DJIが体系化したハンドヘルド映像技術テクニカル ガイドブックには、RoninからOsmoシリーズへと積み重ねてきた12年の開発思想が、「映像の民主化」「カラーサイエンス」「エコシステム連携」「コンピューテーショナルフォトグラフィ」という4つの技術的支柱として整理されている。
その最新の到達点にあるのが、1インチCMOSとデュアルレンズを搭載した新型ポケットシネマカメラ「Osmo Pocket 4P」である。さらに、その映像表現の可能性を実写で検証するプロジェクトとして、日本を代表する写真家・映像作家である瀧本幹也氏とのコラボレーションによるショートフィルムが進行している。
本稿では、DJIのハンドヘルド映像技術の系譜とテクニカル ガイドブックの要点、Osmo Pocket 4Pの技術的特徴、そして瀧本氏の作品世界という3つの視点から、このプロジェクトの全体像を紹介する。
Ronin と Osmo、12年の蓄積が導くテクニカル ガイドブック
DJIのハンドヘルド映像機の歴史は、Roninシリーズによる3軸メカニカルジンバルの民主化から始まった。かつて大規模なクルーと専用機材を必要としたスタビライズ撮影を、単独のオペレーターでも実現可能にしたことは、映像制作のワークフローそのものを変える出来事だった。その延長線上にあるOsmoシリーズは、ジンバル・センサー・レンズ・演算処理を一体化させ、「ひとりでも、映画のような映像を」撮れる領域を広げ続けてきた。テクニカル ガイドブックが体系化するこの歩みは、単なる過去の実績紹介ではなく、現在のOsmo Pocket 4Pに至る技術的な必然性を説明するものだ。
4つの柱から解説している。
◼︎映像の民主化:LiDARレーザーフォーカス、O3 Pro映像伝送、3軸メカニカルジンバルなどにより、かつては大規模なクルーが必要だったカメラワークを、1人または少人数のチームで実現できるようにしてきた歩みを整理する。
◼︎カラーサイエンスDCCS:DJI Cinema Color System(DCCS)による正確なスキントーン再現と、D-Log 2による編集時のラティチュード(グレーディング耐性)の拡大について解説する。日本のクリエイターが重視する「肌の色の再現性」に踏み込んだ内容だ。
◼︎エコシステムの連携:映像トランスミッターやモニターから、Osmo・Ronin・Inspireといった空撮・地上撮影機材まで、シームレスに連携するワークフロー設計を紹介する。
◼︎コンピューテーショナルフォトグラフィ:内蔵ND、AIアシスト機能、ActiveTrackによるスマートトラッキングなど、演算能力によって映像制作そのものを再定義するという考え方を提示している。
なお、テクニカル ガイドブックが示す17ストップのダイナミックレンジなどのスペックは、いずれも特定モード・制御条件下での測定値であり、検証可能な出典のない絶対的な表現は避けるという方針が示されている。以降のスペック紹介もこれに従う。
Osmo Pocket 4P─ポケットに収まる映像システム

そのテクニカル ガイドブックの4本柱を実機として体現するのがOsmo Pocket 4Pだ。本体重量は約230gながら、以下の映像システムを搭載する(※特定モードでの仕様・量産モデルの社内測定値を含む)。
- センサー/レンズ:1インチCMOS+デュアルレンズ(広角20mm/F2.0+望遠60mm/F1.8、3倍光学ズーム)
- ダイナミックレンジ:17ストップ、10-bit D-Log 2記録に対応し、逆光や夜景など高コントラストなシーンでの階調保持とグレーディング耐性を確保する
- ハイフレームレート:4K/240fps撮影(最大8倍スローモーション)、Slow Shutter Videoに対応
- スタビライズ/トラッキング:3軸メカニカルジンバル+ActiveTrack 8.0。人物・車両・動物などを12倍ズーム時でも追尾可能とする
- インターフェース:ジェスチャー操作、OsmoAudio連携、ND/ブラックミストフィルター、拡張バッテリーハンドル、USB 3.1(最大800MB/s)、最大210分駆動する

これらのスペックは単体で見ても充実しているが、注目すべきはその組み合わせ方だ。デュアルレンズと高いダイナミックレンジ、AIによるトラッキングという要素が、単独ではなく一体のシステムとして機能することで、撮影者は画角選択・露出・被写体追従といった反復的な技術作業の多くを機材に委ね、演出やフレーミングといった創造的な判断に集中できるようになる。これは、テクニカル ガイドブックが掲げる「コンピューテーショナルフォトグラフィ」という支柱そのものを、実機の使用感として体現したものと言える。
デュアルレンズによる画角の切り替えは、広角で空間を構築し、望遠で人物のディテールを描写するという映像表現上の使い分けを1台で完結させ、レンズ交換やサブカメラの必要性を減らす。これは次章で紹介する瀧本幹也氏のショートフィルムでも重要な役割を果たす。
こうした要素は、前章のテクニカル ガイドブックが示した4本柱―映像の民主化、DCCSカラーサイエンス、エコシステム連携、コンピューテーショナルフォトグラフィ―をそのまま製品仕様に落とし込んだ構成であり、Osmo Pocket 4Pは同社が積み上げてきたハンドヘルド映像技術の現在地を示すモデルと言える。
瀧本幹也─光と影を見つめ続けてきた写真家が、ポケットシネマカメラに向き合う
瀧本幹也
瀧本幹也は1974年愛知県生まれの写真家、映像作家。藤井保氏に師事後、98年より写真家として活動を開始する。幼少期に天体観測に親しみ、星空を仰いでは宇宙と自分がひとつながりであると実感した体験が、心に深く刻まれる。写真と映像で培った表現力は、是枝裕和監督作『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』、Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』、短編映画『ラストシーン』で撮影監督を務めるなど、映像分野にも活かされている。
広告・映画・アート写真など幅広い分野で活躍し、究極の光と影、そして情緒豊かな作品世界で知られる瀧本氏。今回、DJIとのコラボレーションプロジェクトとして、Osmo Pocket 4Pで撮影したショートフィルムの制作に取り組み、プロの映像作家自身の視点から「小型カメラにおけるシネマ表現の可能性」を探る。
このプロジェクトの主眼は、スペック検証ではなくクリエイティビティにある。ショートフィルムのテーマ、感情、映像言語こそが主役であり、Osmo Pocket 4Pは「アイデアを機材の限界で妥協させない」ためのツールとして位置づけられている。

約230gという軽量ボディと3軸メカニカルジンバルによるスタビライズは、従来の機材では難しかったアングル、カメラワーク、撮影のテンポを実現する。そのうえで、D-Log 2と17ストップのダイナミックレンジ、DCCSカラーサイエンスがプロフェッショナルなカラーグレーディングと感情表現を支え、デュアルレンズは広角で空間を構築し、望遠で人物を描くという視覚的文法を1台で完結させる。

オリジナル ショートフィルム『存在の不確かな彼女』は、島根県の歴史的な銀山町・石見銀山に引っ越してきた主人公が、ささやかな菓子を届ける道すがら、何度も迷いながら、少しずつ町との関係を築いていく物語だ。瀧本氏は、この作品をロードムービーとして構想し、石見銀山の江戸時代から残された風景を舞台として選んだ。作品全体が DJI Osmo Pocket 4Pのみで撮影されている。
瀧本氏:Osmo Pocket 4P、最初の印象は、思いのほかよく出来ているということです。映像も相当綺麗に映ります。撮影したデータを持ち込んでグレーディングしてみたところ、ハイライトから暗部に至るまでトーンの階調が保持されていました。スタビライザーのパフォーマンスも見事で、このカメラがDJIのドローン技術から応用されて作られたものだということを実感させられました。
カメラの軽量なフォームファクターは、前例のない身体的自由をもたらしたことは言うまでもない。
瀧本氏:図書館の本棚越しに主人公を追うシーンでは、通常であればレール敷設が必要になるような撮影ですが、このカメラの軽さと扱いやすさのおかげで実現できました。
この身軽さはスピーディな移動シーンにおいても重要な役割を果たし、ジンバルのスタビライザーと自動フォーカスが被写体の顔に正確にロックオンし、予想を上回る精度を発揮した。デュアルレンズシステムにより、町の広景から人物の表情へ、瞬時に視点を切り替えることが可能になり、セットアップ時間を大幅に短縮し、出演者への負担を軽減させることができたと瀧本氏は語る。
瀧本氏:東京から照明を持ってきたのですが、一度も使うことはありませんでした。
瀧本氏が特に驚いた特長は、カメラの17ストップのダイナミックレンジだった。日中の通りから薄暗い室内への移動など、極端な照度変化に対応し、完璧な露出と色再現を実現し、まさに人間の目が知覚する光と影を映像化させた。センサーの広大なラティチュードにより、瀧本氏は屋内のキッチンシーン撮影を自然光だけで行うことができたという。
瀧本氏:グレーディング後の印象として、それがOsmo Pocket 4Pで撮影されたものだということを忘れてしまうほどです。大型カメラと比べても全く劣るものではありません。
このショートフィルムは、映画・映像業界のプロフェッショナル層に向けて、Osmo Pocket 4Pの表現力を作家の視点から検証できる事例となった。

まとめ
DJIのハンドヘルド映像技術テクニカル ガイドブックは、RoninからOsmoへと続く12年以上の技術蓄積を、「映像の民主化」「カラーサイエンス」「エコシステム連携」「コンピューテーショナルフォトグラフィ」という4本柱で体系化したものだ。
その現在地を示すOsmo Pocket 4Pは、1インチCMOS・デュアルレンズ・17ストップのダイナミックレンジ・ActiveTrack 8.0といった要素を約230gの筐体に統合し、ポケットサイズでのシネマ表現を追求するモデルとなっている。
そして、その可能性を実写で検証する瀧本幹也氏とのショートフィルムプロジェクトは、技術と作家性が交差する地点を示す試みだ。今一度、作品を味わって欲しい。プロフェッショナルの映像作家自身が、小型カメラという条件のもとで何を選び、何を諦めなかったのか―その軌跡そのものが、Osmo Pocket 4Pの実力を語る何よりの証左になるはずだ。
※記載のスペックは特定のモードおよび制御された条件下での測定に基づき、実際の使用環境によって結果が異なる場合がある。