キヤノンマーケティングジャパン(東京都港区)は、11月8日、9日、15日、16日の4日間、東京・品川にあるキヤノンSタワー3階のホールSで、EOS 5D Mark IIプレミアム発表会を開催した。4日間の会期中、延べ5千人の参加者があった。同イベントは、名古屋・名古屋国際センターホール別棟(22日)、大阪・梅田ステラホール(23日、24日)でも実施するほか、11月下旬に発売した後は特別体験会として札幌(12月6日)、仙台(11月29日)、広島(12月6日)、福岡(11月29日)のキャノンマーケティングジャパン各支店でデモを実施する。 キヤノンEOS 5D Mark IIは、35mmフルサイズ2110万画素CMOSセンサーを採用したデジタル一眼レフカメラ。新しくなった画像処理エンジンDIGIC 4と、スチルカメラでありながらフルHD解像度(1920×1080)で30fpsのプログレッシブ動画を記録できることが大きな特徴だ。35mmフルサイズで豊富なカメラレンズを使用できることで、スチルカメラマンだけでなく動画カメラマンからも注目されるものとなっている。特に明るい大口径レンズを使用することによって被写界深度の浅い映像が撮れることから、映画やCMへの利用もできるのではないかという期待感も高まっている。 プレミアム発表会では、石橋睦美、十文字美信、米美知子のプロ写真家三氏が、「EOS Mark IIで撮影する風景写真」と題したスペシャルセミナーを行ったほか、発売直前の実機を片手に撮影できる体験スペースを設置した。体験スペースの一角には、動画撮影機能を紹介するコーナーを設置。EOS 5D Mark IIで撮影しHD編集を行ったコンテンツをハイビジョンテレビに再生していた。ハイビジョンテレビの横ではWindows PCを使用して、ハイビジョン収録素材を確認できるように配慮していた。実際に撮影した映像を見てみると、明らかにこれまでのビデオカメラで撮影したものとは異なるものだ。被写界深度が浅く、ピントが合っている位置の前後で大きくボケが生じているのは、やはりイメージセンサー自体の面積が大きく、明るい大口径レンズを使用していることのメリットだと感じた。 以下の、映像に関するコメントは、プレミアム発表会で開発機を使用して撮られた映像を見た段階でのコラムであることを、あらかじめ断っておく。

魅力的なデジタル一眼レフによる動画撮影だが……

デジタル一眼レフの魅力は豊富な交換レンズ群だ。単焦点レンズからズームレンズまで、さまざまなレンズを交換しながら使用できることは、作品作りに大きく貢献しそうだ。だが、いくつか気になることも出てきた。デジタル一眼レフに動画機能を搭載したことで、カタログスペック上は動画中のオートフォーカスはライブモード、顔優先モードで利用できることになってはいるが、ピントが合うまでに時間がかかることがあるという。展示説明員は「動画中のオートフォーカスは使用できないというわけではないが、マニュアルフォーカスをオススメします」と話した。 マニュアルフォーカスは、ライブビューに対応したカメラ背面の3.0型液晶モニターで確認しながら行う必要がある。構図を確認するには十分な大きさと明るさがある液晶モニターだが、動画収録のフォーカス確認に使うには頼りない。フォーカスフレームを拡大表示することも可能だが、それでは全体の構図を確認することが出来なくなってしまう。ビデオ撮影をしたことのある人にとっては、外部モニタ出力が欲しいと感じるかもしれない。EOS 5D Mark IiはHDMI出力を持ち、収録したコンテンツをケーブル1本でハイビジョンテレビに表示できる。しかし、ハードウェアの処理速度との兼ね合いで、残念なことに動画収録中のHDMI出力はできないという。マニュアルフォーカスは背面の液晶モニターだけで行わざるを得ない。動きのあるものを撮影する時は注意が必要だ。 こうした理由もあるためか、プレミアム発表会で公開された映像では大きな動きのある被写体は少なく、三脚でカメラを固定して撮ったものばかりとなっていた。動きのある被写体をパンニングをして追いかけた映像はなかったため、本来の実力は分からなかった。しかし、Windows PCの素材を見たところ、石が投げ込まれた水面や速い流れのある滝などの映像で、MPEG特有のノイズが認められた。テスト機による映像ではあったが、カメラ固定でパンニングしていない映像で生じたノイズで、ビットレートが不足しているように感じた。 映像のビットレートをたずねたところ、可変ビットレートを採用して平均5.5Mbpsになるという。4GBのコンパクトフラッシュメディアにフルHDで12分、SDで24分の収録ができるが、動画品質を設定するメニューはない。しかも、音声収録はリニアPCMによってなされているために、映像部分のビットレートはさらに下がってしまう。約5Mbpsの動画品質と見れば、AVCHDカメラの最低画質LPモード並み。せっかく35mmフルサイズのイメージセンサーでフルHD収録が可能となっているというのにもったいないと言わざるを得ない。

残された疑問……なぜH.264+リニアPCMにしたのか

キヤノンは、今秋発売の新画像エンジンのDIGIC 4搭載機種から映像フォーマットにH.264+リニアPCMのQuickTime MOV形式を採用した。映像品質とファイルサイズを考慮すれば、ISO MPEG4 Part10/AVCであるH.264の採用にはうなずける。それであるならば、オーディオ部分にDolby DigitalやAACを採用して、AVCHDやISO MPEG-4基準にするべきではなかったか。オーディオ部分だけリニアPCMを採用して、わざわざQuickTime MOV形式にした理由をたずねたが、展示解説員から明確な答えは得られなかった。ビデオカメラ開発もしているキヤノンでありながら、ノンリニア編集素材で使うにも、他の形式に変換してから使わざるを得ないフォーマットをわざわざ採用した理由が全く見えてこない。 キヤノンとして、EOS 5D Mark IIはフルHDが撮れる最初の機種として、コンシューマー向けに投入するつもりであったようだ。しかし、35mmイメージセンサーを使ってフルHDが撮れるというところで、価格と性能のバランスから映画やCMなど高品質な映像表現を求めるカメラマンが注目してしまったことは大きな誤算であったかもしれない。フルHD収録ができるカメラとして見たEOS 5D Mark IIとして、いささか厳しいコメントになってしまったかも知れない。もちろん、35mmデジタルスチルカメラとしては非常に魅力的な製品であったし、映像収録においても明るいレンズの使用によってフォーカス位置の前後で大きくボケた映像は、ビデオカメラに新たな地平を拓いたといえる。まして、35mmフルサイズのシネマカメラの価格を考えれば、EOS 5D Mark IIの約30万円というボディ価格は衝撃的だ。実機は、今月末にいよいよ発売される。

WRITER PROFILE

秋山謙一

秋山謙一

映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。