていました。
そのタイミングで自社のスタジオでローカル5Gの検証環境が整備されて、それを活用してみようと思ったのが始まりです。
今までだと、同時に複数台のカメラを無線で映像伝送するのは機材運用のハードルが高く、実現に踏み切れませんでした。
ただ、CBK-RPU7は筐体もコンパクトで、スマホなどの5G通信端末経由で運用できることから複数台の無線運用が可能だと思い、今回のライブ映像で私たちが思い描いていた演出をテレビで挑戦しようと思いました。

CBK-RPU7により複数台カメラの無線運用が可能になったと語る鈴木氏

今回の撮影機材の装着状況を教えて下さい

間島氏:

手持ちのFX6と、付属のショルダーベルトで固定されたCBK-RPU7を腰のあたりに装着していました。FX6とCBK-RPU7は有線で接続し、そこから先がローカル5Gネットワークに接続して、カメラリグとしてはワイヤレスカメラという構成です。動きやすさ、装着感、オペレーションに全く問題ないですね。

CBK-RPU7はコンパクトな機体ゆえ、機動性を保ったままの撮影が可能だ

鈴木氏:

カメラのワイヤレス化自体については、無線にする機材と持つカメラ機材の選定など、従来から選択肢は存在していましたが、今回のような音楽ライブにおける機動力を活かした演出には、非常にコンパクトな構成ではまっていたと思います。

CBK-RPU7を用いて、FX6 5台をワイヤレスカメラとして運用

ローカル5G伝送を活かした攻めた演出

CBK-RPU7を組み込んだワイヤレスカメラはどういった運用方法でしたか。

 

鈴木氏:

今回の検証ではライブ収録を行なった上で、最終的なオンエアでは編集をすることにしていました。収録現場では、制作側はもちろんのこと、アーティストサイドに対してもどういう画になっているのかを見ていただく必要があるので、5台のワイヤレス化されたFX6の映像のライブスイッチングされた映像をプレイバックして、確認しながら進めていきました。
またライブスイッチングされた映像は、オンエアに向けた本編集のガイドとしても利用し、現場のライブ感を活かしつつ、編集でフォローしました。

    テキスト
※画像をクリックして拡大 CDTVライブ!ライブ!「King Gnu Fes.」での系統図。
CBK-RPU7同様、HEVCベースの圧縮処理を行う独自のチップを搭載したメディア・エッジプロセッサー「NXL-ME80」がデコーダーとして活用されている
NXL-ME80

ワイヤレスの機動力を活かすためには大切なことは何でしょうか

 

鈴木氏:

ライブスイッチングが得意な人や、刻々変化していく現場の状況の中で、即座に判断できる人ってそんなに多くないのです。ワイヤレスの機動力が活きる形の画にできるかは、人による部分もあると思います。
その点で今回はTDを間島さんが担当してくれたのは心強かったと思っています。

ワイヤレスカメラからの映像では、スイッチングの手法は変わりましたか。

 

間島氏:

元々はカット割りをする前提で準備をしていましたが、リハーサルでワイヤレスなFX6が何台もあり、そこから得られる映像を見たアーティストからは、「もっとカメラをワークさせ、アクティブに動いて欲しい」という要望をいただきました。そこで全編アドリブスイッチングにする方針に切り替えました。
そうなれば、なるべくマルチで、一連では撮れないようなアングルが欲しかったので、カメラマンには「ずっと撮っていてください、こっちで切るので」という話しをしました。私の余裕がなかったのもありますが、これが最終的には大正解だったと思います。自分がカメラマンをやってきたのでわかるのですが、細かく指示を出すより、カメラマンに任せた方がいい画が来ることも多いんです。
またアーティストのテンションが上がるタイミングは、事前に動画などを見てある程度予想していましたし、以前にもご一緒させていただいた経験も踏まえて収録ができたと思います。誰よりも僕が一番気持ちよかったかもしれないです(笑)

「CDTVライブ!ライブ!」のCBK-RPU7を活用したライブ映像が、YouTubeにて2024年4月29日の20:00まで期間限定

※本記事への動画リンク掲載期間は2024年4月29日12:00までとなっております。

ソニー独自のHEVCコーデックによる高画質・低遅延伝送の恩恵

FX6との組み合わせはいかがでしたか。

 

鈴木氏:

FX6は強力ですね。今回のようなかなり暗い環境でも感度が取れること、大判センサーならではのボケ味、そして絶妙な大きさ 手に収まって片手でオペレート出来るサイズ感など、カメラマンとしてはとても扱いやすいカメラだと思います。
そんなFX6とCBK-RPU7を組み合わせたワークフローにより、アーティストに近づいた映像を高画質のままに、伝送過程での画質の劣化を防ぎつつ、遅延を最小限に抑えることができます。この点は他とは違うインパクトのある画作りが可能になる新たな武器になりましたね。
印象に残っているのは、TBSの採用で現場志望の学生が、「King Gnu Fes.」だけが他の局と映像が違っていて、あんなにワイドにグイグイ近づいていてあれは何だったんでしょう、私はあれがやりたいです」と言って入社してきた人がいます。プロだけではなく、一般の視聴者にも何か違う感じだったということが伝わったとしたら嬉しいですね。

CBK-RPU7の高度な映像伝送で、FX6の高画質な映像を最大限に活かすことができる

今後の展望について

新しい技術に対する向き合い方を教えて下さい。

間島氏:

やはりできるだけ他と違うことをしたいですね。今回のようなワイヤレスの複数台同時使用もそうですし、撮影機材だけではなく照明機材などでも全部そうだと思っています。そのためには業界全体でまだ導入されていない新しい技術や手法を常にキャッチしていく必要があります。そこから新たな流行りを作りたいですね。

新しい映像技術を積極的に取り入れる姿勢を見せる間島氏

鈴木氏:

そのためには、我々には演出にアプローチをかけられる環境があります。CDTVライブ!ライブ!は長く続いている番組です。
アーティストやスタッフ間の関係性、培ってきた時間の長さがあります。番組の基本的なスタンスとしては、ご出演いただくアーティストのやりたいことを叶えていくというアプローチがあります。
いつもと同じように撮っていくのではなく、個々のアーティストに対してこちらからアプローチしていくようにしています。そして制作が技術に対して寛容で、新しい技術を埋め込みやすい環境があることも確かだと思います。

CDTVライブ!ライブ!が新しい演出に挑戦できるのは、長年にわたる関係性が背景にあるそうだ

CBK-RPU7を、これからどんな番組やイベントに活かしていきたいと思われますか

鈴木氏:

これはぜひ生放送でやってみたいですね。今回の検証のように、ライブスイッチングではなくポスプロ編集を入れるとどうしてもきれいに作りたくなってしまう部分も出てきます。アーティストや楽曲次第では、こうしたライブ感や躍動感が強い武器をもっと全面に出すような映像もやってみたいですね。
我々が安定して放送を出さなきゃいけないという意味における有線と、演出としての遊び心と言うか、特殊な一歩踏み出すためのワイヤレスがあると思います。そして大判のカメラだからこそのボケ味と、一方では小さいセンサーのいいところもあります。
こうしたものを適宜使い分けたり、組み合わせることを続けていきたいと思っています。
たとえば客入れしてお客さんのスマホを撮影に活用すると、我々番組スタッフが撮れないような画が取れるかもしれない。そんなことも最初から否定してはいけないと思います。いずれにせよ、継続的なトライアルをすることが重要ですね。
それを続けていくことで、また新たなアイディアや相談が社内から生まれてくると思います。

 
鈴木氏(左)、間島氏(右)に今後とも革新的な映像表現を期待したい

今回話を伺って強く感じたことがある。

まず何よりも、既存の枠組みに囚われることのない技術に対する探究心と好奇心を感じた。そして何よりも、技術者であると同時に、根っからのクリエイターだなと感じさせるお二人であった。

CBK-RPU7のような映像伝送機器をいち早くアグレッシブに取り入れることで、アーティストもそれにビビッドに反応して今回のような仕上がりになったと思う。ぜひ生放送、ライブイベントでさらにアグレッシブな画を見せていただきたいと感じた。